1-5 塔の法則と次数計算

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複雑な体を一度に理解する代わりに、数を一つずつ加えて
$$ K\subseteq E\subseteq L $$
という塔を作ります。$E$ が $K$ 上何次元で、$L$ が $E$ 上何次元かが分かれば、$L$ の $K$ 上の次元はその積です。本章ではこの塔の法則を、基底を実際に組み合わせることで証明します。

基底の積

基底の積

$K\subseteq E\subseteq L$ を体の塔とする。$(u_i)_{i\in I}$ を $E/K$ の $K$ 基底、$(v_j)_{j\in J}$ を $L/E$ の $E$ 基底とする。このとき
$$ (u_iv_j)_{(i,j)\in I\times J} $$
は $L/K$ の $K$ 基底である。

まず生成を示します。任意の $x\in L$ は $(v_j)$ が $E$ 基底なので、有限個の $j$ について
$$ x=\sum_jc_jv_j, \qquad c_j\in E $$
と書けます。各 $c_j$ は $(u_i)$ が $K$ 基底なので、有限個の $i$ について
$$ c_j=\sum_ia_{ij}u_i, \qquad a_{ij}\in K $$
と書けます。代入して
$$ x=\sum_{i,j}a_{ij}u_iv_j. $$
従って積たちは $L$ を $K$ 上生成します。
次に一次独立性を示します。有限和
$$ \sum_{i,j}a_{ij}u_iv_j=0, \qquad a_{ij}\in K $$
があるとします。$j$ ごとにまとめると
$$ \sum_j\left(\sum_i a_{ij}u_i\right)v_j=0. $$
括弧内は $E$ の元です。$(v_j)$ は $E$ 上一次独立なので、各 $j$ について
$$ \sum_i a_{ij}u_i=0. $$
さらに $(u_i)$ は $K$ 上一次独立なので、すべての $a_{ij}=0$。従って積たちは $K$ 上一次独立です。□

無限基底の場合でも、ベクトルの表示は常に有限和なので証明はそのまま通用します。

塔の法則

塔の法則

$K\subseteq E\subseteq L$ とする。拡大次数を基数として解釈すれば
$$ [L:K]=[L:E][E:K]. $$
特に二つの右辺が有限なら左辺も有限で、通常の正整数の積になる。

基底の積の定理により、$E/K$ の基底の添字集合 $I$ と $L/E$ の基底の添字集合 $J$ に対し、$L/K$ の基底は $I\times J$ で添字付けられます。従って
$$ \dim_KL=|I\times J|=|I||J| =\dim_EL\cdot\dim_KE. $$
有限の場合は集合の要素数の通常の積です。□

中間体の次数は全体の次数を割る

$[L:K]<\infty$ で $K\subseteq E\subseteq L$ なら
$$ [E:K]\mid[L:K], \qquad [L:E]\mid[L:K]. $$

塔の法則
$$ [L:K]=[L:E][E:K] $$
で三つは正整数です。従って右辺の各因子は左辺を割ります。□

この単純な整除条件は、中間体が存在しないことを示す強い道具になります。たとえば $[L:K]$ が素数なら、中間体 $E$ の次数は1か $[L:K]$ しかなく、$E=K$ または $E=L$ です。

二つの平方根を加える

$$ L=\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3) $$
を考えます。塔
$$ \mathbb Q\subseteq\mathbb Q(\sqrt2) \subseteq\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3) $$
の第一段は次数2です。第二段も次数2であることを確認します。

平方根の独立性

$\sqrt3\notin\mathbb Q(\sqrt2)$ である。

もし $\sqrt3=a+b\sqrt2$($a,b\in\mathbb Q$)なら、二乗して
$$ 3=a^2+2b^2+2ab\sqrt2. $$
$1,\sqrt2$ の一次独立性から
$$ 2ab=0, \qquad a^2+2b^2=3. $$
$a=0$ なら $b^2=3/2$ ですが、既約分数 $b=r/s$ として素因数2と3の指数を比較すれば有理数の平方にはなりません。$b=0$ なら $a^2=3$ で、同様に $\sqrt3\notin\mathbb Q$ に反します。従って不可能です。□

$x^2-3$ は $\mathbb Q(\sqrt2)$ 上に根をもたない二次多項式なので既約です。従って第二段の基底は $(1,\sqrt3)$ で
$$ [L:\mathbb Q(\sqrt2)]=2. $$
塔の法則から
$$ [L:\mathbb Q]=2\cdot2=4. $$
基底の積は
$$ 1,\sqrt2,\sqrt3,\sqrt6 $$
です。従って任意の元は
$$ a+b\sqrt2+c\sqrt3+d\sqrt6 $$
と一意に書けます。

