8-1 作図可能数

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定規とコンパスで増える次数

最初の点を $(0,0),(1,0)$ とし、得られた点の全座標が作る実部分体を $F$ とする。二直線の一意な交点は $F$ 上の二元一次方程式で求まる。直線と円では直線の式を円へ代入すると $F$ 係数の高々二次式となり、二円では方程式を引けば一次式が得られて直線と円の場合へ戻る。従って一回の交点操作で得る実座標は $F$ または $F(\sqrt d)$ に入る。二つの交点を同時に得ても、二次方程式の根の和は $F$ にあるため、同じ二次拡大で足りる。
逆向きも必要である。向きのある線分を数として表せば、和・差は線分の移動で、積・商は平行線で作る相似三角形で得られる。例えば二本の半直線上に長さ $1,a$ と $b$ を置き、$1$ と $b$ を結ぶ線に平行な線を $a$ から引けば、対応する長さは $ab$ になる。長さ $b,a$ と $1$ を使えば同様に $a/b$ を作れる。$a\ge0$ の平方根には長さ $a,1$ を続けた直径 $a+1$ の半円を描き、二線分の境から垂線を立てる。その高さ $h$ は相似な直角三角形から $h^2=a$ を満たす。
よって実数 $a$ の作図可能性は、$a$ が
$$\mathbf Q=K_0\subseteq K_1\subseteq\cdots\subseteq K_r\subseteq\mathbf R,\qquad [K_i:K_{i-1}]\le2\tag{1}$$
という実二次拡大塔の最後の体に入ることと同値である。順方向は各交点操作を上の代数計算へ写せばよい。逆方向では、実二次拡大は $K_i=K_{i-1}(\sqrt{d_i})$、$d_i\in K_{i-1}$ で $d_i>0$ と書け、四則演算と平方根の作図を各段に繰り返す。塔の法則から $[\mathbf Q(a):\mathbf Q]$ は2の冪を割り、従って2の冪である。
注意。 次数が2の冪であることだけでは作図可能とは限らない。必要なのは二次拡大の塔に入ることである。逆向きの構成では、体の四則演算と正数の平方根を幾何的に実現することを使う。
この違いは分解体を見ると明瞭になる。分離多項式 $f\in\mathbf Q[T]$ の分解体 $L$ のGalois群が2群なら、指数2ずつの部分群列とGalois対応から $L$ は二次拡大塔で得られる。複素根の実部・虚部は、必要なら $i$ を加えた2群拡大の中で同じ操作により作図できる。逆に作図可能な代数的実数を含む二次塔の正規閉包は、各段の全共役の平方根を追加して作れるので次数は2の冪であり、その数の最小多項式の分解体のGalois群も2群となる。これは判定の一般論で、個別の作図では式 (1) を直接示せば十分である。

正多角形の一般判定

$n\ge3$ とする。正 $n$ 角形を作図することは、$\zeta_n=e^{2\pi i/n}$ の実部と虚部を作図することと同値である。第7章の円分体の結果 $[\mathbf Q(\zeta_n):\mathbf Q]=\varphi(n)$ および $\operatorname{Gal}(\mathbf Q(\zeta_n)/\mathbf Q)\cong(\mathbf Z/n\mathbf Z)^\times$ を使えば、次の完全判定を得る。
$$\boxed{\text{正}n\text{角形が作図可能}\quad\Longleftrightarrow\quad\varphi(n)\text{ が2の冪}}\tag{2}$$
右向きは $\zeta_n+\zeta_n^{-1}=2\cos(2\pi/n)$ が作図可能で、$n\ge3$ ではその体の次数が $\varphi(n)/2$ であることから従う。実際、$\zeta_n$ は $T^2-(\zeta_n+\zeta_n^{-1})T+1$ を満たし、非実数なので実部分体からの次数は2である。左向きは円分体のGalois群の位数 $\varphi(n)$ が2の冪なら群が2群であり、直前の判定で $\zeta_n$ の両座標が作図可能になることから従う。
$n=2^k\prod_jp_j^{e_j}$ と奇素数 $p_j$ に分けると
$$\varphi(n)=\varphi(2^k)\prod_j p_j^{e_j-1}(p_j-1)\tag{3}$$
これが2の冪であるには全ての $e_j=1$ で、各 $p_j-1$ が2の冪でなければならない。$p_j=2^m+1$ が素数なら $m$ も2の冪である。もし $m=2^s q$、$q>1$ が奇数なら、$X=2^{2^s}$ と置いて $2^m+1=X^q+1$ が $X+1$ で割れるからである。従って各 $p_j$ は $2^{2^s}+1$ 型のFermat素数。逆に相異なるFermat素数を一度ずつ掛け、任意の2の冪を加えた $n$ では式 (3) が2の冪となる。これでGauss–Wantzel判定
$$\boxed{n=2^k p_1\cdots p_r\quad(p_j\text{ は相異なるFermat素数})}\tag{4}$$
が証明された。式 (2) の前提となる一般円分多項式の既約性は第7章で示した。

