前提知識:Galois拡大とGalois群、Galoisの基本定理、二次拡大
$K$ 上既約な三次多項式 $f(x)$ を取り、その分解体を $L$ とします。$f$ の三根を
$$
r_1,r_2,r_3
$$
と書くと、$\operatorname{Gal}(L/K)$ の各元は三根を置換します。従ってGalois群は $S_3$ の部分群として実現されます。
既約性のため、この作用は三根のどれからどれへでも移れる推移的な作用になります。$S_3$ の推移的部分群は
$$
A_3\cong C_3
\qquad\text{または}\qquad
S_3
$$
だけです。どちらになるかを、根を実際に解かずに係数から判定する道具が判別式です。
本章では $\operatorname{char}K\ne2,3$ と仮定します。標数2では置換の符号を平方根の符号変化として検出できず、標数3では平方完成ならぬ三次式の平行移動に別の注意が必要になるためです。
代数閉包内で
$$
f(x)=(x-r_1)(x-r_2)(x-r_3)
$$
と分解するモニック三次多項式に対し、三次多項式の判別式|判別式を
$$
\Delta(f)
=\prod_{1\le i< j\le3}(r_i-r_j)^2
$$
と定める。
判別式は根の置換で変わらない対称式なので、係数の属する体 $K$ の元です。また
$$
\Delta(f)=0
$$
であることと二根が一致することは同値です。従って $f$ が分離的であることと $\Delta(f)\ne0$ は同値です。
$$
f(x)=x^3+ax^2+bx+c
$$
とすると
$$
\Delta(f)
=a^2b^2-4b^3-4a^3c-27c^2+18abc.
$$
特に
$$
g(x)=x^3+px+q
$$
なら
$$
\Delta(g)=-4p^3-27q^2.
$$
まず $g(x)=x^3+px+q$ の三根を $u,v,w$ とします。Vietaの公式から
$$
u+v+w=0,
\qquad
uv+vw+wu=p,
\qquad
uvw=-q.
$$
$w=-u-v$ を
$$
(u-v)^2(v-w)^2(w-u)^2
$$
へ代入すると
$$
(u-v)^2(u+2v)^2(2u+v)^2.
$$
これを展開して $uv+vw+wu=-(u^2+uv+v^2)$、$uvw=-uv(u+v)$ を用いて整理すると
$$
(u-v)^2(v-w)^2(w-u)^2
=-4(uv+vw+wu)^3-27(uvw)^2.
$$
従って
$$
\Delta(g)=-4p^3-27q^2.
$$
一般の $f$ に対して
$$
x=y-\frac a3
$$
と平行移動すると
$$
f\left(y-\frac a3\right)=y^3+py+q,
$$
ただし
$$
p=b-\frac{a^2}{3},
\qquad
q=c-\frac{ab}{3}+\frac{2a^3}{27}.
$$
根をすべて同じ量だけ平行移動しても根の差は変わらないので、判別式も変わりません。従って
$$
\Delta(f)=-4p^3-27q^2.
$$
ここへ $p,q$ を代入して分母を通分し展開すると
$$
\begin{aligned}
-4p^3
&=-4b^3+4a^2b^2-\frac43a^4b+\frac4{27}a^6,\\
-27q^2
&=-27c^2-3a^2b^2-\frac4{27}a^6+18abc\\
&\qquad-4a^3c+\frac43a^4b.
\end{aligned}
$$
二式を足すと $a^6$ と $a^4b$ の項が打ち消し合い、
$$
\Delta(f)
=a^2b^2-4b^3-4a^3c-27c^2+18abc
$$
を得ます。□
$f\in K[x]$ を分離既約多項式、$L$ をその分解体とする。このとき
$$
G=\operatorname{Gal}(L/K)
$$
は $f$ の根全体へ推移的に作用する。
$f$ の任意の二根を $r_i,r_j$ とします。既約性から、どちらの $K$ 上の最小多項式も $f$ です。従って
$$
K(r_i)\longrightarrow K(r_j),
\qquad r_i\longmapsto r_j
$$
という $K$ 同型があります。
埋め込み延長定理により、これは $L$ から代数閉包への $K$ 埋め込みへ延長できます。$L/K$ は分解体なので正規であり、延長された埋め込みは $L$ を $L$ 自身へ写します。従ってある $\sigma\in G$ が存在して
$$
\sigma(r_i)=r_j.
$$
二根は任意なので作用は推移的です。□
$S_3$ の部分群 $G$ が $\{1,2,3\}$ へ推移的に作用するなら
$$
G=A_3
\qquad\text{または}\qquad
G=S_3.
$$
軌道・安定化群公式から
$$
|G|=|G\cdot1|\,|G_1|=3|G_1|.
$$
従って3が $|G|$ を割ります。一方Lagrangeの定理から $|G|$ は $|S_3|=6$ を割るので
$$
|G|=3\quad\text{または}\quad6.
