「$1$ と $i$ は独立か」という問いには、係数をどこから取るかを指定するまで答えがない。実係数なら独立だが、複素係数なら $i\cdot1-1\cdot i=0$ という関係がある。この違いは表記上の細部ではなく、次元・固有値・対角化を変える。
$K$ が $L$ の部分体で、$V$ が $L$ 上のベクトル空間であるとする。ベクトルの加法を変えず、スカラー倍に使う数を $K$ に限ることで得られる $K$ 上のベクトル空間を、$V$ の $K$ への**スカラー制限**という。
たとえば $\mathbb{C}$ は $\mathbb{C}$ 上では基底 $\{1\}$ をもつ一次元空間である。$\mathbb{R}$ へスカラー制限すると基底は $\{1,i\}$ となり二次元である。
$K\subset L$ とし、$V$ を $L$ 上のベクトル空間とする。$v_1,\ldots,v_n$ が $L$ 上線形独立なら、スカラー制限した $V$ で $K$ 上線形独立である。
$a_1,\ldots,a_n\in K$ が
$$
a_1v_1+\cdots+a_nv_n=0
$$
を満たすとする。$K\subset L$ だから各 $a_j$ は $L$ の元でもある。$L$ 上の線形独立性により $a_1=\cdots=a_n=0$ である。よって $K$ 上でも線形独立である。
逆は成り立たない。$1,i\in\mathbb{C}$ は $\mathbb{R}$ 上独立だが、$\mathbb{C}$ 上従属である。
$\{1,\sqrt2\}\subset\mathbb{R}$ を考える。有理数 $a,b$ について
$$
a+b\sqrt2=0
$$
なら、$b\ne0$ とすると $\sqrt2=-a/b\in\mathbb{Q}$ となり矛盾する。よって $a=b=0$ であり、$\mathbb{Q}$ 上独立である。
一方、実係数を許せば
$$
(-\sqrt2)\cdot1+1\cdot\sqrt2=0
$$
なので $\mathbb{R}$ 上従属である。
実行列
$$
A=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}
$$
を考える。$Av=\lambda v$ を満たす非零実ベクトル $v=(x,y)^t$ があるとすると
$$
-y=\lambda x,\qquad x=\lambda y.
$$
これらから $x=-\lambda^2x$ を得る。$x=0$ なら第一式から $y=0$ となるので、固有ベクトルが非零であることに反する。したがって $x\ne0$ であり、$\lambda^2=-1$ が必要である。実数にはそのような $\lambda$ がない。
しかし複素数上では固有値 $i,-i$ があり、
$$
A\begin{pmatrix}1\\-i\end{pmatrix}
=i\begin{pmatrix}1\\-i\end{pmatrix},\qquad
A\begin{pmatrix}1\\i\end{pmatrix}
=-i\begin{pmatrix}1\\i\end{pmatrix}.
$$
したがって $A$ は $\mathbb{R}$ 上では固有値をもたず、$\mathbb{C}$ 上では対角化できる。
$K\subset L$ を有限次拡大とし、$V$ を有限次元 $L$ ベクトル空間とする。このとき
$$
\dim_K V=[L:K]\dim_L V
$$
である。ここで $[L:K]:=\dim_K L$ である。
$u_1,\ldots,u_m$ を $L$ の $K$ 基底、$v_1,\ldots,v_n$ を $V$ の $L$ 基底とする。$mn$ 個のベクトル
$$
u_iv_j\qquad(1\le i\le m,\ 1\le j\le n)
$$
が $V$ の $K$ 基底であることを示す。
任意の $v\in V$ は $v=\sum_j a_jv_j$ と書ける。各 $a_j\in L$ は $a_j=\sum_i c_{ij}u_i$、$c_{ij}\in K$ と書けるので
$$
v=\sum_{i,j}c_{ij}u_iv_j.
$$
よってこれらは $V$ を $K$ 上生成する。
次に $\sum_{i,j}c_{ij}u_iv_j=0$ とする。$v_j$ の $L$ 上の独立性から、各 $j$ について $\sum_i c_{ij}u_i=0$ である。さらに $u_i$ の $K$ 上の独立性から、すべての $c_{ij}=0$ となる。よって $u_iv_j$ は $K$ 上独立である。したがって次元は $mn$ である。
$\mathbb{C}^n$ を実ベクトル空間とみたとき、次元が $2n$ であることを具体的な基底を挙げて示せ。
$e_1,\ldots,e_n$ を標準基底とする。このとき
$$
e_1,ie_1,e_2,ie_2,\ldots,e_n,ie_n
$$
が実基底である。任意の $z=(a_1+b_1i,\ldots,a_n+b_ni)$ は
$$
z=\sum_{j=1}^n a_je_j+\sum_{j=1}^n b_j(ie_j)
$$
と実係数で表せる。右辺が0なら各座標の実部・虚部を比較してすべての係数が0となるので独立である。
次ページでは、係数体に根が存在するという仮定を正確に言い分ける。
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