異なる体準同型 $\sigma_1,ldots,\sigma_n$ を、体から別の体への関数と見ます。驚くべきことに、係数を像の体から自由に取っても
$$
c_1\sigma_1(x)+\cdots+c_n\sigma_n(x)=0
$$
がすべての $x$ で成立することはありません。ただし全係数が0の場合を除きます。このArtinの独立性補題が、自己同型の個数を拡大次数へ変換します。
$K,L$ を体とし、写像 $f:L\to K$ 全体は、点ごとの加法とスカラー倍
$$
(f+g)(x)=f(x)+g(x),
$$
$$
(cf)(x)=c f(x)
$$
により $K$ ベクトル空間をなします。体準同型はこのベクトル空間の特別な元です。
$L,K$ を体とし、$\sigma_1,ldots,\sigma_n:L\to K$ を相異なる体準同型とする。このとき $\sigma_1,ldots,\sigma_n$ は関数として $K$ 上線形独立である。
すなわち $c_1,ldots,c_n\in K$ が
$$
\sum_{i=1}^n c_i\sigma_i(x)=0
\qquad\text{for all }x\in L
$$
を満たすなら、$c_1=\cdots=c_n=0$ である。
非自明な線形関係があると仮定し、非零係数の個数が最小のものを取ります。零係数を除き、並べ替えて
$$
c_1\sigma_1(x)+\cdots+c_m\sigma_m(x)=0
$$
がすべての $x\in L$ で成立し、各 $c_i\ne0$ とします。$m=1$ なら $x=1$ を代入して $c_1=0$ となり矛盾するので $m\ge2$ です。
$\sigma_1\ne\sigma_m$ なので、ある $a\in L$ が存在して
$$
\sigma_1(a)\ne\sigma_m(a)
$$
です。元の関係へ $ax$ を代入すると
$$
\sum_{i=1}^m c_i\sigma_i(a)\sigma_i(x)=0.
$$
一方、元の関係を $\sigma_m(a)$ 倍すると
$$
\sum_{i=1}^m c_i\sigma_m(a)\sigma_i(x)=0.
$$
両式を引けば
$$
\sum_{i=1}^{m-1}
c_i\bigl(\sigma_i(a)-\sigma_m(a)\bigr)\sigma_i(x)=0.
$$
$\sigma_m$ の項は消え、$\sigma_1$ の係数は仮定から非零です。従って非零項が $m$ 個未満の非自明な線形関係を得て、最小性に矛盾します。ゆえに非自明な関係は存在しません。□
証明は加法性だけでなく、決定的に
$$
\sigma_i(ax)=\sigma_i(a)\sigma_i(x)
$$
という乗法性を使っています。一般の線形写像について同じ主張は成立しません。
独立性補題には行列版があります。
相異なる体準同型 $\sigma_1,ldots,\sigma_n:L\to K$ に対し、ある $a_1,ldots,a_n\in L$ が存在して
$$
M=(\sigma_i(a_j))_{1\le i,j\le n}
$$
が可逆になる。
各 $a\in L$ に評価ベクトル
$$
v(a)=(\sigma_1(a),\ldots,\sigma_n(a))^T\in K^n
$$
を対応させます。これらのベクトルが $K^n$ を張らないと仮定すると、その張る部分空間を消す非零線形汎関数が存在します。従って全ては0でない $(c_1,ldots,c_n)$ が存在して
$$
\sum_{i=1}^n c_i\sigma_i(a)=0
$$
がすべての $a\in L$ で成立します。これはArtinの独立性に反します。よって評価ベクトルは $K^n$ を張り、その中から基底となる $n$ 本 $v(a_1),\ldots,v(a_n)$ を選べます。これらを列に並べた $M$ は可逆です。□
$L/E$ を有限次拡大とする。このとき
$$
|\operatorname{Aut}_E(L)|\le[L:E].
