6-3 冪零群と中心列

$$$$

可解群は交換子を繰り返して複雑さを減らします。冪零群ではそれより強く、中心に入る層を一段ずつ積み上げて群全体へ到達できます。このページでは上中心列と下中心列が同じ性質を測っていることを証明します。

上中心列

$Z_0(G)=\{e\}$ と置き、商写像
$$ \pi_i:G\to G/Z_i(G) $$
に対して
$$ Z_{i+1}(G)=\pi_i^{-1}\bigl(Z(G/Z_i(G))\bigr) $$
と定めます。これを上中心列といいます。

冪零群と冪零度

ある $c\ge0$ で $Z_c(G)=G$ となるとき、$G$ を冪零群という。そのような最小の $c$ を冪零度という。

$c=1$ はちょうど非自明な可換群です。冪零度2では群自体は非可換でも、中心で割れば可換になります。

上中心列の交換子判定

$x\in G$ に対し
$$ x\in Z_{i+1}(G) \quad\Longleftrightarrow\quad [g,x]\in Z_i(G)\quad(\forall g\in G). $$

$xZ_i(G)$ が $G/Z_i(G)$ の中心にあることは、任意の $g$ に対して
$$ (gZ_i)(xZ_i)=(xZ_i)(gZ_i) $$
となることです。これは
$$ gxg^{-1}x^{-1}=[g,x]\in Z_i(G) $$
と同値です。上中心列の定義と合わせれば主張を得ます。□

下中心列

下中心列

$$ \gamma_1(G)=G, \qquad \gamma_{i+1}(G)=[G,\gamma_i(G)] $$
で定まる列を下中心列という。ここで $[G,N]$ は $[g,n]$($g\in G,n\in N$)すべてで生成される部分群である。

定義から
$$ G=\gamma_1(G)\trianglerighteq\gamma_2(G) \trianglerighteq\gamma_3(G)\trianglerighteq\cdots $$
です。$\gamma_2(G)=[G,G]$ は交換子部分群です。

二つの中心列の同値

次は同値である。

  1. $Z_c(G)=G$。
  2. $\gamma_{c+1}(G)=\{e\}$。
    従って冪零度は下中心列が自明になるまでの段数からも読める。

まず $Z_c(G)=G$ とします。上中心列の交換子判定から
$$ [G,Z_j(G)]\le Z_{j-1}(G) $$
です。$\gamma_1(G)=G=Z_c(G)$ から始めて帰納すると
$$ \gamma_i(G)\le Z_{c-i+1}(G) $$
を得ます。$i=c+1$ で
$$ \gamma_{c+1}(G)\le Z_0(G)=\{e\}. $$
逆に $\gamma_{c+1}(G)=\{e\}$ とします。まず
$$ \gamma_{c+1}(G)=\{e\}=Z_0(G). $$
もし $\gamma_{c+1-i}(G)\le Z_i(G)$ なら、$x\in\gamma_{c-i}(G)$ に対して
$$ [G,x]\le [G,\gamma_{c-i}(G)] =\gamma_{c+1-i}(G)\le Z_i(G). $$
交換子判定により $x\in Z_{i+1}(G)$。従って
$$ \gamma_{c-i}(G)\le Z_{i+1}(G). $$
帰納して $G=\gamma_1(G)\le Z_c(G)$、ゆえに $Z_c(G)=G$ です。□

例:$D_4$ と $Q_8$

$D_4=\langle r,s\mid r^4=s^2=e,\ srs=r^{-1}\rangle$ では
$$ Z(D_4)=\{e,r^2\}. $$
また $D_4/Z(D_4)$ は $C_2\times C_2$ と同型で可換です。従って
$$ Z_1(D_4)=\{e,r^2\}, \qquad Z_2(D_4)=D_4, $$
で、冪零度は2です。交換子は
$$ [s,r]=srs^{-1}r^{-1}=r^{-2}=r^2 $$
なので、下中心列も
$$ D_4\trianglerighteq\langle r^2\rangle \trianglerighteq\{e\} $$
となります。
$Q_8=\{\pm1,\pm i,\pm j,\pm k\}$ でも
$$ Z(Q_8)=\{\pm1\}, \qquad Q_8/Z(Q_8)\cong C_2\times C_2, $$
なので冪零度2です。

