6-9 総合問題と完全解答

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この章の使い方

ここまでの章では、一つの概念を導入し、その場で働かせてきました。しかし実際の問題には「これは塔の法則の問題です」とは書かれていません。最小多項式を求める途中で拡大次数を使い、共役を列挙したあとでトレースとノルムを計算し、その置換からGalois群を読む、というように道具は連動します。
本章の問題は、その連動を練習するためのものです。各問では、まず解答を閉じたまま次の順に考えてください。

  1. 基礎体と大きい体は何か。
  2. 次数を決める根拠は何か。
  3. 埋め込みは生成元をどこへ送れるか。
  4. 正規性と分離性は確認できているか。
  5. 群の情報を体へ、体の情報を群へどう戻すか。
    計算だけでなく、使った定理の仮定を一行ずつ確認することが目標です。

1 二つの平方根を一つにまとめる

双二次拡大の全体像

$L=\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)$、$\alpha=\sqrt2+\sqrt3$ とする。次を示せ。

  1. $[L:\mathbb Q]=4$ である。
  2. $\alpha$ の最小多項式は $x^4-10x^2+1$ で、$L=\mathbb Q(\alpha)$ である。
  3. $\operatorname{Tr}_{L/\mathbb Q}(\alpha)$ と $N_{L/\mathbb Q}(\alpha)$ を求めよ。
  4. Galois群とすべての中間体を求めよ。
完全解答

$\sqrt3\notin\mathbb Q(\sqrt2)$ をまず示します。もし $\sqrt3=a+b\sqrt2$($a,b\in\mathbb Q$)なら、平方して
$$ 3=a^2+2b^2+2ab\sqrt2 $$
です。$1,\sqrt2$ の一次独立性から $ab=0$。$a=0$ なら $b^2=3/2$、$b=0$ なら $a^2=3$ となり、いずれも有理数 $a,b$ には不可能です。従って塔の法則より
$$ [L:\mathbb Q]=[L:\mathbb Q(\sqrt2)] [\mathbb Q(\sqrt2):\mathbb Q]=2\cdot2=4. $$
$\alpha^2=5+2\sqrt6$ なので
$$ (\alpha^2-5)^2=24, \qquad \alpha^4-10\alpha^2+1=0. $$
一方
$$ (\sqrt3+\sqrt2)(\sqrt3-\sqrt2)=1 $$
より $\alpha^{-1}=\sqrt3-\sqrt2$ です。従って
$$ \sqrt3=\frac{\alpha+\alpha^{-1}}2, \qquad \sqrt2=\frac{\alpha-\alpha^{-1}}2 $$
となり、$L=\mathbb Q(\alpha)$。よって $\alpha$ の次数は4であり、上のモニック四次式が最小多項式です。
四つの共役は
$$ \sqrt2+\sqrt3,\quad -\sqrt2+\sqrt3,\quad \sqrt2-\sqrt3,\quad-\sqrt2-\sqrt3. $$
その和は0、積は最小多項式の定数項1です。従って
$$ \operatorname{Tr}_{L/\mathbb Q}(\alpha)=0, \qquad N_{L/\mathbb Q}(\alpha)=1. $$
$\sqrt2,\sqrt3$ の符号を独立に替える四つの自己同型があるので
$$ \operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)\cong C_2\times C_2. $$
位数2の部分群は三つあり、その固定体は順に
$$ \mathbb Q(\sqrt2),\qquad \mathbb Q(\sqrt3),\qquad \mathbb Q(\sqrt6). $$
Galois対応により、$\mathbb Q,L$ と合わせてこれですべての中間体です。□