$$
$E$ 上の自己同型は、固定した代数閉包への相異なる $E$ 埋め込みです。埋め込み数が拡大次数以下であることから従います。
Artinの独立性を直接使うこともできます。$E$ 基底 $b_1,ldots,b_d$ を取ると、任意の $x\in L$ への自己同型の値は基底上の値で決まります。$d$ より多い自己同型があれば、それらの評価行を独立にする $d$ 列しかなく、可逆な評価行列の系と矛盾します。□
後半の行列説明を厳密に言えば、$n$ 個の自己同型があれば可逆な $n\times n$ 評価行列を作れます。その列に使う $a_j$ は $d$ 個の基底の線形結合なので、評価行列の列空間は高々 $d$ 次元です。従って $n\le d$ です。
有限分離拡大 $L/E$ の全埋め込みを $\sigma_1,ldots,\sigma_n$ とすると、traceは
$$
\operatorname{Tr}_{L/E}(x)
=\sum_{i=1}^n\sigma_i(x)
$$
です。Artinの独立性により、右辺は関数として恒等的に零ではありません。従って有限分離拡大では、ある $x\in L$ が存在して
$$
\operatorname{Tr}_{L/E}(x)\ne0
$$
となります。
これは非分離拡大との違いです。純非分離拡大では乗法写像の特性多項式が最小多項式の冪となり、traceが恒等的に零になることがあります。
$L=E(\alpha)$ が次数 $n$ の分離単純拡大で、埋め込みが
$$
\sigma_i(\alpha)=\alpha_i
$$
を満たすとします。$a_j=\alpha^{j-1}$ を選ぶと評価行列は
$$
M=
\begin{pmatrix}
1&\alpha_1&\alpha_1^2&\cdots&\alpha_1^{n-1}\\
1&\alpha_2&\alpha_2^2&\cdots&\alpha_2^{n-1}\\
\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots\\
1&\alpha_n&\alpha_n^2&\cdots&\alpha_n^{n-1}
\end{pmatrix}.
$$
その行列式は
$$
\det M=\prod_{1\le i< j\le n}(\alpha_j-\alpha_i)
$$
です。分離性により根は相異なるので行列式は非零です。Artinの独立性の抽象的な評価行列が、単純拡大ではVandermonde行列として目に見えます。
$\sigma,\tau:L\to K$ を異なる体準同型とする。$c\sigma+d\tau=0$ が関数として成立するなら $c=d=0$ を、一般定理を使わず直接示せ。
$x=1$ を代入して $c+d=0$。従って $d=-c$ です。$\sigma\ne\tau$ なので $\sigma(a)\ne\tau(a)$ となる $a\in L$ を取れます。$x=a$ を代入すると
$$
c\bigl(\sigma(a)-\tau(a)\bigr)=0.
$$
括弧内は非零なので $c=0$、従って $d=0$ です。□
$L=\mathbb Q(\sqrt2)$ の二つの $\mathbb Q$ 埋め込みと $a_1=1,a_2=\sqrt2$ から評価行列を作り、行列式を求めよ。
二つの埋め込みは $\sqrt2$ をそれぞれ $\sqrt2,-\sqrt2$ へ送ります。従って
$$
M=\begin{pmatrix}1&\sqrt2\\1&-\sqrt2\end{pmatrix},
$$
$$
\det M=-\sqrt2-\sqrt2=-2\sqrt2\ne0.
$$
よって二つの評価行は独立です。□
$L/E$ が有限分離拡大なら、trace写像 $\operatorname{Tr}_{L/E}:L\to E$ が零写像でないことを示せ。
代数閉包への相異なる $E$ 埋め込みを $\sigma_1,ldots,\sigma_n$ とすると
$$
\operatorname{Tr}_{L/E}=\sigma_1+\cdots+\sigma_n.
$$
もし零写像なら、係数がすべて1の非自明な線形関係になります。Artinの独立性補題に反するため、traceは零写像ではありません。□
$\alpha_1,\ldots,\alpha_n$ が相異なるとき、Vandermonde行列の行が線形独立であることを、その行列式から説明せよ。
Vandermonde行列式は
$$
\prod_{1\le i< j\le n}(\alpha_j-\alpha_i)
$$
です。根が相異なるので各因子は非零であり、体では非零元の積も非零です。従って行列式は非零、行列は可逆で、その行は線形独立です。□
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