$$
位数6なら $G=S_3$ です。位数3なら、$S_3$ の位数3の元は二つの3-cycleであり、それらと恒等置換からなる唯一の部分群 $A_3$ に等しいです。□
平方を取る前の積
$$
\delta=(r_1-r_2)(r_1-r_3)(r_2-r_3)
$$
を考えます。もちろん
$$
\delta^2=\Delta(f).
$$
$\sigma\in G$ が三根へ与える置換を $\pi_\sigma\in S_3$ とする。このとき
$$
\sigma(\delta)=\operatorname{sgn}(\pi_\sigma)\delta.
$$
互換で二根を入れ替えると、対応する一つの差の符号が変わり、残り二つの差が交換されるので積全体の符号は一度だけ変わります。任意の置換は互換の積として書け、互換の個数の偶奇が置換の符号です。従って偶置換は $\delta$ を固定し、奇置換は $\delta$ を $-\delta$ へ写します。□
これにより、根の置換の偶奇が一つの平方根の符号変化として見えるようになります。
$\operatorname{char}K\ne2,3$ とし、$f\in K[x]$ を分離既約な三次多項式、$L$ をその分解体とする。このとき
$$
\operatorname{Gal}(L/K)\cong
\begin{cases}
A_3\cong C_3,&\Delta(f)\in(K^\times)^2,\\
S_3,&\Delta(f)\notin(K^\times)^2.
\end{cases}
$$
$G=\operatorname{Gal}(L/K)$ は根へ推移的に作用するので、前の補題から $A_3$ または $S_3$ です。
まず $\Delta(f)$ が $K$ の平方であるとし
$$
\Delta(f)=s^2
\qquad(s\in K)
$$
と書きます。分離性から $\Delta(f)\ne0$。$L$ の中で
$$
\delta^2=s^2
$$
なので
$$
(\delta-s)(\delta+s)=0.
$$
体には零因子がないため $\delta=s$ または $\delta=-s$、従って $\delta\in K$ です。$G$ の全要素は $K$ を固定するので $\delta$ を固定します。Vandermonde積の符号変化から $G$ の全要素は偶置換であり
$$
G\le A_3.
$$
推移性から $G=A_3$ です。
逆に $\Delta(f)$ が平方でないとします。もし $G=A_3$ なら、全要素が偶置換なので $\delta$ は $G$ の全要素に固定されます。固定体定理から
$$
\delta\in L^G=K.
$$
すると $\Delta(f)=\delta^2$ は $K$ の平方となり矛盾します。従って $G=S_3$ です。□
$G=S_3$ の場合、$A_3$ は指数2の正規部分群です。Vandermonde積 $\delta$ は偶置換で固定され、奇置換で符号を変えるので
$$
L^{A_3}=K(\delta)=K(\sqrt{\Delta(f)}).
$$
等号を次数で確認します。$A_3$ の固定体は $K$ 上
$$
[L^{A_3}:K]=[S_3:A_3]=2
$$
次です。一方、$\Delta(f)$ は非平方なので
$$
[K(\delta):K]=2.
$$
包含 $K(\delta)\subseteq L^{A_3}$ と次数が一致するため等号です。
従って、既約三次式の分解体に現れる唯一の二次中間体は、判別式の平方根を加えた体です。この体を二次resolvent体と呼ぶことがあります。
$$
f(x)=x^3-2
$$
は素数2に関するEisensteinの判定法で $\mathbb Q$ 上既約です。$p=0,q=-2$ なので
$$
\Delta(f)=-27(-2)^2=-108=-3\cdot6^2.
$$
$-108$ は $\mathbb Q$ の平方ではありません。従って
$$
\operatorname{Gal}(f/\mathbb Q)\cong S_3.
$$
二次resolvent体は
$$
\mathbb Q(\sqrt{-108})
=\mathbb Q(\sqrt{-3})
=\mathbb Q(\omega)
$$
です。ここで $\omega$ は1の原始三乗根です。これまでの頁で分解体
$$
\mathbb Q(\sqrt[3]{2},\omega)
$$
の中に現れた二次中間体が、判別式だけから回収できました。
$$
f(x)=x^3-3x+1
$$
を考えます。有理根候補は $\pm1$ ですが
$$
f(1)=-1,
\qquad
f(-1)=3
$$
なので有理根をもちません。三次式は可約なら一次因子をもつため、$f$ は $\mathbb Q$ 上既約です。
判別式は
$$
\Delta(f)=-4(-3)^3-27\cdot1^2
=108-27
=81=9^2.
