ここまでの章では、一つの概念を導入し、その場で働かせてきました。しかし実際の問題には「これは塔の法則の問題です」とは書かれていません。最小多項式を求める途中で拡大次数を使い、共役を列挙したあとでトレースとノルムを計算し、その置換からGalois群を読む、というように道具は連動します。
本章の問題は、その連動を練習するためのものです。各問では、まず解答を閉じたまま次の順に考えてください。
$L=\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)$、$\alpha=\sqrt2+\sqrt3$ とする。次を示せ。
$\sqrt3\notin\mathbb Q(\sqrt2)$ をまず示します。もし $\sqrt3=a+b\sqrt2$($a,b\in\mathbb Q$)なら、平方して
$$
3=a^2+2b^2+2ab\sqrt2
$$
です。$1,\sqrt2$ の一次独立性から $ab=0$。$a=0$ なら $b^2=3/2$、$b=0$ なら $a^2=3$ となり、いずれも有理数 $a,b$ には不可能です。従って塔の法則より
$$
[L:\mathbb Q]=[L:\mathbb Q(\sqrt2)]
[\mathbb Q(\sqrt2):\mathbb Q]=2\cdot2=4.
$$
$\alpha^2=5+2\sqrt6$ なので
$$
(\alpha^2-5)^2=24,
\qquad
\alpha^4-10\alpha^2+1=0.
$$
一方
$$
(\sqrt3+\sqrt2)(\sqrt3-\sqrt2)=1
$$
より $\alpha^{-1}=\sqrt3-\sqrt2$ です。従って
$$
\sqrt3=\frac{\alpha+\alpha^{-1}}2,
\qquad
\sqrt2=\frac{\alpha-\alpha^{-1}}2
$$
となり、$L=\mathbb Q(\alpha)$。よって $\alpha$ の次数は4であり、上のモニック四次式が最小多項式です。
四つの共役は
$$
\sqrt2+\sqrt3,\quad -\sqrt2+\sqrt3,\quad
\sqrt2-\sqrt3,\quad-\sqrt2-\sqrt3.
$$
その和は0、積は最小多項式の定数項1です。従って
$$
\operatorname{Tr}_{L/\mathbb Q}(\alpha)=0,
\qquad
N_{L/\mathbb Q}(\alpha)=1.
$$
$\sqrt2,\sqrt3$ の符号を独立に替える四つの自己同型があるので
$$
\operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)\cong C_2\times C_2.
$$
位数2の部分群は三つあり、その固定体は順に
$$
\mathbb Q(\sqrt2),\qquad
\mathbb Q(\sqrt3),\qquad
\mathbb Q(\sqrt6).
$$
Galois対応により、$\mathbb Q,L$ と合わせてこれですべての中間体です。□
$a=\sqrt[4]{2}>0$ とし、$f=x^4-2\in\mathbb Q[x]$ の分解体を $L$ とする。
根は $a,ia,-a,-ia$ なので分解体は $\mathbb Q(a,i)$ です。$x^4-2$ は素数2に関するEisensteinの判定法で既約だから
$$
[\mathbb Q(a):\mathbb Q]=4.
$$
$\mathbb Q(a)\subset\mathbb R$ ですが $i\notin\mathbb R$ なので $i\notin\mathbb Q(a)$。従って
$$
[L:\mathbb Q]=[L:\mathbb Q(a)]
[\mathbb Q(a):\mathbb Q]=2\cdot4=8.
$$
$r,s$ は $a^4=2,i^2=-1$ という関係を保つので、指定した像から $\mathbb Q$-自己同型を定めます。生成元に作用させれば
$$
r^4(a)=a,\quad r^4(i)=i,\qquad
s^2(a)=a,\quad s^2(i)=i
$$
です。また
$$
srs(a)=sr(a)=s(ia)=-ia=r^{-1}(a),
$$
かつ $srs(i)=i=r^{-1}(i)$ なので $srs=r^{-1}$。
$r^j$ と $sr^j$($0\le j<4$)は $a$ または $i$ への作用が異なるため相異なる8個の自己同型です。Galois群の位数は拡大次数8に等しいので、これらがすべてです。正方形の90度回転と反転の関係式と同じであり
$$
\operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)
=\langle r,s\mid r^4=s^2=1, srs=r^{-1}\rangle
\cong D_4.
