3-2 分離多項式と分離拡大

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次数 $n$ の既約多項式の根を一つ選ぶと、単純拡大は $n$ 次になります。一方、その拡大を代数閉包へ埋め込む方法は、選んだ根を同じ最小多項式の別の根へ送ることで得られます。根が $n$ 個すべて異なれば埋め込みも $n$ 個あります。根が重なれば、その分だけ埋め込みは少なくなります。分離性は、この二つの数が一致するための条件です。
以下、代数閉包 $\overline K$ を一つ固定します。

分離多項式

分離多項式

零でない $f\in K[x]$ が $\overline K$ で重根をもたないとき、$f$ を $K$ 上**分離多項式|分離的という。重根をもつとき非分離多項式|非分離的**という。

前の頁の重根判定を言い換えると、ただちに計算法が得られます。

分離性の微分判定

零でない $f\in K[x]$ に対して
$$ f\text{ は分離的} \quad\Longleftrightarrow\quad \gcd(f,f')=1. $$

$f$ が非分離的であることは、$f$ と $f'$ が代数閉包で共通根をもつことと同値です。共通根の最小多項式は $K[x]$ で $f,f'$ の両方を割るため、これは最大公約数が正次数であることと同値です。□

既約多項式では判定がさらに単純です。

既約多項式の分離判定

既約多項式 $p\in K[x]$ について次は同値である。

  1. $p$ は分離的である。
  2. $p'\ne0$。
    従って既約多項式は、すべての根が異なるか、すべての根が重根であるかのどちらかである。

$p'\ne0$ なら $\deg p'<\deg p$ です。$p$ は既約なので $p$ と $p'$ の最大公約数は1であり、$p$ は分離的です。
$p'=0$ なら $\gcd(p,p')=p$ であり、$p$ は非分離的です。この場合、任意の根 $a$ について $p(a)=p'(a)=0$ なので、すべての根が重根です。□

標数0では、正次数多項式の微分は零になりません。従って次を得ます。

標数0の既約多項式

標数0の体上の既約多項式はすべて分離的である。

正次数の既約多項式 $p$ に対し、標数0では $p'\ne0$ です。既約多項式の分離判定を適用します。□

分離的な元と拡大

分離的な元と分離拡大

代数的元 $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式が分離的であるとき、$\alpha$ は $K$ 上分離的な元|分離的であるという。
代数拡大 $L/K$ のすべての元が $K$ 上分離的であるとき、$L/K$ を**分離拡大**という。

例えば $\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)/\mathbb Q$ は分離拡大です。より一般に標数0の任意の代数拡大は分離的です。標数正でも有限体上では同じ結論になりますが、その証明は後で行います。

単純拡大の埋め込みを数える

$\operatorname{Hom}_K(L,\overline K)$ で、$K$ 上の体埋め込み $L\to\overline K$ 全体を表します。

単純拡大の埋め込み数

$\alpha$ を $K$ 上代数的とし、最小多項式 $p$ の次数を $n$、相異なる根の個数を $r$ とする。このとき
$$ \#\operatorname{Hom}_K(K(\alpha),\overline K)=r\le n. $$
特に
$$ \#\operatorname{Hom}_K(K(\alpha),\overline K) =[K(\alpha):K] $$
であることと、$\alpha$ が $K$ 上分離的であることは同値である。

$K$ 上の埋め込み $\sigma$ は
$$ 0=\sigma(p(\alpha))=p(\sigma(\alpha)) $$
を満たすので、$\sigma(\alpha)$ は $p$ の根です。逆に $p$ の各根 $\beta\in\overline K$ に対し、単純代数拡大への埋め込み延長定理から
$$ \sum_{i=0}^{n-1}a_i\alpha^i \longmapsto \sum_{i=0}^{n-1}a_i\beta^i $$
という一意な $K$ 上の埋め込みが存在します。従って埋め込みと相異なる根は一対一に対応します。$[K(\alpha):K]=n$ なので後半も従います。□

