1-1 体の公理と計算法

$$$$

共通言語への参照

同値類上の演算と well-definedness は 関係と商の総合問題、代数的数の可算性は 代数的数は可算 を参照します。本書では体拡大と Galois 対応へ進みます。

割り算はいつ許されるのか

方程式 $ax=b$ を $x=a^{-1}b$ と解くとき、私たちは $a$ で割っている。しかし、整数の世界では $2x=1$ は解けず、$4$ を法とする計算では $2\cdot2=0$ となる。いつもの変形を正当に行える範囲を、ひとまとまりの公理として取り出したものが体である。
このページでできるようになること
体の公理を述べ、それぞれが方程式の変形で何を保証するかを説明できる。公理から零倍、符号、消去則、逆元の一意性を証明できる。

体の定義

体

集合 $K$ に加法 $(a,b)\mapsto a+b$ と乗法 $(a,b)\mapsto ab$ が定められているとする。$K$ が体(field)であるとは、任意の $a,b,c\in K$ について次の条件が成り立つことをいう。

  1. $(a+b)+c=a+(b+c)$。
  2. $a+b=b+a$。
  3. ある $0\in K$ があり、$a+0=a$。
  4. 各 $a\in K$ に対し、$a+(-a)=0$ となる $-a\in K$ がある。
  5. $(ab)c=a(bc)$。
  6. $ab=ba$。
  7. ある $1\in K$ があり、$1\ne0$ かつ $a1=a$。
  8. $a\ne0$ なら、$aa^{-1}=1$ となる $a^{-1}\in K$ がある。
  9. $a(b+c)=ab+ac$。
    $0$ を加法単位元、$1$ を乗法単位元、$-a$ を $a$ の加法逆元、$a^{-1}$ を非零元 $a$ の乗法逆元という。

$\mathbb{Q},\mathbb{R},\mathbb{C}$ は体である。$\mathbb{Z}$ は体でない。実際、$2\in\mathbb{Z}$ に対して $2b=1$ となる整数 $b$ は存在しない。

公理から導かれる計算法則

教科書で頻繁に使う変形を、公理から一度きちんと導いておく。

特別な元の一意性

体の加法単位元と乗法単位元は一意である。各 $a$ の加法逆元も一意であり、各非零元の乗法逆元も一意である。

$0$ と $0'$ がともに加法単位元なら、$0=0+0'=0'$ である。$1$ と $1'$ がともに乗法単位元なら、$1=1\cdot1'=1'$ である。
$b,c$ がともに $a$ の加法逆元なら、結合則と交換則により
$$ b=b+0=b+(a+c)=(b+a)+c=0+c=c. $$
したがって加法逆元は一意である。$a\ne0$ とし、$b,c$ がともに $a$ の乗法逆元なら
$$ b=b\cdot1=b(ac)=(ba)c=1\cdot c=c. $$
よって乗法逆元も一意である。

零を掛けると零になる

任意の $a\in K$ に対して $a0=0a=0$ である。

分配法則より
$$ a0=a(0+0)=a0+a0. $$
両辺へ $-(a0)$ を足すと $0=a0$ を得る。乗法の交換則より $0a=a0=0$ である。

符号の計算法則

任意の $a,b\in K$ に対し
$$ (-a)b=-(ab),\qquad (-a)(-b)=ab $$
が成り立つ。

分配法則と前補題から
$$ ab+(-a)b=(a+(-a))b=0b=0. $$
したがって $(-a)b$ は $ab$ の加法逆元であり、逆元の一意性から $(-a)b=-(ab)$ である。これを二度使うと
$$ (-a)(-b)=-\bigl(a(-b)\bigr)=-(-(ab))=ab. $$
最後の等式は $ab$ が $-(ab)$ の加法逆元であることによる。

零因子がないことと消去則

$a,b\in K$ について $ab=0$ なら、$a=0$ または $b=0$ である。また $a\ne0$ かつ $ab=ac$ なら $b=c$ である。