2 四次式の分解体から二面体群が現れる

$x^4-2$ の分解体

$a=\sqrt[4]{2}>0$ とし、$f=x^4-2\in\mathbb Q[x]$ の分解体を $L$ とする。

  1. $L=\mathbb Q(a,i)$ と $[L:\mathbb Q]=8$ を示せ。
  2. $r(a)=ia,r(i)=i$、$s(a)=a,s(i)=-i$ で自己同型 $r,s$ を定め、
    $$r^4=s^2=1,\qquad srs=r^{-1}$$
    を示せ。
  3. $\operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)$ が位数8の二面体群 $D_4$ と同型であることを示せ。
完全解答

根は $a,ia,-a,-ia$ なので分解体は $\mathbb Q(a,i)$ です。$x^4-2$ は素数2に関するEisensteinの判定法で既約だから
$$ [\mathbb Q(a):\mathbb Q]=4. $$
$\mathbb Q(a)\subset\mathbb R$ ですが $i\notin\mathbb R$ なので $i\notin\mathbb Q(a)$。従って
$$ [L:\mathbb Q]=[L:\mathbb Q(a)] [\mathbb Q(a):\mathbb Q]=2\cdot4=8. $$
$r,s$ は $a^4=2,i^2=-1$ という関係を保つので、指定した像から $\mathbb Q$-自己同型を定めます。生成元に作用させれば
$$ r^4(a)=a,\quad r^4(i)=i,\qquad s^2(a)=a,\quad s^2(i)=i $$
です。また
$$ srs(a)=sr(a)=s(ia)=-ia=r^{-1}(a), $$
かつ $srs(i)=i=r^{-1}(i)$ なので $srs=r^{-1}$。
$r^j$ と $sr^j$($0\le j<4$)は $a$ または $i$ への作用が異なるため相異なる8個の自己同型です。Galois群の位数は拡大次数8に等しいので、これらがすべてです。正方形の90度回転と反転の関係式と同じであり
$$ \operatorname{Gal}(L/\mathbb Q) =\langle r,s\mid r^4=s^2=1, srs=r^{-1}\rangle \cong D_4. $$
□

3 有限体では元・多項式・自己同型を同時に計算できる

8元体を完全に調べる

$g=x^3+x+1\in\mathbb F_2[x]$、
$$ F=\mathbb F_2[x]/(g),\qquad a=[x] $$
とする。

  1. $g$ が既約で $|F|=8$ であることを示せ。
  2. $a$ の冪を $1,a,a^2$ の一次結合で一覧にし、$F^\times=\langle a\rangle$ を示せ。
  3. $\operatorname{Gal}(F/\mathbb F_2)$、$a$ の共役、トレース、ノルムを求めよ。
  4. $\mathbb F_2$ 上のモニック既約三次多項式をすべて求めよ。
完全解答

三次多項式は根をもたなければ既約です。
$$ g(0)=1,\qquad g(1)=1+1+1=1 $$
なので $g$ は既約。従って $F$ は $2^3=8$ 元の体です。
$a^3+a+1=0$、すなわち $a^3=a+1$ を用いると
$$ \begin{array}{c|c} k&a^k\\ \hline 0&1\\ 1&a\\ 2&a^2\\ 3&a+1\\ 4&a^2+a\\ 5&a^2+a+1\\ 6&a^2+1\\ 7&1 \end{array} $$
となります。$a^0,ldots,a^6$ は7個の非零元をすべて尽くすので $F^\times=\langle a\rangle$。
Galois群はFrobenius $\varphi(z)=z^2$ が生成する位数3の巡回群です。従って $a$ の共役は
$$ a,\qquad a^2,\qquad a^4=a^2+a. $$
ゆえに
$$ \operatorname{Tr}_{F/\mathbb F_2}(a) =a+a^2+a^4=0, $$
$$ N_{F/\mathbb F_2}(a)=a^{1+2+4}=a^7=1. $$
既約三次式の根は $F\setminus\mathbb F_2$ の6元です。Frobenius軌道は
$$ \{a,a^2,a^4\},\qquad \{a^3,a^6,a^5\} $$
の二つ。第一軌道の最小多項式が $x^3+x+1$ です。モニック三次式の個数公式から既約三次式は
$$ \frac{2^3-2}{3}=2 $$
個であり、もう一つは根をもたない $x^3+x^2+1$ です。従ってこれら二つです。□