具体的に、$\mathbb Q(\sqrt[3]2)$ から $\mathbb C$ への $\mathbb Q$ 上の埋め込みは
$$ \sqrt[3]2\longmapsto \sqrt[3]2,\quad \omega\sqrt[3]2,\quad \omega^2\sqrt[3]2 $$
の3通りです。像が実数体に収まる埋め込みは1通りでも、代数閉包まで許せば次数と同じ3通りになります。

一般の有限拡大で埋め込みを数える

まず、埋め込みは次数より多くなれないことを示します。

埋め込み数の上界

$L/K$ を有限次拡大とする。このとき
$$ \#\operatorname{Hom}_K(L,\overline K)\le[L:K]. $$

$L=K(\alpha_1,\ldots,\alpha_m)$ と書き、塔
$$ K=K_0\subseteq K_1\subseteq\cdots\subseteq K_m=L, \qquad K_i=K_{i-1}(\alpha_i) $$
を取ります。$K_{i-1}$ の一つの埋め込みを固定すると、それを $K_i$ へ延長する方法は、$\alpha_i$ の最小多項式の根の選択に対応するので高々
$$ [K_i:K_{i-1}] $$
通りです。従って全体の埋め込み数は高々
$$ \prod_{i=1}^m[K_i:K_{i-1}]=[L:K] $$
です。□

分離拡大では、各段で根の選択肢が最大数だけ残ります。

分離拡大と埋め込み数

$L/K$ を有限次拡大とする。次は同値である。

  1. $L/K$ は分離拡大である。
  2. $L=K(\alpha_1,\ldots,\alpha_m)$ となる分離的な元 $\alpha_i$ が存在する。
  3. $K$ 上の埋め込み $L\to\overline K$ の個数は $[L:K]$ である。

$1\Rightarrow2$ は、有限次拡大が有限個の基底元で生成され、それらが仮定によりすべて分離的なので従います。
$2\Rightarrow3$:先ほどの塔 $K_i=K_{i-1}(\alpha_i)$ を使います。$\alpha_i$ の $K_{i-1}$ 上の最小多項式は、$K$ 上の分離的な最小多項式を $K_{i-1}[x]$ で因数分解したときの既約因子です。従ってこれも重根をもたず、分離的です。
$K_{i-1}$ の各 $K$ 埋め込み $\sigma$ に対し、係数へ $\sigma$ を施した最小多項式も相異なる根をちょうど $[K_i:K_{i-1}]$ 個もちます。各根への像の選択が埋め込みの延長を与えるので、各段で埋め込み数はこの次数倍になります。従って
$$ \#\operatorname{Hom}_K(L,\overline K) =\prod_{i=1}^m[K_i:K_{i-1}] =[L:K]. $$
$3\Rightarrow1$:任意の $\alpha\in L$ を取り、$E=K(\alpha)$ とします。各 $K$ 埋め込み $E\to\overline K$ を $L$ へ延長する方法は高々 $[L:E]$ 通りなので
$$ \#\operatorname{Hom}_K(L,\overline K) \le [L:E],\#\operatorname{Hom}_K(E,\overline K) \le [L:E][E:K]=[L:K]. $$
左端と右端が仮定により等しいので、途中の不等式も等号です。従って
$$ \#\operatorname{Hom}_K(E,\overline K)=[E:K]. $$
単純拡大の場合の定理から $\alpha$ は分離的です。$\alpha$ は任意なので $L/K$ は分離拡大です。□

塔に関する分離性

分離拡大の塔

$K\subseteq E\subseteq L$ を代数拡大とする。

  1. $L/K$ が分離的なら $E/K$ と $L/E$ は分離的である。
  2. $E/K$ と $L/E$ が分離的なら $L/K$ は分離的である。

まず有限次の場合を示します。$L/K$ が分離的なら、$E$ の元は $L$ の元なので $E/K$ は分離的です。$\alpha\in L$ の $E$ 上の最小多項式は、$K$ 上の分離的な最小多項式の因子なので分離的です。従って $L/E$ も分離的です。
逆に $E/K$ と $L/E$ が有限分離的なら、埋め込みを段階的に数えます。$E$ の各 $K$ 埋め込みは $[L:E]$ 通りに $L$ へ延長されるので
$$ \#\operatorname{Hom}_K(L,\overline K) =[E:K][L:E]=[L:K]. $$
従って $L/K$ は分離的です。
一般の代数拡大では、一つの元 $\alpha\in L$ に関係する有限個の係数と生成元だけを取って有限次の中間塔へ縮め、有限次の場合を適用します。各元が分離的であるという定義から両方向が従います。□