$$
□
$g=x^3+x+1\in\mathbb F_2[x]$、
$$
F=\mathbb F_2[x]/(g),\qquad a=[x]
$$
とする。
三次多項式は根をもたなければ既約です。
$$
g(0)=1,\qquad g(1)=1+1+1=1
$$
なので $g$ は既約。従って $F$ は $2^3=8$ 元の体です。
$a^3+a+1=0$、すなわち $a^3=a+1$ を用いると
$$
\begin{array}{c|c}
k&a^k\\ \hline
0&1\\
1&a\\
2&a^2\\
3&a+1\\
4&a^2+a\\
5&a^2+a+1\\
6&a^2+1\\
7&1
\end{array}
$$
となります。$a^0,ldots,a^6$ は7個の非零元をすべて尽くすので $F^\times=\langle a\rangle$。
Galois群はFrobenius $\varphi(z)=z^2$ が生成する位数3の巡回群です。従って $a$ の共役は
$$
a,\qquad a^2,\qquad a^4=a^2+a.
$$
ゆえに
$$
\operatorname{Tr}_{F/\mathbb F_2}(a)
=a+a^2+a^4=0,
$$
$$
N_{F/\mathbb F_2}(a)=a^{1+2+4}=a^7=1.
$$
既約三次式の根は $F\setminus\mathbb F_2$ の6元です。Frobenius軌道は
$$
\{a,a^2,a^4\},\qquad
\{a^3,a^6,a^5\}
$$
の二つ。第一軌道の最小多項式が $x^3+x+1$ です。モニック三次式の個数公式から既約三次式は
$$
\frac{2^3-2}{3}=2
$$
個であり、もう一つは根をもたない $x^3+x^2+1$ です。従ってこれら二つです。□
$K=\mathbb F_p(t)$ とし、$u$ を $u^p=t$ を満たす元とする。$L=K(u)$ について次を示せ。
$x^p-t$ が可約なら、その根 $u$ の最小多項式 $m$ の次数 $d$ は $1\le d< p$ です。代数閉包では
$$
x^p-t=(x-u)^p
$$
なので、$m$ の根は $u$ だけであり、モニック性から $m=(x-u)^d$。$x^{d-1}$ の係数 $-du$ は $K$ に属します。$1\le d< p$ なので $d$ は $K$ で0でなく、従って $u\in K$ です。すなわち可約なら $t=u^p$ は $K$ の $p$ 乗になります。
しかし $v_t$ を $t$ における零点の位数とすると $v_t(t)=1$ である一方、任意の $h\in K^\times$ に対して
$$
v_t(h^p)=p,v_t(h)
$$
は $p$ の倍数です。従って $t$ は $K$ の $p$ 乗ではありません。よって $x^p-t$ は既約で $[L:K]=p$。
標数 $p$ では
$$
x^p-t=x^p-u^p=(x-u)^p.
$$
$K$-埋め込みは $u$ をこの多項式の根へ送らなければならず、その根は $u$ 一つだけです。従って自己同型は恒等写像だけです。
$x^p-t$ は $L$ で一次式に分解するので、$L/K$ は分解体、従って正規です。しかし分離的でないためGalois拡大ではありません。正規性だけでは自己同型の個数が拡大次数に達しないことが、この例で見えます。□
$f=x^3-3x+1\in\mathbb Q[x]$ とする。
有理根定理より有理根の候補は $\pm1$ ですが
$$
f(1)=-1,\qquad f(-1)=3
$$
なので根をもちません。三次式ゆえ既約です。
$x^3+px+q$ の判別式は $-4p^3-27q^2$。ここでは $p=-3,q=1$ なので
$$
\Delta=-4(-3)^3-27=108-27=81=9^2.
$$
既約三次式のGalois群は $S_3$ の推移的部分群であり、判別式が平方なので $A_3$ に含まれます。従って
$$
\operatorname{Gal}(f/\mathbb Q)\cong A_3\cong C_3.
$$
よって分解体 $L$ の次数は3です。一根を $\alpha$ とすると、既約性から $[\mathbb Q(\alpha):\mathbb Q]=3$。包含
$$
\mathbb Q(\alpha)\subseteq L
$$
の両辺が同じ次数をもつので等号です。つまり一根を加えるだけで、残りの二根も同じ体に入ります。□
$\zeta=\exp(2\pi i/12)$ とする。
円分体の次数は
$$
\varphi(12)=12\left(1-\frac12\right)
\left(1-\frac13\right)=4.