4 標数正では「根が一つしか見えない」ことがある

純非分離拡大

$K=\mathbb F_p(t)$ とし、$u$ を $u^p=t$ を満たす元とする。$L=K(u)$ について次を示せ。

  1. $x^p-t$ は $K[x]$ で既約である。
  2. $[L:K]=p$ だが、$K$ を固定する $L$ の自己同型は恒等写像だけである。
  3. $L/K$ は正規だがGaloisではない。
完全解答

$x^p-t$ が可約なら、その根 $u$ の最小多項式 $m$ の次数 $d$ は $1\le d< p$ です。代数閉包では
$$ x^p-t=(x-u)^p $$
なので、$m$ の根は $u$ だけであり、モニック性から $m=(x-u)^d$。$x^{d-1}$ の係数 $-du$ は $K$ に属します。$1\le d< p$ なので $d$ は $K$ で0でなく、従って $u\in K$ です。すなわち可約なら $t=u^p$ は $K$ の $p$ 乗になります。
しかし $v_t$ を $t$ における零点の位数とすると $v_t(t)=1$ である一方、任意の $h\in K^\times$ に対して
$$ v_t(h^p)=p,v_t(h) $$
は $p$ の倍数です。従って $t$ は $K$ の $p$ 乗ではありません。よって $x^p-t$ は既約で $[L:K]=p$。
標数 $p$ では
$$ x^p-t=x^p-u^p=(x-u)^p. $$
$K$-埋め込みは $u$ をこの多項式の根へ送らなければならず、その根は $u$ 一つだけです。従って自己同型は恒等写像だけです。
$x^p-t$ は $L$ で一次式に分解するので、$L/K$ は分解体、従って正規です。しかし分離的でないためGalois拡大ではありません。正規性だけでは自己同型の個数が拡大次数に達しないことが、この例で見えます。□

5 判別式一つで三次式の対称性を読む

巡回三次体

$f=x^3-3x+1\in\mathbb Q[x]$ とする。

  1. $f$ が既約であることを示せ。
  2. 判別式を求め、分解体のGalois群を決定せよ。
  3. 分解体の次数を求め、任意の一根がすでに全根を含む体を生成することを示せ。
完全解答

有理根定理より有理根の候補は $\pm1$ ですが
$$ f(1)=-1,\qquad f(-1)=3 $$
なので根をもちません。三次式ゆえ既約です。
$x^3+px+q$ の判別式は $-4p^3-27q^2$。ここでは $p=-3,q=1$ なので
$$ \Delta=-4(-3)^3-27=108-27=81=9^2. $$
既約三次式のGalois群は $S_3$ の推移的部分群であり、判別式が平方なので $A_3$ に含まれます。従って
$$ \operatorname{Gal}(f/\mathbb Q)\cong A_3\cong C_3. $$
よって分解体 $L$ の次数は3です。一根を $\alpha$ とすると、既約性から $[\mathbb Q(\alpha):\mathbb Q]=3$。包含
$$ \mathbb Q(\alpha)\subseteq L $$
の両辺が同じ次数をもつので等号です。つまり一根を加えるだけで、残りの二根も同じ体に入ります。□

6 円分体は二次体の交差点である

第12円分体

$\zeta=\exp(2\pi i/12)$ とする。

  1. $[\mathbb Q(\zeta):\mathbb Q]=4$ とGalois群を求めよ。
  2. $\mathbb Q(\zeta)=\mathbb Q(i,\sqrt3)$ を示せ。
  3. すべての二次中間体を求めよ。
完全解答