$ab=0$ かつ $a\ne0$ とする。両辺へ $a^{-1}$ を掛けると
$$ b=1b=(a^{-1}a)b=a^{-1}(ab)=a^{-1}0=0. $$
よって最初の主張が従う。
次に $ab=ac$ とする。両辺へ $a^{-1}$ を掛ければ
$$ b=(a^{-1}a)b=a^{-1}(ab)=a^{-1}(ac)=(a^{-1}a)c=c. $$
これが消去則である。

方程式を一意に解く

一次方程式の解

$a,b\in K$ かつ $a\ne0$ なら、方程式 $ax=b$ はただ一つの解 $x=a^{-1}b$ をもつ。

$x=a^{-1}b$ と置けば
$$ ax=a(a^{-1}b)=(aa^{-1})b=b $$
なので解である。$y$ も解なら $ay=b=ax$ であり、消去則から $y=x$ である。

この命題を各行で繰り返すのが Gauss 消去である。主成分が零なら逆元がないので割れず、行交換が必要になる。

部分体と体準同型

部分体

体 $L$ の部分集合 $K$ が、$L$ の加法と乗法を制限した演算について体になるとき、$K$ を $L$ の部分体(subfield)という。このとき $L/K$ を体拡大という。

たとえば $\mathbb{Q}$ は $\mathbb{R}$ の部分体であり、$\mathbb{R}$ は $\mathbb{C}$ の部分体である。一方、$\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Q}$ の部分集合だが体でないので部分体ではない。

体準同型

体 $K,L$ の間の写像 $\varphi\colon K\to L$ が
$$ \varphi(a+b)=\varphi(a)+\varphi(b),\qquad \varphi(ab)=\varphi(a)\varphi(b),\qquad \varphi(1)=1 $$
を満たすとき、$\varphi$ を**体準同型**(field homomorphism)という。

体準同型は単射である

体準同型 $\varphi\colon K\to L$ は単射である。

まず
$$ \varphi(0)=\varphi(0+0)=\varphi(0)+\varphi(0) $$
の両辺から $\varphi(0)$ を引くと $\varphi(0)=0$ を得る。$\varphi(a)=\varphi(b)$ なら
$$ 0=\varphi(a)-\varphi(b)=\varphi(a-b). $$
$a-b\ne0$ と仮定すると $(a-b)^{-1}$ が存在するので
$$ 1=\varphi(1)=\varphi((a-b)(a-b)^{-1}) =\varphi(a-b)\varphi((a-b)^{-1})=0, $$
となり矛盾する。したがって $a-b=0$、すなわち $a=b$ である。

演習

逆数の積

$a,b\ne0$ のとき $(ab)^{-1}=a^{-1}b^{-1}$ を公理から証明せよ。

解答

乗法の交換則と結合則により
$$ (ab)(a^{-1}b^{-1})=(aa^{-1})(bb^{-1})=1. $$
したがって $a^{-1}b^{-1}$ は $ab$ の逆元である。逆元の一意性から $(ab)^{-1}=a^{-1}b^{-1}$ である。

二次方程式の根の個数

体 $K$ 上で $a\ne0$ とする。方程式 $ax^2+bx+c=0$ は相異なる解を三つ以上もたないことを、因数分解を用いて示せ。

解答

$r$ が解なら
$$ ax^2+bx+c=(x-r)(ax+ar+b) $$
である。実際、右辺を展開すると
$$ ax^2+bx-r(ar+b) $$
となり、$ar^2+br+c=0$ より $-r(ar+b)=c$ である。別の解 $s$ について
$$ 0=(s-r)(as+ar+b). $$
零因子がないため、$s=r$ または $as+ar+b=0$ である。後者の一次方程式の解はただ一つなので、$r$ 以外の解は高々一つである。

次ページでは、複素数を記号 $i$ の形式計算としてではなく、実数の組に演算を入れて得られる体として構成する。

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する

前ページへ
体とGalois理論 ― 拡大・分離性・正規性・Galois対応から一般五次方程式までの表紙
次ページへ