同値類上の演算と well-definedness は 関係と商の総合問題、代数的数の可算性は 代数的数は可算 を参照します。本書では体拡大と Galois 対応へ進みます。
方程式 $ax=b$ を $x=a^{-1}b$ と解くとき、私たちは $a$ で割っている。しかし、整数の世界では $2x=1$ は解けず、$4$ を法とする計算では $2\cdot2=0$ となる。いつもの変形を正当に行える範囲を、ひとまとまりの公理として取り出したものが体である。
このページでできるようになること
体の公理を述べ、それぞれが方程式の変形で何を保証するかを説明できる。公理から零倍、符号、消去則、逆元の一意性を証明できる。
集合 $K$ に加法 $(a,b)\mapsto a+b$ と乗法 $(a,b)\mapsto ab$ が定められているとする。$K$ が体(field)であるとは、任意の $a,b,c\in K$ について次の条件が成り立つことをいう。
$\mathbb{Q},\mathbb{R},\mathbb{C}$ は体である。$\mathbb{Z}$ は体でない。実際、$2\in\mathbb{Z}$ に対して $2b=1$ となる整数 $b$ は存在しない。
教科書で頻繁に使う変形を、公理から一度きちんと導いておく。
体の加法単位元と乗法単位元は一意である。各 $a$ の加法逆元も一意であり、各非零元の乗法逆元も一意である。
$0$ と $0'$ がともに加法単位元なら、$0=0+0'=0'$ である。$1$ と $1'$ がともに乗法単位元なら、$1=1\cdot1'=1'$ である。
$b,c$ がともに $a$ の加法逆元なら、結合則と交換則により
$$
b=b+0=b+(a+c)=(b+a)+c=0+c=c.
$$
したがって加法逆元は一意である。$a\ne0$ とし、$b,c$ がともに $a$ の乗法逆元なら
$$
b=b\cdot1=b(ac)=(ba)c=1\cdot c=c.
$$
よって乗法逆元も一意である。
任意の $a\in K$ に対して $a0=0a=0$ である。
分配法則より
$$
a0=a(0+0)=a0+a0.
$$
両辺へ $-(a0)$ を足すと $0=a0$ を得る。乗法の交換則より $0a=a0=0$ である。
任意の $a,b\in K$ に対し
$$
(-a)b=-(ab),\qquad (-a)(-b)=ab
$$
が成り立つ。
分配法則と前補題から
$$
ab+(-a)b=(a+(-a))b=0b=0.
$$
したがって $(-a)b$ は $ab$ の加法逆元であり、逆元の一意性から $(-a)b=-(ab)$ である。これを二度使うと
$$
(-a)(-b)=-\bigl(a(-b)\bigr)=-(-(ab))=ab.
$$
最後の等式は $ab$ が $-(ab)$ の加法逆元であることによる。
$a,b\in K$ について $ab=0$ なら、$a=0$ または $b=0$ である。また $a\ne0$ かつ $ab=ac$ なら $b=c$ である。
$ab=0$ かつ $a\ne0$ とする。両辺へ $a^{-1}$ を掛けると
$$
b=1b=(a^{-1}a)b=a^{-1}(ab)=a^{-1}0=0.
$$
よって最初の主張が従う。
次に $ab=ac$ とする。両辺へ $a^{-1}$ を掛ければ
$$
b=(a^{-1}a)b=a^{-1}(ab)=a^{-1}(ac)=(a^{-1}a)c=c.
$$
これが消去則である。
$a,b\in K$ かつ $a\ne0$ なら、方程式 $ax=b$ はただ一つの解 $x=a^{-1}b$ をもつ。
$x=a^{-1}b$ と置けば
$$
ax=a(a^{-1}b)=(aa^{-1})b=b
$$
なので解である。$y$ も解なら $ay=b=ax$ であり、消去則から $y=x$ である。
この命題を各行で繰り返すのが Gauss 消去である。主成分が零なら逆元がないので割れず、行交換が必要になる。
たとえば $\mathbb{Q}$ は $\mathbb{R}$ の部分体であり、$\mathbb{R}$ は $\mathbb{C}$ の部分体である。一方、$\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Q}$ の部分集合だが体でないので部分体ではない。
体 $K,L$ の間の写像 $\varphi\colon K\to L$ が
$$
\varphi(a+b)=\varphi(a)+\varphi(b),\qquad
\varphi(ab)=\varphi(a)\varphi(b),\qquad
\varphi(1)=1
$$
を満たすとき、$\varphi$ を**体準同型**(field homomorphism)という。
体準同型 $\varphi\colon K\to L$ は単射である。
まず
$$
\varphi(0)=\varphi(0+0)=\varphi(0)+\varphi(0)
$$
の両辺から $\varphi(0)$ を引くと $\varphi(0)=0$ を得る。$\varphi(a)=\varphi(b)$ なら
$$
0=\varphi(a)-\varphi(b)=\varphi(a-b).
$$
$a-b\ne0$ と仮定すると $(a-b)^{-1}$ が存在するので
$$
1=\varphi(1)=\varphi((a-b)(a-b)^{-1})
=\varphi(a-b)\varphi((a-b)^{-1})=0,
$$
となり矛盾する。したがって $a-b=0$、すなわち $a=b$ である。
$a,b\ne0$ のとき $(ab)^{-1}=a^{-1}b^{-1}$ を公理から証明せよ。
乗法の交換則と結合則により
$$
(ab)(a^{-1}b^{-1})=(aa^{-1})(bb^{-1})=1.
$$
したがって $a^{-1}b^{-1}$ は $ab$ の逆元である。逆元の一意性から $(ab)^{-1}=a^{-1}b^{-1}$ である。
体 $K$ 上で $a\ne0$ とする。方程式 $ax^2+bx+c=0$ は相異なる解を三つ以上もたないことを、因数分解を用いて示せ。
$r$ が解なら
$$
ax^2+bx+c=(x-r)(ax+ar+b)
$$
である。実際、右辺を展開すると
$$
ax^2+bx-r(ar+b)
$$
となり、$ar^2+br+c=0$ より $-r(ar+b)=c$ である。別の解 $s$ について
$$
0=(s-r)(as+ar+b).
$$
零因子がないため、$s=r$ または $as+ar+b=0$ である。後者の一次方程式の解はただ一つなので、$r$ 以外の解は高々一つである。
次ページでは、複素数を記号 $i$ の形式計算としてではなく、実数の組に演算を入れて得られる体として構成する。
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