円分体の次数は
$$ \varphi(12)=12\left(1-\frac12\right) \left(1-\frac13\right)=4. $$
従って
$$ \operatorname{Gal}(\mathbb Q(\zeta)/\mathbb Q) \cong(\mathbb Z/12\mathbb Z)^\times =\{1,5,7,11\}\cong C_2\times C_2, $$
最後の同型は非単位元がすべて位数2であることから従います。
$i=\zeta^3$ です。また
$$ \zeta+\zeta^{-1}=2\cos\frac{\pi}{6}=\sqrt3. $$
従って $\mathbb Q(i,\sqrt3)\subseteq\mathbb Q(\zeta)$。左辺は双二次拡大で次数4、右辺も次数4なので等しいです。
$C_2\times C_2$ の位数2部分群は三つです。双二次拡大の計算により、それらに対応する三つの二次中間体は
$$ \mathbb Q(i),\qquad \mathbb Q(\sqrt3),\qquad \mathbb Q(i\sqrt3)=\mathbb Q(\sqrt{-3}). $$
Galois対応により、これ以外の二次中間体はありません。□

7 作図問題を整数の素因数分解まで戻す

正多角形の比較

正15角形、正9角形、正17角形、正51角形のうち、定規とコンパスで作図できるものをすべて決定せよ。判定の根拠を体の次数とGauss--Wantzelの定理の両方から説明せよ。

完全解答

Gauss--Wantzelの定理によれば、正 $n$ 角形が作図可能であるための必要十分条件は
$$ n=2^a p_1\cdots p_r $$
と書け、$p_i$ が相異なるFermat素数であることです。

  • $15=3\cdot5$。$3=2^{2^0}+1$、$5=2^{2^1}+1$ は相異なるFermat素数なので作図可能。
  • $9=3^2$。奇素数3が重複するので作図不能。
  • $17=2^{2^2}+1$ はFermat素数なので作図可能。
  • $51=3\cdot17$ は相異なるFermat素数の積なので作図可能。
    次数でも確認できます。$\zeta_n$ の最大実部分体の次数は $n>2$ に対して $\varphi(n)/2$ です。
    $$ \frac{\varphi(15)}2=4,\quad \frac{\varphi(9)}2=3,\quad \frac{\varphi(17)}2=8,\quad \frac{\varphi(51)}2=16. $$
    作図可能数の次数は2の冪でなければなりません。正9角形だけは次数3なので不可能です。他の三つについては次数が2の冪であるだけでなく、円分体のGalois群が2群となるため、二次拡大の塔が実際に存在します。□

8 根号で解ける五次式と解けない五次式

二つの五次式

$$ f=x^5-2,\qquad g=x^5-4x+2 $$
を比較する。

  1. $f$ の分解体とその次数を求め、Galois群が可解であることを示せ。
  2. $g$ のGalois群が $S_5$ であることを示せ。
  3. 二つの式の根号可解性を判定せよ。
完全解答

$a=\sqrt[5]{2}$ とすると $f$ の根は $\zeta_5^j a$ なので、分解体は
$$ L=\mathbb Q(a,\zeta_5). $$
$f$ は2に関するEisensteinの判定法で既約だから $[\mathbb Q(a):\mathbb Q]=5$。$[\mathbb Q(\zeta_5):\mathbb Q]=4$ であり、二体の交わりの次数は5と4の両方を割るので1です。従って $[L:\mathbb Q]=20$。正規部分群 $C_5$ と商 $C_4$ をもつのでGalois群は可解です。
$g$ も2に関するEisensteinの判定法で既約です。導関数
$$ g'(x)=5x^4-4 $$
の実零点は $\pm(4/5)^{1/4}$ で、増減と符号を調べると $g$ はちょうど三つの実根と一組の非実共役根をもちます。複素共役は根の上で互換として作用します。一方、既約五次式のGalois群は五つの根へ推移的に作用するので位数は5で割れ、Cauchyの定理により5-cycleを含みます。5-cycleと互換が生成するグラフの辺を5-cycleで回すと連結な辺集合が得られ、連結グラフの辺互換は $S_5$ を生成します。従って $g$ のGalois群は $S_5$。
$f$ の根は $\zeta_5^j\sqrt[5]{2}$ と根号で書け、そのGalois群も可解ですから根号で可解です。$S_5$ は単純非Abel群 $A_5$ を組成因子にもつため可解でなく、$g$ は根号で可解ではありません。□

