5-1 素数を法とする有限体

$$$$

時計の計算で割り算はできるか

5時間後、10時間後、15時間後を5時間制の時計で見ると、いずれも0へ戻る。余りの計算には有限個の数しか現れない。この世界で連立方程式を解くには、非零元で割れることを確かめなければならない。

合同類と演算

正整数 $n$ に対し、$a-b$ が $n$ で割り切れるとき $a\equiv b\pmod n$ と書く。
ここでは初等整数論で証明する Euclid の互除法と Bézout の等式、すなわち $\gcd(a,b)=1$ なら $ra+sb=1$ となる整数 $r,s$ が存在することを用いる。これは体に固有の内容ではないため、本書では再証明せず「初等整数論」系列への共有依存とする。

剰余類

整数 $a$ に対し
$$ [a]_n:=\{b\in\mathbb{Z}\mid b\equiv a\pmod n\} $$
を $a$ の $n$ を法とする剰余類という。剰余類全体を $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ と書く。

剰余類に
$$ [a]_n+[b]_n:=[a+b]_n,\qquad [a]_n[b]_n:=[ab]_n $$
と演算を定めたい。代表元の選び方で答えが変わらないことが必要である。

剰余類の演算は代表元によらない

$a\equiv a'\pmod n$ かつ $b\equiv b'\pmod n$ なら
$$ a+b\equiv a'+b'\pmod n,\qquad ab\equiv a'b'\pmod n. $$
したがって上の加法と乗法は well-defined である。

ある整数 $r,s$ が存在して $a-a'=rn,b-b'=sn$ と書ける。すると
$$ (a+b)-(a'+b')=(r+s)n $$
なので和は合同である。また
$$ ab-a'b'=a(b-b')+b'(a-a')=(as+b'r)n $$
なので積も合同である。

素数のとき体になる

素数体 $\mathbb{F}_p$

$p$ を素数とする。剰余類環 $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ を素体|!FORMULA[23][-218836383][0]と書く。計算では各剰余類を代表元 $0,1,\ldots,p-1$ で表す。下の定理で、これが体になることを証明する。

Euclid の補題

$p$ が素数で $p\mid ab$ なら、$p\mid a$ または $p\mid b$ である。

$p\nmid a$ とする。$p$ は素数なので $a$ と $p$ の最大公約数は1である。Bézout の等式により、整数 $r,s$ が存在して $ra+sp=1$ となる。両辺へ $b$ を掛ければ
$$ rab+spb=b. $$
$p\mid ab$ だから右辺の左側の二項はいずれも $p$ で割り切れ、したがって $p\mid b$ である。

素数を法とする剰余類は体をなす

$p$ が素数なら $\mathbb{F}_p$ は体である。

加法・乗法の結合則、交換則、分配法則は整数の法則から引き継がれる。$[0]_p$ と $[1]_p$ が単位元であり、$[a]_p$ の加法逆元は $[-a]_p$ である。
残るのは非零元の乗法逆元である。$[a]_p\ne[0]_p$ なら $p\nmid a$ であり、$\gcd(a,p)=1$ である。Bézout の等式により整数 $r,s$ が存在して
$$ ra+sp=1. $$
剰余類を取ると $[r]_p[a]_p=[1]_p$ なので、$[r]_p$ が $[a]_p$ の逆元である。よって $\mathbb{F}_p$ は体である。

素数でない法では一般に失敗する。$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ では
$$ [2]_6[3]_6=[0]_6 $$
である。$[2]_6,[3]_6$ はいずれも非零なので零因子があり、体ではない。

実際に逆元を求める

$\mathbb{F}_7$ で $3^{-1}$ を求める。Euclid の互除法を逆向きにたどると
$$ 7=2\cdot3+1,\qquad 1=7-2\cdot3. $$
したがって $-2\cdot3\equiv1\pmod7$ であり、$3^{-1}=5$ である。
方程式 $3x+4=2$ は
$$ 3x=-2=5,\qquad x=5\cdot5=25=4 $$
と解ける。検算すると $3\cdot4+4=16=2$ である。

標数

体の標数

体 $K$ で
$$ \underbrace{1+\cdots+1}_{n\text{ 個}}=0 $$
となる最小の正整数 $n$ が存在するとき、その $n$ を $K$ の体の標数|標数(characteristic)という。そのような $n$ が存在しないとき標数を0とする。

体の正の標数は素数である

体 $K$ の標数が正なら、それは素数である。

標数を $n$ とし、$n=ab$ が $1< a< n,1< b< n$ と分解できたと仮定する。$a\cdot1$ を $1$ の $a$ 個の和、$b\cdot1$ を $1$ の $b$ 個の和と書けば
$$ (a\cdot1)(b\cdot1)=n\cdot1=0. $$
体には零因子がないので、$a\cdot1=0$ または $b\cdot1=0$ である。これは $n$ の最小性に反する。したがって $n$ は素数である。

標数 $p$ の体は $\mathbb{F}_p$ を含む

標数 $p>0$ の体 $K$ では、写像
$$ \iota\colon\mathbb{F}_p\to K,\qquad [n]_p\mapsto n\cdot1_K $$
は単射な体準同型である。したがって $\mathbb{F}_p$ を $K$ の部分体とみなせる。

$n\equiv m\pmod p$ なら $n-m=kp$ と書け、$K$ の標数が $p$ なので
$$ (n-m)\cdot1_K=k(p\cdot1_K)=0. $$
よって $n\cdot1_K=m\cdot1_K$ であり、$\iota$ は代表元によらない。和と積を保ち、$[1]_p$ を $1_K$ へ送ることは、整数倍の定義と分配法則から従う。体準同型は単射なので結論を得る。

$\mathbb{Q},\mathbb{R},\mathbb{C}$ の標数は0、$\mathbb{F}_p$ の標数は $p$ である。

演習

有限体の連立方程式

$\mathbb{F}_5$ で
$$ x+2y=1,\qquad 3x+y=4 $$
を解け。

解答

第一式から $x=1-2y$。第二式へ代入すると
$$ 3(1-2y)+y=4,\qquad -5y=1. $$
$\mathbb{F}_5$ では $-5=0$ なので左辺は0となり、$0=1$ という矛盾を得る。したがって解はない。実数上の同じ係数の方程式とは答えが異なる。

一般の有限体 $\mathbb{F}_{p^n}$ は、本論の 18_有限体の構成.md 以降で多項式の剰余類を使って構成する。

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する

前ページへ
体とGalois理論 ― 拡大・分離性・正規性・Galois対応から一般五次方程式までの表紙
次ページへ