ここまでは $K(\alpha)$ のように、元を有限個ずつ添加してきました。しかし「$\mathbb Q$ 上代数的な複素数をすべて集める」と、生成元は一つにも有限個にも収まりません。それでも、任意の有限部分だけを見れば有限次拡大の中に収まります。この局所有限性が、無限の代数拡大を制御する鍵です。
体拡大 $L/K$ において、すべての $\alpha\in L$ が $K$ 上代数的であるとき、$L/K$ を**代数拡大**という。
有限次拡大は代数拡大でした。しかし逆は成り立ちません。例えば、$\mathbb Q$ 上代数的な複素数全体を $\overline{\mathbb Q}\cap\mathbb C$ と書けば、これは $\mathbb Q$ の代数拡大ですが、有限次ではありません。実際、任意の正整数 $n$ に対し $2^{1/n}$ を含み、その最小多項式 $x^n-2$ は Eisenstein の判定法により次数 $n$ をもちます。もし全体の次数が有限の $N$ なら、中間体の次数は $N$ 以下なので $n>N$ と矛盾します。
無限拡大を扱うため、まず有限個の元に問題を縮めます。
$\alpha_1,\ldots,\alpha_r$ が $K$ 上代数的なら
$$
[K(\alpha_1,\ldots,\alpha_r):K]<\infty.
$$
特に、この体のすべての元は $K$ 上代数的である。
塔
$$
K\subseteq K(\alpha_1)\subseteq K(\alpha_1,\alpha_2)
\subseteq\cdots\subseteq K(\alpha_1,\ldots,\alpha_r)
$$
を考えます。$\alpha_i$ は $K$ 上の多項式を満たすので、係数体を大きくした $K(\alpha_1,\ldots,\alpha_{i-1})$ 上でも代数的です。従って各段の次数は有限です。塔の法則より全体の次数は有限です。有限次拡大は代数拡大なので後半も従います。□
$L/K$ を任意の拡大とし
$$
A=\{\alpha\in L\mid \alpha\text{ は }K\text{ 上代数的}\}
$$
とおく。このとき $A$ は $K$ を含む $L$ の部分体である。
$\alpha,\beta\in A$ とします。前命題により $K(\alpha,\beta)/K$ は有限次です。従って
$$
\alpha-\beta,\qquad \alpha\beta,
$$
および $\beta\ne0$ のとき $\alpha/\beta$ は、いずれも有限次拡大 $K(\alpha,\beta)$ の元なので $K$ 上代数的です。また $0,1\in K\subseteq A$ です。部分体判定法により $A$ は部分体です。□
「$L/K$ と $M/L$ が代数的なら $M/K$ も代数的」という事実は、次数が無限でも成立します。
$K\subseteq L\subseteq M$ とする。$L/K$ と $M/L$ が代数拡大なら、$M/K$ も代数拡大である。
$\alpha\in M$ を取ります。$M/L$ が代数的なので、ある非零多項式
$$
f(x)=a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n\in L[x]
$$
が $f(\alpha)=0$ を満たします。係数 $a_0,\ldots,a_n$ は $K$ 上代数的ですから
$$
E=K(a_0,\ldots,a_n)
$$
は前命題により $K$ の有限次拡大です。また $\alpha$ は $E$ 上代数的なので $E(\alpha)/E$ も有限次です。塔の法則から
$$
[E(\alpha):K]=[E(\alpha):E][E:K]<\infty.