正七角形と正五角形

$u=2\cos(2\pi/7)=\zeta_7+\zeta_7^{-1}$ は $u^3+u^2-2u-1=0$ を満たす。これは $1+\zeta_7+\cdots+\zeta_7^6=0$ を逆数の対でまとめると得られる。$\pm1$ は根でないので三次式は有理数上既約。$[\mathbf Q(u):\mathbf Q]=3$ だから正七角形は作図できない。一方 $\mathbf Q(\zeta_5)/\mathbf Q$ のGalois群は $C_4$。部分群列 $C_4\supset C_2\supset1$ に対応する二次拡大の塔に $\zeta_5$ が入り、正五角形の頂点座標は作図可能である。
演習。 正三角形の頂点座標が作図可能であることを体の次数で説明せよ。
解答。 $\zeta_3$ は $x^2+x+1$ の根で、$\mathbf Q(\zeta_3)$ は二次拡大。実部 $-1/2$、虚部 $\sqrt3/2$ は四則演算と平方根で作れる。
演習。 $\sqrt[3]{4}$ が作図できないことを示せ。
解答。 $T^3-4$ は有理根候補 $\pm1,\pm2,\pm4$ を持たず、三次なので $\mathbf Q$ 上既約。従って $[\mathbf Q(\sqrt[3]{4}):\mathbf Q]=3$ であり、式 (1) の必要条件に反する。
演習。 $\alpha=\sqrt{2+\sqrt2}$ の作図可能性と最小多項式を求めよ。
解答。 $\mathbf Q\subset\mathbf Q(\sqrt2)\subset\mathbf Q(\sqrt2,\alpha)$ は二次塔なので作図可能。$\alpha^4-4\alpha^2+2=0$。次数4の確認には、$\alpha^2-2=\sqrt2$ と $\alpha\notin\mathbf Q(\sqrt2)$ を使う。もし $\alpha=a+b\sqrt2$、$a,b\in\mathbf Q$ なら $a^2+2b^2=2,\ 2ab=1$。$u=a^2$ は $2u^2-4u+1=0$ の有理根となる必要があるが、根 $1\pm\sqrt2/2$ は無理数。よって塔の両段は真の二次拡大で、この四次式が最小多項式である。
演習。 正九角形が作図できないことを示せ。
解答。 作図できれば $2\cos(2\pi/9)=\zeta_9+\zeta_9^{-1}$ は作図可能。しかし最大実部分体の次数は $\varphi(9)/2=3$ で、二次塔の次数条件に反する。
演習。 $n=7,10,12,15,18,20,51$ について正 $n$ 角形の作図可能性を判定せよ。
解答。 Euler関数の値は順に $6,4,4,8,6,8,32$。式 (2) から $7,18$ は不能、$10,12,15,20,51$ は可能。特に $51=3\cdot17$ は相異なるFermat素数の積である。
演習。 $2^{12}+1$ が素数でないことを因数分解で示せ。
解答。 $12=4\cdot3$ なので $X=2^4$ と置けば $2^{12}+1=X^3+1=(X+1)(X^2-X+1)=17\cdot241$。

参考文献

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