$$
従って
$$
\operatorname{Gal}(\mathbb Q(\zeta)/\mathbb Q)
\cong(\mathbb Z/12\mathbb Z)^\times
=\{1,5,7,11\}\cong C_2\times C_2,
$$
最後の同型は非単位元がすべて位数2であることから従います。
$i=\zeta^3$ です。また
$$
\zeta+\zeta^{-1}=2\cos\frac{\pi}{6}=\sqrt3.
$$
従って $\mathbb Q(i,\sqrt3)\subseteq\mathbb Q(\zeta)$。左辺は双二次拡大で次数4、右辺も次数4なので等しいです。
$C_2\times C_2$ の位数2部分群は三つです。双二次拡大の計算により、それらに対応する三つの二次中間体は
$$
\mathbb Q(i),\qquad
\mathbb Q(\sqrt3),\qquad
\mathbb Q(i\sqrt3)=\mathbb Q(\sqrt{-3}).
$$
Galois対応により、これ以外の二次中間体はありません。□
正15角形、正9角形、正17角形、正51角形のうち、定規とコンパスで作図できるものをすべて決定せよ。判定の根拠を体の次数とGauss--Wantzelの定理の両方から説明せよ。
Gauss--Wantzelの定理によれば、正 $n$ 角形が作図可能であるための必要十分条件は
$$
n=2^a p_1\cdots p_r
$$
と書け、$p_i$ が相異なるFermat素数であることです。
$$
f=x^5-2,\qquad g=x^5-4x+2
$$
を比較する。
$a=\sqrt[5]{2}$ とすると $f$ の根は $\zeta_5^j a$ なので、分解体は
$$
L=\mathbb Q(a,\zeta_5).
$$
$f$ は2に関するEisensteinの判定法で既約だから $[\mathbb Q(a):\mathbb Q]=5$。$[\mathbb Q(\zeta_5):\mathbb Q]=4$ であり、二体の交わりの次数は5と4の両方を割るので1です。従って $[L:\mathbb Q]=20$。正規部分群 $C_5$ と商 $C_4$ をもつのでGalois群は可解です。
$g$ も2に関するEisensteinの判定法で既約です。導関数
$$
g'(x)=5x^4-4
$$
の実零点は $\pm(4/5)^{1/4}$ で、増減と符号を調べると $g$ はちょうど三つの実根と一組の非実共役根をもちます。複素共役は根の上で互換として作用します。一方、既約五次式のGalois群は五つの根へ推移的に作用するので位数は5で割れ、Cauchyの定理により5-cycleを含みます。5-cycleと互換が生成するグラフの辺を5-cycleで回すと連結な辺集合が得られ、連結グラフの辺互換は $S_5$ を生成します。従って $g$ のGalois群は $S_5$。
$f$ の根は $\zeta_5^j\sqrt[5]{2}$ と根号で書け、そのGalois群も可解ですから根号で可解です。$S_5$ は単純非Abel群 $A_5$ を組成因子にもつため可解でなく、$g$ は根号で可解ではありません。□
$\mathbb F_2[x]$ で $x^{16}-x$ を既約多項式の積に分けるとき、各次数の既約因子が何個現れるか求め、実際の積を書け。
$x^{q^n}-x$ は、次数が $n$ を割るすべてのモニック既約多項式を各一回ずつ因子にもつ、という定理を $q=2,n=4$ に適用します。従って因子の次数は1,2,4だけです。
次数 $d$ のモニック既約多項式の個数を $N_2(d)$ とすると
$$
N_2(d)=\frac1d\sum_{e\mid d}\mu(e)2^{d/e}.
$$
よって
$$
N_2(1)=2,\qquad
N_2(2)=\frac{4-2}{2}=1,\qquad
N_2(4)=\frac{16-4}{4}=3.
$$
具体的には
$$
\begin{aligned}
x^{16}-x={}&x(x+1)(x^2+x+1)\\
&\cdot(x^4+x+1)(x^4+x^3+1)
(x^4+x^3+x^2+x+1).