三次多項式の分解体の次数

$\alpha=\sqrt[3]2$ を実数の根、$\zeta=e^{2\pi i/3}$ を1でない三乗根とします。$x^3-2$ の三つの根は
$$ \alpha,\quad\zeta\alpha,\quad\zeta^2\alpha $$
なので分解体は
$$ L=\mathbb Q(\alpha,\zeta). $$
$x^3-2$ は有理根をもたない三次多項式なので既約、従って
$$ [\mathbb Q(\alpha):\mathbb Q]=3. $$
$\mathbb Q(\alpha)$ は実数体の部分体ですが $\zeta$ は非実数なので $\zeta\notin\mathbb Q(\alpha)$。$\zeta$ は
$$ x^2+x+1=0 $$
を満たすため
$$ [L:\mathbb Q(\alpha)]=2. $$
塔の法則から
$$ [L:\mathbb Q]=6. $$
後に、この6がGalois群 $S_3$ の位数と一致することを見ます。

次数1の拡大

次数1なら同じ体

$K\subseteq L$ について
$$ [L:K]=1 $$
であることと $L=K$ は同値である。

$L=K$ なら $(1)$ が $K$ 基底なので次数1です。逆に $[L:K]=1$ とします。$1\ne0$ なので $(1)$ は一次独立であり、1次元空間 $L$ の基底です。従って任意の $x\in L$ は $x=a\cdot1$($a\in K$)と書け、$x\in K$。よって $L\subseteq K$ で、もとの包含と合わせて $L=K$ です。□

有限性の伝播

有限拡大の塔

$K\subseteq E\subseteq L$ とする。

  1. $L/E$ と $E/K$ が有限なら $L/K$ も有限である。
  2. $L/K$ が有限なら $E/K$ と $L/E$ も有限である。

1は塔の法則で有限な正整数の積になることから従います。
2について、$E$ は有限次元 $K$ ベクトル空間 $L$ の部分空間なので $[E:K]\le[L:K]<\infty$。塔の法則から
$$ [L:E]=[L:K]/[E:K]<\infty. $$
□

演習

三重の塔

$K\subseteq E\subseteq F\subseteq L$ で
$$ [E:K]=2, \qquad[F:E]=3, \qquad[L:F]=5 $$
とする。$[L:K]$、$[L:E]$、$[F:K]$ を求めよ。

解答

塔の法則を繰り返して
$$ [F:K]=[F:E][E:K]=3\cdot2=6, $$
$$ [L:E]=[L:F][F:E]=5\cdot3=15, $$
$$ [L:K]=[L:F][F:E][E:K]=5\cdot3\cdot2=30. $$
□

中間体が存在しない次数

$[L:K]=7$ とする。$K\subseteq E\subseteq L$ を満たす中間体が $K,L$ 以外に存在しないことを示せ。

解答

塔の法則から $[E:K]$ は7の正の約数なので1または7です。1なら次数1の命題から $E=K$。7なら
$$ 7=[L:E]\cdot7 $$
なので $[L:E]=1$、従って $E=L$ です。□

二つの平方根の基底

$L=\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)$ で
$$ x=1+\sqrt2+\sqrt3, \qquad y=1-\sqrt2+\sqrt6 $$
とする。$xy$ を基底 $1,\sqrt2,\sqrt3,\sqrt6$ で表示せよ。

解答

展開して
$$ xy=(1+\sqrt2+\sqrt3)(1-\sqrt2+\sqrt6). $$
各項をまとめると、定数項は $1-2=-1$、$\sqrt2$ 項は $-\sqrt2+\sqrt2=0$、$\sqrt3$ 項は $\sqrt3+2\sqrt3=3\sqrt3$、$\sqrt6$ 項は $\sqrt6-\sqrt6=0$、さらに $\sqrt3\sqrt6=3\sqrt2$ があります。従って
$$ xy=-1+3\sqrt2+3\sqrt3. $$
直接すべての9項を並べても同じ結果になります。□

次数による非包含判定

$\alpha$ が $K$ 上3次、すなわち $[K(\alpha):K]=3$ とする。$[L:K]=4$ の拡大 $L/K$ に $K(\alpha)$ が中間体として含まれることはないと示せ。

解答

もし
$$ K\subseteq K(\alpha)\subseteq L $$
なら塔の法則から
$$ 4=[L:K]=[L:K(\alpha)]\,[K(\alpha):K] =3[L:K(\alpha)]. $$
右辺は3の倍数ですが左辺はそうでないため矛盾です。□

参考文献

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