$$
従って $\alpha$ は $K$ 上代数的です。$\alpha$ は任意だったので $M/K$ は代数拡大です。□
この証明の重要点は、無限に大きい $L$ 全体を一度に扱わず、$\alpha$ の満たす一本の方程式に現れる有限個の係数だけを取り出したことです。
体 $\Omega$ が代数閉体|代数的閉体であるとは、任意の次数1以上の多項式 $f\in\Omega[x]$ が $\Omega$ に根をもつことをいう。
根 $a$ が見つかれば $f=(x-a)g$ と因数分解できるので、次数についての帰納法により次が分かります。
体 $\Omega$ について次は同値である。
$1\Rightarrow2$:次数について帰納します。$f$ は根 $a$ をもち、除法により $f=(x-a)g$ と書けます。$g$ は次数が一つ小さいので帰納法を適用します。
$2\Rightarrow3$:次数2以上の多項式は一次因子をもつので既約ではありません。
$3\Rightarrow4$:$L/\Omega$ を代数拡大、$\alpha\in L$ とします。$\alpha$ の最小多項式は既約なので一次式です。従って $\alpha\in\Omega$ であり、$L=\Omega$ です。
$4\Rightarrow1$:次数1以上の $f\in\Omega[x]$ を取ります。$f$ の既約因子 $p$ を一つ取ると、$\Omega[x]/(p)$ は $\Omega$ の代数拡大です。仮定によりこの拡大は $\Omega$ 自身なので、$p$ の次数は1です。従って $f$ は $\Omega$ に根をもちます。□
$K$ の拡大体 $\overline K$ が
$\mathbb C$ は代数学の基本定理により代数的閉体ですが、$\mathbb C/\mathbb R$ は代数拡大なので $\mathbb C$ は $\mathbb R$ の代数閉包です。一方、$\mathbb C/\mathbb Q$ は代数拡大ではありません。$\mathbb Q$ の代数閉包としては、$\mathbb C$ の中で $\mathbb Q$ 上代数的な元全体を取れます。
次の存在証明では集合論の標準的原理である Zorn の補題を使います。これは「帰納的に大きくできる対象には極大なものがある」という原理です。体論固有の議論は以下ですべて記述します。
任意の体 $K$ は代数閉包をもつ。
まず、すべての非定数多項式が根をもつ代数拡大を一段で作ります。$K[x]$ のモニック非定数多項式 $f$ ごとに一つの変数 $X_f$ を用意し、多変数多項式環
$$
R=K[X_f\mid f\in K[x]\text{ はモニック非定数}]
$$
を考えます。$R$ のイデアル
$$
I=(f(X_f)\mid f\in K[x]\text{ はモニック非定数})
$$
は真のイデアルです。実際、もし $1\in I$ なら、その表示には有限個の多項式 $f_1,\ldots,f_r$ しか現れません。根を一つずつ添加すれば、ある拡大体 $E/K$ と $a_i\in E$ で $f_i(a_i)=0$ となるものが作れます。$X_{f_i}\mapsto a_i$ と代入すれば $1=0$ となり矛盾します。
Zorn の補題により $I$ を含む極大イデアル $\mathfrak m$ が存在します。商
$$
K_1=R/\mathfrak m
$$
は体で、各 $f$ は $X_f+\mathfrak m$ を根にもつので、$K$ 上のすべての非定数多項式が $K_1$ に根をもちます。
同じ構成を繰り返して
$$
K=K_0\subseteq K_1\subseteq K_2\subseteq\cdots
$$
を作り、$K_{n+1}$ では $K_n$ 上のすべての非定数多項式が根をもつようにします。合併
$$
\Omega=\bigcup_{n\ge0}K_n
$$
は体です。$g\in\Omega[x]$ は有限個の係数しかもたないので、ある $n$ で $g\in K_n[x]$ です。従って $g$ は $K_{n+1}\subseteq\Omega$ に根をもちます。ゆえに $\Omega$ は代数的閉体です。
最後に、$\Omega$ の中で $K$ 上代数的な元全体を $\overline K$ とします。これは部分体です。$\overline K/K$ は定義から代数的です。$f\in\overline K[x]$ を非定数とすると、$\Omega$ が代数的閉体なので根 $\alpha\in\Omega$ をもちます。$f$ の係数が生成する体は $K$ 上有限次で、$\alpha$ はその体上代数的です。代数性の推移性から $\alpha$ は $K$ 上代数的、従って $\alpha\in\overline K$ です。ゆえに $\overline K$ は代数的閉体であり、$K$ の代数閉包です。□