\end{aligned}
$$
右辺の次数は $1+1+2+4+4+4=16$。各因子は相異なるモニック既約式で、定理が指定する全因子を尽くすため等式が成立します。□
次の主張が正しければ証明し、誤りなら反例を与えて正しい形に直せ。
1は誤りです。反例に必要な拡大を明示的に作ります。$M=\mathbb Q(x_1,x_2,x_3,x_4)$ とし、$A_4$ を変数の偶置換で $M$ に作用させ、$K=M^{A_4}$ と置きます。Artin固定体定理により $M/K$ はGalois拡大でGalois群は $A_4$ です。位数3の部分群 $H$ を一つ取り、$L=M^H$ とすると
$$
[L:K]=[A_4:H]=4.
$$
もし $K\subsetneq E\subsetneq L$ で $[E:K]=2$ なら、Galois対応で $H$ を含む位数6の部分群が $A_4$ に存在するはずです。しかし指数2の部分群は正規であり、$A_4$ の正規部分群は $\{1\},V_4,A_4$ だけなので存在しません。正しいのは「中間体があれば塔の法則でその次数は全次数を割る」であって、割り切れることから存在は従いません。
2も誤りです。前問の純非分離拡大
$$
\mathbb F_p(t^{1/p})/\mathbb F_p(t)
$$
は次数 $p$ で正規ですが、自己同型は恒等写像だけです。正しい形は「有限拡大が正規かつ分離的、すなわちGaloisなら $|\operatorname{Gal}(L/K)|=[L:K]$」です。
3も一般には誤りです。判別式が平方であることから言えるのは、Galois群が根の交代群 $A_n$ に含まれることです。反例の存在もArtin固定体定理から構成できます。$M=\mathbb Q(x_1,\ldots,x_5)$ に $A_5$ を変数の偶置換で作用させ、$K=M^{A_5}$ と置けば $M/K$ はGalois群 $A_5$ の有限Galois拡大です。原始元定理で $M=K(\alpha)$ と書くと、$\alpha$ の最小多項式は分解体 $M$ と非巡回Galois群 $A_5$ をもちます。根への置換の符号は準同型 $A_5\to\{\pm1\}$ ですが、$A_5$ には指数2の正規部分群がないため自明です。従ってすべて偶置換であり、その判別式は $K$ の平方です。
一方、三次既約式に限れば、推移的部分群が $A_3$ または $S_3$ しかなく、平方なら $A_3\cong C_3$ となります。「三次式での結論」を次数一般へ広げてはいけません。□
本書に現れた具体的な体を一つ選び、次の六項目をすべて含む問題を作れ。
$\phi=(1+\sqrt5)/2$ とします。
$\phi^2-\phi-1=0$ であり、$x^2-x-1$ は有理根をもたないので最小多項式です。従って
$$
[\mathbb Q(\phi):\mathbb Q]=2.
$$
非自明な自己同型は $\sqrt5\mapsto-\sqrt5$、すなわち
$$
\phi\longmapsto\phi'=\frac{1-\sqrt5}{2}=1-\phi
$$
で与えられます。このため
$$
\operatorname{Tr}(\phi)=\phi+\phi'=1,
\qquad
N(\phi)=\phi\phi'=-1.
$$
拡大次数が素数2なので、中間体は $\mathbb Q$ と $\mathbb Q(\sqrt5)$ だけです。
ここから計算工房への橋を作れます。漸化式
$$
F_{n+2}=F_{n+1}+F_n,\qquad F_0=0,\quad F_1=1
$$
の特性多項式は $x^2-x-1$ です。線形代数の漸化式解法、または共役を使うと
$$
F_n=\frac{\phi^n-(\phi')^n}{\sqrt5}
$$
を得ます。右辺は一見無理数を含みますが、Galois共役で不変であり、漸化式と初期値から整数になります。さらに $N(\phi)=-1$ は $\phi$ が二次体の単数であることを表し、連分数・Pell方程式・二次体の算術へつながります。
このように、一つの数を「方程式の根」「線形漸化式の固有値」「二次体の単数」として見直すことが、複数シリーズを接続する総合問題になります。□
体拡大は、数を増やす操作を無秩序な式変形から切り離し、次数で測れる対象にしました。最小多項式は一つの元が満たすすべての代数的関係を代表し、埋め込みはその元の「別の見え方」を列挙しました。正規性と分離性を合わせると、それらの見え方は自己同型群になり、部分群の構造が中間体の構造を完全に記録します。
この抽象化によって、次の古典問題が同じ言葉で解けました。
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