$$
従ってGalois群は
$$
A_3\cong C_3
$$
です。分解体の次数は3なので、一根 $\alpha$ を加えた体 $\mathbb Q(\alpha)$ が既に分解体です。
実際、$\alpha^3=3\alpha-1$ を用いて計算すると
$$
\beta=\alpha^2-2
$$
も $f$ の根です。さらに
$$
\gamma=\beta^2-2
$$
も根です。下の計算は「$f$ の任意の根を二乗して2を引くと再び根になる」ことを示しているので、$\alpha$ を $\beta$ へ送る $\mathbb Q$ 埋め込み
$$
\mathbb Q(\alpha)\longrightarrow\mathbb Q(\alpha)
$$
が定まります。有限次元の体からそれ自身への単射は全射なので、これは自己同型です。$\beta=\alpha$ なら $\alpha^2-\alpha-2=0$ となり $\alpha=2$ または $-1$ ですが、どちらも $f$ の根でないので非自明です。Galois群は位数3ですから、この自己同型の位数は3であり、変換
$$
\alpha\longmapsto\alpha^2-2
$$
は三根を巡回させます。これが位数3のGalois群の生成元です。
例えば $\beta$ について直接確かめます。$\alpha^3=3\alpha-1$ から
$$
\alpha^4=3\alpha^2-\alpha,
\qquad
\alpha^6=(3\alpha-1)^2=9\alpha^2-6\alpha+1.
$$
従って
$$
\begin{aligned}
\beta^3-3\beta+1
&=(\alpha^2-2)^3-3(\alpha^2-2)+1\\
&=\alpha^6-6\alpha^4+9\alpha^2-1\\
&=(9\alpha^2-6\alpha+1)-6(3\alpha^2-\alpha)+9\alpha^2-1\\
&=0.
\end{aligned}
$$
抽象的な判別式判定と、根を巡回させる具体式が一致しています。
判別式が平方かどうかだけで $A_3$ と $S_3$ を判定できるのは、既約性によってGalois群の作用が推移的になるからです。
例えば
$$
f(x)=(x-1)(x^2-2)
$$
は分離的ですが可約です。分解体は $\mathbb Q(\sqrt2)$、Galois群は $C_2$ です。これは $S_3$ の部分群ではありますが、三根 $1,\sqrt2,-\sqrt2$ へ推移的には作用しません。根 $1$ は常に固定されます。
従って三次式を調べる順序は次のとおりです。
$$
f(x)=x^3-x-1
$$
の $\mathbb Q$ 上のGalois群を求めよ。
有理根候補は $\pm1$ ですが
$$
f(1)=-1,
\qquad
f(-1)=-1
$$
なので有理根をもちません。従って三次式 $f$ は既約です。
$p=-1,q=-1$ なので
$$
\Delta(f)=-4(-1)^3-27(-1)^2=4-27=-23.
$$
$-23$ は $\mathbb Q$ の平方でないため
$$
\operatorname{Gal}(f/\mathbb Q)\cong S_3.
$$
□
$$
f(x)=x^3-3x-1
$$
が $\mathbb Q$ 上既約で、Galois群が $C_3$ であることを示せ。
有理根候補 $\pm1$ に対して
$$
f(1)=-3,
\qquad
f(-1)=1
$$
なので有理根はなく、$f$ は既約です。判別式は
$$
\Delta(f)=-4(-3)^3-27(-1)^2=108-27=81=9^2.
$$
従ってGalois群は
$$
A_3\cong C_3
$$
です。□
$p,q\in\mathbb Q$ とし、$f(x)=x^3+px+q$ が既約であるとする。$4p^3+27q^2$ の値からGalois群を判定する条件を書け。
判別式は
$$
\Delta(f)=-4p^3-27q^2=-(4p^3+27q^2)
$$
です。既約性が仮定されているので、これが $\mathbb Q$ の平方なら
$$
\operatorname{Gal}(f/\mathbb Q)\cong C_3,
$$
平方でなければ
$$
\operatorname{Gal}(f/\mathbb Q)\cong S_3.
$$
なお $\Delta(f)=0$ なら分離的でなく、問題の仮定のもとでは起こりません。標数0では既約多項式は分離的だからです。□
$f(x)=x^3-x-1$ の分解体 $L$ に含まれる唯一の二次中間体を求めよ。
先の演習から $\Delta(f)=-23$、Galois群は $S_3$ です。唯一の指数2部分群は $A_3$ であり、その固定体は
$$
\mathbb Q(\sqrt{\Delta(f)})
=\mathbb Q(\sqrt{-23})
$$
です。$S_3$ の位数3の部分群は $A_3$ だけなので、二次中間体もこれ一つだけです。□
$$
f(x)=(x-1)(x^2-2)
$$
の判別式とGalois群を求め、既約三次式の判定定理をそのまま適用できないことを説明せよ。
三根は $1,\sqrt2,-\sqrt2$ です。従って
$$
\begin{aligned}
\Delta(f)
&=(1-\sqrt2)^2(1+\sqrt2)^2(2\sqrt2)^2\\
&=((1-\sqrt2)(1+\sqrt2))^2\cdot8\\
&=(-1)^2\cdot8=8.
\end{aligned}
$$
分解体は $\mathbb Q(\sqrt2)$ なので
$$
\operatorname{Gal}(f/\mathbb Q)\cong C_2.
$$
判別式8は平方ではありませんが、Galois群は $S_3$ ではありません。これは $f$ が可約で、Galois群が三根へ推移的に作用しないためです。既約性は判定定理の本質的な仮定です。□
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