代数閉包は包含される集合として一意なのではなく、$K$ を固定する同型を除いて一意です。
$\overline K_1,\overline K_2$ を $K$ の二つの代数閉包とする。このとき $K$ 上の体同型
$$
\overline K_1\cong\overline K_2
$$
が存在する。
$K$ 上の埋め込み $\varphi:E\to\overline K_2$ で $K\subseteq E\subseteq\overline K_1$ となる組 $(E,\varphi)$ を、延長関係で順序づけます。全順序部分集合では写像が互いに延長になっているので、その合併も埋め込みです。Zorn の補題により極大な組 $(E,\varphi)$ が存在します。
もし $E\ne\overline K_1$ なら $\alpha\in\overline K_1\setminus E$ を取れます。$\alpha$ は $E$ 上代数的です。その最小多項式の係数に $\varphi$ を施した多項式は、代数的閉体 $\overline K_2$ に根 $\beta$ をもちます。埋め込み延長定理により $\varphi$ は $E(\alpha)\to\overline K_2$ へ延長され、極大性に矛盾します。従って $E=\overline K_1$ です。
像 $F=\varphi(\overline K_1)$ は $\overline K_1$ と同型なので代数的閉体です。任意の $\gamma\in\overline K_2$ は $K$ 上、従って $F$ 上代数的です。代数的閉体 $F$ は真の代数拡大をもたないので $\gamma\in F$ です。従って $F=\overline K_2$、すなわち $\varphi$ は全射でもあります。□
同型は一般に一意ではありません。例えば $\overline{\mathbb Q}$ の中で $\sqrt2$ を $-\sqrt2$ に送る $\mathbb Q$ 上の自己同型が存在します。「代数閉包を一つ固定する」と宣言するのは、その多数の同型の中から舞台を一つ選ぶ操作です。
$\alpha,\beta$ が $K$ 上代数的であるとする。$\alpha+\beta$ と $\alpha\beta$ が $K$ 上代数的であることを、生成体の次数を使って示せ。
$K(\alpha,\beta)/K$ は有限次です。$\alpha+\beta$ と $\alpha\beta$ はこの有限次拡大の元なので、いずれも $K$ 上代数的です。これは個別の消去計算をせず、有限次性だけで同時に結論する方法です。□
$\Omega$ が代数的閉体で $L/\Omega$ が有限次なら $L=\Omega$ を示せ。
有限次拡大は代数拡大です。任意の $\alpha\in L$ の最小多項式は $\Omega[x]$ の既約多項式ですが、代数的閉体上の既約多項式は一次式だけです。従って $\alpha\in\Omega$ です。よって $L\subseteq\Omega$ であり、逆の包含と合わせて $L=\Omega$ です。□
代数学の基本定理を用いて、$\mathbb C$ が $\mathbb R$ の代数閉包であることを示せ。
$i$ は $x^2+1$ の根なので $\mathbb C=\mathbb R(i)$ は $\mathbb R$ の2次代数拡大です。また代数学の基本定理により、$\mathbb C$ 係数の非定数多項式は $\mathbb C$ に根をもちます。従って $\mathbb C$ は代数的閉体であり、二条件から $\mathbb R$ の代数閉包です。□
$K\subseteq E\subseteq\overline K$ とする。$E/K$ と $\overline K/E$ がともに代数拡大であることを示せ。また $\overline K$ が $E$ の代数閉包でもあることを示せ。
$E$ の各元は $\overline K$ の元なので $K$ 上代数的であり、$E/K$ は代数拡大です。$\alpha\in\overline K$ は $K$ 上の多項式を満たします。その多項式は $E[x]$ の多項式でもあるので、$\alpha$ は $E$ 上代数的です。従って $\overline K/E$ も代数拡大です。$\overline K$ はすでに代数的閉体なので、$E$ の代数閉包の二条件を満たします。□
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