2-5 多項式商による体の構成

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$x^2+1=0$ は実数の範囲では解けませんが、複素数へ進めば根 $i$ をもちます。この「新しい根を加える」操作は、未知の数を直感的に仮定しなくても
$$ K[x]/(f) $$
という商環で厳密に実行できます。本章では、商が体になる条件、根として働く剰余類、異なる表示の同型、既約性を失ったときに起こる零因子を扱います。

商の中で多項式を0にする

$f(x)\in K[x]$ を次数 $n\ge1$ の多項式とし
$$ A=K[x]/(f) $$
と置きます。$x$ の剰余類を
$$ \theta=x+(f) $$
と書くと、商では $f(x)$ の類が0なので
$$ f(\theta)=0. $$
つまり $\theta$ は、商環の中で $f$ の根として振る舞います。
$f$ をmonicとしてよいです。最高次係数は $K$ の非零元なので単元であり、それで割っても生成イデアル $(f)$ は変わりません。

剰余類の標準表示

$f$ をmonic次数 $n$ とする。$K[x]/(f)$ の各元は
$$ a_0+a_1\theta+\cdots+a_{n-1}\theta^{n-1} $$
と一意に表される。従って商は $K$ ベクトル空間として基底
$$ 1,\theta,\ldots,\theta^{n-1} $$
をもち、次元は $n$ である。

除法算法により任意の $g\in K[x]$ は
$$ g=qf+r, \qquad\deg r< n $$
と一意に書けます。商で $g+(f)=r+(f)$ なので表示が存在します。
次数 $n$ 未満の $r,s$ が同じ類を定めるなら $r-s\in(f)$。$r-s$ が非零なら $f$ の倍数なので次数は少なくとも $n$ ですが、$\deg(r-s)< n$。矛盾するため $r=s$ です。従って表示は一意で、列挙された元は生成かつ一次独立です。□

いつ商が体になるか

既約多項式と商体

$0\ne f\in K[x]$ を非定数多項式とする。次は同値である。

  1. $f$ は $K[x]$ で既約である。
  2. $(f)$ は $K[x]$ の極大イデアルである。
  3. $K[x]/(f)$ は体である。

$K[x]$ はPIDです。$f$ が既約とします。$(f)\subseteq(g)\subseteq K[x]$ なら $f=gh$ となる $h$ があります。既約性から $g$ または $h$ が単元です。$g$ が単元なら $(g)=K[x]$、$h$ が単元なら $(g)=(f)$。従って $(f)$ は極大です。
逆に $(f)$ が極大で $f=gh$ とします。$(f)\subseteq(g)$ なので $(g)=(f)$ または $(g)=K[x]$。前者なら $h$ が単元、後者なら $g$ が単元です。従って $f$ は既約です。よって1と2は同値です。
一般の可換環について、イデアル $I$ が極大であることと商環 $R/I$ が体であることは同値です。これを $R=K[x],I=(f)$ に適用すれば2と3の同値を得ます。□

極大イデアルと商体の同値の確認

$I$ が極大とします。$a+I\ne0$ なら $a\notin I$。$I+(a)$ は $I$ を真に含むので極大性から $I+(a)=R$。従って
$$ i+ra=1 $$
となる $i\in I,r\in R$ があり、商で
$$ (r+I)(a+I)=1+I. $$
よって非零元は逆元をもち、商は体です。
逆に $R/I$ が体で $I\subseteq J\subseteq R$ とします。$J\ne I$ なら $a\in J\setminus I$ を取れます。$a+I$ は商で非零なので逆元 $r+I$ があり $ra-1\in I\subseteq J$。$ra\in J$ でもあるため $1\in J$、従って $J=R$。ゆえに $I$ は極大です。□

既約でないと零因子が現れる

$f=gh$ が二つの非定数多項式の積なら、商 $K[x]/(f)$ で
$$ (g+(f))(h+(f))=gh+(f)=0. $$
$g,h$ の次数は $f$ より小さいので、どちらの類も0ではありません。従って商には零因子があり、体ではありません。
たとえば
$$ \mathbb R[x]/(x^2-1) $$
では
$$ (x-1)(x+1)=0 $$
となります。中国剰余定理により実際
$$ \mathbb R[x]/(x^2-1) \cong\mathbb R\times\mathbb R. $$
根を一つ加えた体ではなく、二つの根での値を並べる直積環になっています。

複素数を商として作る

$x^2+1$ は $\mathbb R$ 上既約なので
$$ \mathbb R[x]/(x^2+1) $$
は体です。$i=x+(x^2+1)$ と書けば $i^2=-1$。各元は一意に $a+bi$ と書け、積は
$$ (a+bi)(c+di)=(ac-bd)+(ad+bc)i. $$
これは実数の組から構成した複素数体と同型です。