冪零なら可解

冪零群は可解

冪零群は可解である。

$Z_c(G)=G$ とします。各因子
$$ Z_{i+1}(G)/Z_i(G) $$
は $G/Z_i(G)$ の中心の部分群なので可換です。従って
$$ \{e\}=Z_0(G)\trianglelefteq Z_1(G) \trianglelefteq\cdots\trianglelefteq Z_c(G)=G $$
は可換因子だけをもつ正規列です。
自明群から始め、各短完全列
$$ 1\to Z_i(G)\to Z_{i+1}(G) \to Z_{i+1}(G)/Z_i(G)\to1 $$
へ可解群の拡大閉性を順に適用すると、$G$ は可解です。□

逆は成り立ちません。$S_3$ は可解ですが
$$ \gamma_2(S_3)=A_3. $$
互換 $t$ が3-cycle $a$ を $a^{-1}$ へ共役するので、$[t,a]$ は $A_3$ の非自明な元です。従って
$$ [S_3,A_3]=A_3, $$
すなわち $\gamma_i(S_3)=A_3$ が $i\ge2$ で続き、自明群へ到達しません。

部分群・商群・直積

冪零性の遺伝

$G$ が冪零なら、その任意の部分群と商群も冪零である。また有限個の冪零群の直積は冪零であり、その冪零度は各因子の冪零度の最大値である。

$H\le G$ なら、下中心列の定義から帰納的に
$$ \gamma_i(H)\le\gamma_i(G). $$
従って $\gamma_{c+1}(G)=e$ なら $\gamma_{c+1}(H)=e$。
全射 $\pi:G\to Q$ に対しては、交換子が準同型で保たれるので
$$ \gamma_i(Q)=\pi(\gamma_i(G)) $$
が帰納的に従います。従って商群でも下中心列は同じ段数までに止まります。
直積では成分ごとに交換子を計算できるため
$$ \gamma_i(G_1\times\cdots\times G_r) =\gamma_i(G_1)\times\cdots\times\gamma_i(G_r). $$
よって全成分が自明になる最初の段は、各成分の停止段の最大値です。□

上単三角行列群

体 $K$ 上の行列
$$ u(a,b,c)= \begin{pmatrix} 1&a&c\\ 0&1&b\\ 0&0&1 \end{pmatrix} $$
全体が群 $U_3(K)$ をなすことを示し、中心と冪零度を求めよ。

解答

行列積を計算すると
$$ u(a,b,c)u(a',b',c') =u(a+a',b+b',c+c'+ab'). $$
単位元は $u(0,0,0)$、逆元は
$$ u(a,b,c)^{-1}=u(-a,-b,ab-c) $$
なので群です。さらに
$$ [u(a,b,c),u(a',b',c')] =u(0,0,ab'-a'b). $$
従って $u(0,0,c)$ はすべて中心に入ります。逆に $u(a,b,c)$ が全元と可換なら、$(a',b')=(0,1),(1,0)$ を代入して $a=b=0$。ゆえに
$$ Z(U_3(K))=\{u(0,0,c):c\in K\}. $$
$K$ が零体でない限り群は非可換で、商は可換なので冪零度は2です。□

有限 $p$ 群

有限 $p$ 群の中心が非自明であることと、商群も $p$ 群であることを用いて、有限 $p$ 群が冪零であることを示せ。

解答

$|G|$ に関する帰納法を使います。$G=e$ なら明らか。非自明な有限 $p$ 群では類等式から $Z(G)\ne e$。商 $G/Z(G)$ はより小さい有限 $p$ 群なので、帰納法によりある $c$ でその上中心列が全体へ到達します。商の上中心列を $G$ へ逆像で引き戻すと、$G$ の上中心列は一段多く進んで $G$ 全体へ到達します。従って $G$ は冪零です。□

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する

前ページへ
群論 ― 準同型・群作用・Sylow の定理と有限群の分類の表紙
次ページへ