複雑な体を一度に理解する代わりに、数を一つずつ加えて
$$
K\subseteq E\subseteq L
$$
という塔を作ります。$E$ が $K$ 上何次元で、$L$ が $E$ 上何次元かが分かれば、$L$ の $K$ 上の次元はその積です。本章ではこの塔の法則を、基底を実際に組み合わせることで証明します。
$K\subseteq E\subseteq L$ を体の塔とする。$(u_i)_{i\in I}$ を $E/K$ の $K$ 基底、$(v_j)_{j\in J}$ を $L/E$ の $E$ 基底とする。このとき
$$
(u_iv_j)_{(i,j)\in I\times J}
$$
は $L/K$ の $K$ 基底である。
まず生成を示します。任意の $x\in L$ は $(v_j)$ が $E$ 基底なので、有限個の $j$ について
$$
x=\sum_jc_jv_j,
\qquad c_j\in E
$$
と書けます。各 $c_j$ は $(u_i)$ が $K$ 基底なので、有限個の $i$ について
$$
c_j=\sum_ia_{ij}u_i,
\qquad a_{ij}\in K
$$
と書けます。代入して
$$
x=\sum_{i,j}a_{ij}u_iv_j.
$$
従って積たちは $L$ を $K$ 上生成します。
次に一次独立性を示します。有限和
$$
\sum_{i,j}a_{ij}u_iv_j=0,
\qquad a_{ij}\in K
$$
があるとします。$j$ ごとにまとめると
$$
\sum_j\left(\sum_i a_{ij}u_i\right)v_j=0.
$$
括弧内は $E$ の元です。$(v_j)$ は $E$ 上一次独立なので、各 $j$ について
$$
\sum_i a_{ij}u_i=0.
$$
さらに $(u_i)$ は $K$ 上一次独立なので、すべての $a_{ij}=0$。従って積たちは $K$ 上一次独立です。□
無限基底の場合でも、ベクトルの表示は常に有限和なので証明はそのまま通用します。
$K\subseteq E\subseteq L$ とする。拡大次数を基数として解釈すれば
$$
[L:K]=[L:E][E:K].
$$
特に二つの右辺が有限なら左辺も有限で、通常の正整数の積になる。
基底の積の定理により、$E/K$ の基底の添字集合 $I$ と $L/E$ の基底の添字集合 $J$ に対し、$L/K$ の基底は $I\times J$ で添字付けられます。従って
$$
\dim_KL=|I\times J|=|I||J|
=\dim_EL\cdot\dim_KE.
$$
有限の場合は集合の要素数の通常の積です。□
$[L:K]<\infty$ で $K\subseteq E\subseteq L$ なら
$$
[E:K]\mid[L:K],
\qquad
[L:E]\mid[L:K].
$$
塔の法則
$$
[L:K]=[L:E][E:K]
$$
で三つは正整数です。従って右辺の各因子は左辺を割ります。□
この単純な整除条件は、中間体が存在しないことを示す強い道具になります。たとえば $[L:K]$ が素数なら、中間体 $E$ の次数は1か $[L:K]$ しかなく、$E=K$ または $E=L$ です。
$$
L=\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)
$$
を考えます。塔
$$
\mathbb Q\subseteq\mathbb Q(\sqrt2)
\subseteq\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)
$$
の第一段は次数2です。第二段も次数2であることを確認します。
$\sqrt3\notin\mathbb Q(\sqrt2)$ である。
もし $\sqrt3=a+b\sqrt2$($a,b\in\mathbb Q$)なら、二乗して
$$
3=a^2+2b^2+2ab\sqrt2.
$$
$1,\sqrt2$ の一次独立性から
$$
2ab=0,
\qquad a^2+2b^2=3.
$$
$a=0$ なら $b^2=3/2$ ですが、既約分数 $b=r/s$ として素因数2と3の指数を比較すれば有理数の平方にはなりません。$b=0$ なら $a^2=3$ で、同様に $\sqrt3\notin\mathbb Q$ に反します。従って不可能です。□
$x^2-3$ は $\mathbb Q(\sqrt2)$ 上に根をもたない二次多項式なので既約です。従って第二段の基底は $(1,\sqrt3)$ で
$$
[L:\mathbb Q(\sqrt2)]=2.
$$
塔の法則から
$$
[L:\mathbb Q]=2\cdot2=4.