9 有限体上の因数分解を次数だけで予測する

$x^{16}-x$ の因数

$\mathbb F_2[x]$ で $x^{16}-x$ を既約多項式の積に分けるとき、各次数の既約因子が何個現れるか求め、実際の積を書け。

完全解答

$x^{q^n}-x$ は、次数が $n$ を割るすべてのモニック既約多項式を各一回ずつ因子にもつ、という定理を $q=2,n=4$ に適用します。従って因子の次数は1,2,4だけです。
次数 $d$ のモニック既約多項式の個数を $N_2(d)$ とすると
$$ N_2(d)=\frac1d\sum_{e\mid d}\mu(e)2^{d/e}. $$
よって
$$ N_2(1)=2,\qquad N_2(2)=\frac{4-2}{2}=1,\qquad N_2(4)=\frac{16-4}{4}=3. $$
具体的には
$$ \begin{aligned} x^{16}-x={}&x(x+1)(x^2+x+1)\\ &\cdot(x^4+x+1)(x^4+x^3+1) (x^4+x^3+x^2+x+1). \end{aligned} $$
右辺の次数は $1+1+2+4+4+4=16$。各因子は相異なるモニック既約式で、定理が指定する全因子を尽くすため等式が成立します。□

10 誤った推論を見抜く

三つの主張を診断する

次の主張が正しければ証明し、誤りなら反例を与えて正しい形に直せ。

  1. $[L:K]=4$ なら、$K$ と $L$ の間に次数2の中間体がある。
  2. 有限拡大 $L/K$ が正規なら、$|\operatorname{Aut}_K(L)|=[L:K]$ である。
  3. 既約多項式の判別式が平方なら、そのGalois群は巡回群である。
完全解答

1は誤りです。反例に必要な拡大を明示的に作ります。$M=\mathbb Q(x_1,x_2,x_3,x_4)$ とし、$A_4$ を変数の偶置換で $M$ に作用させ、$K=M^{A_4}$ と置きます。Artin固定体定理により $M/K$ はGalois拡大でGalois群は $A_4$ です。位数3の部分群 $H$ を一つ取り、$L=M^H$ とすると
$$ [L:K]=[A_4:H]=4. $$
もし $K\subsetneq E\subsetneq L$ で $[E:K]=2$ なら、Galois対応で $H$ を含む位数6の部分群が $A_4$ に存在するはずです。しかし指数2の部分群は正規であり、$A_4$ の正規部分群は $\{1\},V_4,A_4$ だけなので存在しません。正しいのは「中間体があれば塔の法則でその次数は全次数を割る」であって、割り切れることから存在は従いません。
2も誤りです。前問の純非分離拡大
$$ \mathbb F_p(t^{1/p})/\mathbb F_p(t) $$
は次数 $p$ で正規ですが、自己同型は恒等写像だけです。正しい形は「有限拡大が正規かつ分離的、すなわちGaloisなら $|\operatorname{Gal}(L/K)|=[L:K]$」です。
3も一般には誤りです。判別式が平方であることから言えるのは、Galois群が根の交代群 $A_n$ に含まれることです。反例の存在もArtin固定体定理から構成できます。$M=\mathbb Q(x_1,\ldots,x_5)$ に $A_5$ を変数の偶置換で作用させ、$K=M^{A_5}$ と置けば $M/K$ はGalois群 $A_5$ の有限Galois拡大です。原始元定理で $M=K(\alpha)$ と書くと、$\alpha$ の最小多項式は分解体 $M$ と非巡回Galois群 $A_5$ をもちます。根への置換の符号は準同型 $A_5\to\{\pm1\}$ ですが、$A_5$ には指数2の正規部分群がないため自明です。従ってすべて偶置換であり、その判別式は $K$ の平方です。
一方、三次既約式に限れば、推移的部分群が $A_3$ または $S_3$ しかなく、平方なら $A_3\cong C_3$ となります。「三次式での結論」を次数一般へ広げてはいけません。□