この定理から、固定した代数閉包の中で $K$ 上分離的な元全体は体をなすことも分かります。$\alpha,\beta$ が分離的なら $K(\alpha,\beta)/K$ は有限分離拡大なので、その元 $\alpha-\beta$、$\alpha\beta$、$\beta\ne0$ のとき $\alpha/\beta$ も分離的です。

完全体

完全体

すべての代数拡大が分離的である体、同値にすべての既約多項式が分離的である体を**完全体**という。

完全体の基本例

標数0の体と有限体は完全体である。

標数0の場合は、既約多項式の微分が零にならないので既に示しました。
有限体 $K$ の標数を $p$ とします。もし既約多項式 $f$ が非分離的なら $f'=0$ なので
$$ f(x)=\sum_i a_i x^{pi}. $$
有限集合 $K$ 上の Frobenius 写像 $c\mapsto c^p$ は単射です。実際 $c^p=d^p$ なら $(c-d)^p=0$ なので $c=d$。有限集合の単射は全射なので、各 $a_i=b_i^p$ と書けます。すると
$$ f(x)=\left(\sum_i b_ix^i\right)^p $$
となり、$f$ が既約であることに反します。従ってすべての既約多項式は分離的です。□

演習

標数0での分離性

$f=x^4-2\in\mathbb Q[x]$ が分離的であることを、微分と最大公約数から確かめよ。

解答

$$ f'=4x^3. $$
$x$ は $f$ を割りません。従って $\gcd(x^4-2,4x^3)=1$ であり、$f$ は分離的です。実際、分解体での四根 $\alpha,-\alpha,i\alpha,-i\alpha$ は相異なります。□

埋め込みを列挙する

$L=\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)$ とする。$L$ から $\mathbb C$ への $\mathbb Q$ 上の埋め込みをすべて列挙し、その個数が $[L:\mathbb Q]$ と一致することを示せ。

解答

$\sqrt2$ は $\pm\sqrt2$ のいずれかへ、$\sqrt3$ は $\pm\sqrt3$ のいずれかへ送れます。符号は独立に選べるので
$$ (\sqrt2,\sqrt3)\mapsto (\sqrt2,\sqrt3), (-\sqrt2,\sqrt3), (\sqrt2,-\sqrt3), (-\sqrt2,-\sqrt3) $$
の4通りです。$[L:\mathbb Q]=4$ なので個数は次数と一致します。□

有限体は完全である

$K$ を有限体とする。Frobenius写像 $F(c)=c^p$ が全単射であることを、有限集合上の単射性から証明せよ。

解答

$F(c)=F(d)$ なら
$$ 0=c^p-d^p=(c-d)^p. $$
体には零でない冪零元がないので $c-d=0$、すなわち $c=d$。従って $F$ は単射です。有限集合から自分自身への単射は全射でもあるため、$F$ は全単射です。これにより全係数の $p$ 乗根を $K$ 内で取れ、非分離既約多項式が存在しないことが分かります。□

中間体への分離性

$L/K$ を有限分離拡大、$K\subseteq E\subseteq L$ とする。$L/E$ が分離的であることを、最小多項式の整除関係から示せ。

解答

$\alpha\in L$ を取ります。$K$ 上の最小多項式を $m_K$、$E$ 上の最小多項式を $m_E$ とします。$m_K(\alpha)=0$ で $m_K\in E[x]$ でもあるため、最小多項式の整除性から
$$ m_E\mid m_K\quad\text{in }E[x]. $$
$m_K$ は重根をもたないので、その因子 $m_E$ も重根をもちません。従って $\alpha$ は $E$ 上分離的です。$\alpha$ は任意なので $L/E$ は分離拡大です。□

参考文献

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