$$
基底の積は
$$
1,\sqrt2,\sqrt3,\sqrt6
$$
です。従って任意の元は
$$
a+b\sqrt2+c\sqrt3+d\sqrt6
$$
と一意に書けます。
$\alpha=\sqrt[3]2$ を実数の根、$\zeta=e^{2\pi i/3}$ を1でない三乗根とします。$x^3-2$ の三つの根は
$$
\alpha,\quad\zeta\alpha,\quad\zeta^2\alpha
$$
なので分解体は
$$
L=\mathbb Q(\alpha,\zeta).
$$
$x^3-2$ は有理根をもたない三次多項式なので既約、従って
$$
[\mathbb Q(\alpha):\mathbb Q]=3.
$$
$\mathbb Q(\alpha)$ は実数体の部分体ですが $\zeta$ は非実数なので $\zeta\notin\mathbb Q(\alpha)$。$\zeta$ は
$$
x^2+x+1=0
$$
を満たすため
$$
[L:\mathbb Q(\alpha)]=2.
$$
塔の法則から
$$
[L:\mathbb Q]=6.
$$
後に、この6がGalois群 $S_3$ の位数と一致することを見ます。
$K\subseteq L$ について
$$
[L:K]=1
$$
であることと $L=K$ は同値である。
$L=K$ なら $(1)$ が $K$ 基底なので次数1です。逆に $[L:K]=1$ とします。$1\ne0$ なので $(1)$ は一次独立であり、1次元空間 $L$ の基底です。従って任意の $x\in L$ は $x=a\cdot1$($a\in K$)と書け、$x\in K$。よって $L\subseteq K$ で、もとの包含と合わせて $L=K$ です。□
$K\subseteq E\subseteq L$ とする。
1は塔の法則で有限な正整数の積になることから従います。
2について、$E$ は有限次元 $K$ ベクトル空間 $L$ の部分空間なので $[E:K]\le[L:K]<\infty$。塔の法則から
$$
[L:E]=[L:K]/[E:K]<\infty.
$$
□
$K\subseteq E\subseteq F\subseteq L$ で
$$
[E:K]=2,
\qquad[F:E]=3,
\qquad[L:F]=5
$$
とする。$[L:K]$、$[L:E]$、$[F:K]$ を求めよ。
塔の法則を繰り返して
$$
[F:K]=[F:E][E:K]=3\cdot2=6,
$$
$$
[L:E]=[L:F][F:E]=5\cdot3=15,
$$
$$
[L:K]=[L:F][F:E][E:K]=5\cdot3\cdot2=30.
$$
□
$[L:K]=7$ とする。$K\subseteq E\subseteq L$ を満たす中間体が $K,L$ 以外に存在しないことを示せ。
塔の法則から $[E:K]$ は7の正の約数なので1または7です。1なら次数1の命題から $E=K$。7なら
$$
7=[L:E]\cdot7
$$
なので $[L:E]=1$、従って $E=L$ です。□
$L=\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)$ で
$$
x=1+\sqrt2+\sqrt3,
\qquad y=1-\sqrt2+\sqrt6
$$
とする。$xy$ を基底 $1,\sqrt2,\sqrt3,\sqrt6$ で表示せよ。
展開して
$$
xy=(1+\sqrt2+\sqrt3)(1-\sqrt2+\sqrt6).
$$
各項をまとめると、定数項は $1-2=-1$、$\sqrt2$ 項は $-\sqrt2+\sqrt2=0$、$\sqrt3$ 項は $\sqrt3+2\sqrt3=3\sqrt3$、$\sqrt6$ 項は $\sqrt6-\sqrt6=0$、さらに $\sqrt3\sqrt6=3\sqrt2$ があります。従って
$$
xy=-1+3\sqrt2+3\sqrt3.
$$
直接すべての9項を並べても同じ結果になります。□
$\alpha$ が $K$ 上3次、すなわち $[K(\alpha):K]=3$ とする。$[L:K]=4$ の拡大 $L/K$ に $K(\alpha)$ が中間体として含まれることはないと示せ。
もし
$$
K\subseteq K(\alpha)\subseteq L
$$
なら塔の法則から
$$
4=[L:K]=[L:K(\alpha)]\,[K(\alpha):K]
=3[L:K(\alpha)].
$$
右辺は3の倍数ですが左辺はそうでないため矛盾です。□
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