複素数体との同型

$$ \Phi:\mathbb R[x]/(x^2+1)\to\mathbb C, \qquad a+bi\mapsto a+b\sqrt{-1} $$
は $\mathbb R$ 代数同型である。

評価写像 $\mathbb R[x]\to\mathbb C$、$f\mapsto f(\sqrt{-1})$ の核は $\sqrt{-1}$ の最小多項式 $x^2+1$ で生成され、像は $\mathbb R[\sqrt{-1}]=\mathbb C$。第一同型定理から所望の同型を得ます。□

9元体を作る

$\mathbb F_3$ 上で
$$ f(x)=x^2+1 $$
を考えます。$0,1,2$ を代入すると値はそれぞれ $1,2,2$ で根をもたないため、二次式 $f$ は既約です。そこで
$$ \mathbb F_9=\mathbb F_3[x]/(x^2+1) $$
と置き、$\theta=x+(f)$ とします。$\theta^2=-1=2$ で、全元は
$$ a+b\theta, \qquad a,b\in\mathbb F_3 $$
の9個です。
たとえば
$$ (1+\theta)(2+\theta) =2+3\theta+\theta^2 =2+0+2=1 $$
なので
$$ (1+\theta)^{-1}=2+\theta. $$

根の名前に依存しない

既約多項式 $f$ の根 $\alpha\in L$ と $\beta\in E$ を二つの拡大体で取ります。両方の最小多項式は $f$ なので
$$ K(\alpha)\cong K[x]/(f)\cong K(\beta). $$
この同型は $K$ を固定し、$\alpha$ を $\beta$ へ送ります。したがって「$f$ の根を一つ加えて得る体」は、根の具体的な実現によらず $K$ 上同型を除いて一意です。
ただし、同じ大きな体の中で $\alpha$ と $\beta$ が等しいとは限りません。同型で対応することと、元として等しいことを区別します。

演習

商が体か判定する

次の商が体か判定せよ。

  1. $\mathbb Q[x]/(x^2-3)$。
  2. $\mathbb Q[x]/(x^2-4)$。
  3. $\mathbb F_2[x]/(x^3+x+1)$。
解答
  1. $x^2-3$ は有理根をもたない二次式なので既約。従って体です。
  2. $x^2-4=(x-2)(x+2)$ と可約なので体ではありません。二つの非零類 $x-2,x+2$ の積が0です。
  3. 三次式は根をもつとき、かつそのときに限り可約です。$0$ で値1、$1$ で $1+1+1=1$ なので根をもちません。従って既約で、商は $2^3=8$ 元の体です。□
九元体の計算

$\mathbb F_9=\mathbb F_3(\theta)$、$\theta^2=2$ とする。次を計算せよ。
$$ (2+2\theta)^2, \qquad (1-\theta)^{-1}. $$

解答

標数3に注意して
$$ (2+2\theta)^2=4+8\theta+4\theta^2 =1+2\theta+1\cdot2 =2\theta. $$
また
$$ (1-\theta)(1+\theta)=1-\theta^2=1-2=-1=2. $$
2の逆元は2なので
$$ (1-\theta)^{-1}=2(1+\theta)=2+2\theta. $$
□

可約な商の冪等元

$A=K[x]/(x(x-1))$ とし、$e=x+(x(x-1))$ とする。$e^2=e$ を示し、$A\cong K\times K$ のもとで $e$ がどの元に対応するか求めよ。

解答

商では $x(x-1)=x^2-x=0$ なので $e^2=e$ です。中国剰余同型は
$$ f(x)+(x(x-1))\mapsto(f(0),f(1)). $$
従って
$$ e\mapsto(0,1). $$
これは第二成分への射影を表す冪等元です。□

同じ根添加体

$\alpha=\sqrt[3]2\in\mathbb R$、$\beta=\zeta\sqrt[3]2\in\mathbb C$、ただし $\zeta^3=1,\zeta\ne1$ とする。$\mathbb Q(\alpha)$ と $\mathbb Q(\beta)$ が $\mathbb Q$ 上同型であることを示せ。

解答

$\alpha,β$ はともに $x^3-2$ の根です。この多項式は有理根をもたない三次式なので $\mathbb Q$ 上既約。従って両者の最小多項式は $x^3-2$ です。
$$ \mathbb Q(\alpha)\cong\mathbb Q[x]/(x^3-2) \cong\mathbb Q(\beta) $$
であり、合成同型は $\alpha$ を $\beta$ へ送ります。$\mathbb Q(\alpha)$ は実数の部分体、$\mathbb Q(\beta)$ は非実元を含みますが、抽象的な $\mathbb Q$ 体としては同型です。□

参考文献

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