11 一本の問題を設計する

自分で作る総合問題

本書に現れた具体的な体を一つ選び、次の六項目をすべて含む問題を作れ。

  1. 生成元とその最小多項式
  2. 拡大次数
  3. 埋め込みまたは自己同型
  4. トレースとノルム
  5. 中間体または部分体
  6. 他シリーズへ接続する計算
    さらに完全解答を書け。ここでは例として $\mathbb Q(\sqrt5)$ を用いた一つの解答を示す。
解答例

$\phi=(1+\sqrt5)/2$ とします。
$\phi^2-\phi-1=0$ であり、$x^2-x-1$ は有理根をもたないので最小多項式です。従って
$$ [\mathbb Q(\phi):\mathbb Q]=2. $$
非自明な自己同型は $\sqrt5\mapsto-\sqrt5$、すなわち
$$ \phi\longmapsto\phi'=\frac{1-\sqrt5}{2}=1-\phi $$
で与えられます。このため
$$ \operatorname{Tr}(\phi)=\phi+\phi'=1, \qquad N(\phi)=\phi\phi'=-1. $$
拡大次数が素数2なので、中間体は $\mathbb Q$ と $\mathbb Q(\sqrt5)$ だけです。
ここから計算工房への橋を作れます。漸化式
$$ F_{n+2}=F_{n+1}+F_n,\qquad F_0=0,\quad F_1=1 $$
の特性多項式は $x^2-x-1$ です。線形代数の漸化式解法、または共役を使うと
$$ F_n=\frac{\phi^n-(\phi')^n}{\sqrt5} $$
を得ます。右辺は一見無理数を含みますが、Galois共役で不変であり、漸化式と初期値から整数になります。さらに $N(\phi)=-1$ は $\phi$ が二次体の単数であることを表し、連分数・Pell方程式・二次体の算術へつながります。
このように、一つの数を「方程式の根」「線形漸化式の固有値」「二次体の単数」として見直すことが、複数シリーズを接続する総合問題になります。□

本書を終えて――抽象理論の元を取る

体拡大は、数を増やす操作を無秩序な式変形から切り離し、次数で測れる対象にしました。最小多項式は一つの元が満たすすべての代数的関係を代表し、埋め込みはその元の「別の見え方」を列挙しました。正規性と分離性を合わせると、それらの見え方は自己同型群になり、部分群の構造が中間体の構造を完全に記録します。
この抽象化によって、次の古典問題が同じ言葉で解けました。

  • 有限体はいくつあり、その部分体は何か。
  • 三次式の根の対称性は判別式からどう読めるか。
  • どの正多角形が定規とコンパスで作図できるか。
  • 方程式を根号で解けるかどうかを何が決めるか。
    けれども、本書の概念はここで終わりません。むしろ、具体例を大量に生み出す入口です。入門テキスト内の「古典計算工房」では、抽象理論をいったん手計算へ戻します。
  • A01「連分数」では、二次無理数と周期性を計算する。
  • A02「二次形式」では、整数の表現と二次体の算術を往復する。
  • A04「古典的代数的整数論」では、ノルム・トレース・素因数分解を数体で働かせる。
  • B04「代数関数論」では、数体との類似を一変数関数体で試す。
  • C05「有限幾何」では、有限体を点と直線の具体的配置へ変える。
    これらは「本論を終えた人だけが読む余談」ではありません。抽象概念を学んだ直後に古典的な計算を経験し、その後の代数・幾何・解析で使える具体例を蓄えるための標準ルートです。本書で得た道具を、まず一つの工房で手になじませてから次の理論へ進んでください。

参考文献

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