実数の多項式では、グラフが $x$ 軸へ接する点で $f(a)=f'(a)=0$ となります。体論ではグラフも極限も使えませんが、係数だけで定める形式微分は任意の体で意味をもちます。そして「$a$ が重根である」ことを、$f$ と $f'$ が共通根をもつこととして正確に捉えます。
体 $K$ 上の多項式
$$
f(x)=a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n
$$
に対し、その形式微分を
$$
f'(x)=a_1+2a_2x+\cdots+na_nx^{n-1}
$$
と定める。ここで整数 $m$ は $m\cdot1_K$ を表す。
定義は係数の有限回の加法と乗法だけを使うため、有限体でも成立します。ただし標数 $p>0$ では $p=0$ なので、例えば
$$
(x^p)'=px^{p-1}=0.
$$
零でない多項式の微分が零になることは、実数上との大きな違いです。
$f,g\in K[x]$、$a,b\in K$ に対して
$$
(af+bg)'=af'+bg',
$$
$$
(fg)'=f'g+fg'.
$$
さらに $m\ge1$ なら
$$
(f^m)'=mf^{m-1}f'.
$$
線形性は係数ごとの定義から直ちに従います。積の公式は単項式について
$$
(x^ix^j)'=(i+j)x^{i+j-1}
=ix^{i-1}x^j+x^ijx^{j-1}
$$
であり、係数を掛けて有限和を取れば一般の場合を得ます。
冪の公式は $m$ について帰納します。$m=1$ は明らかです。$m$ で成立するとき積の公式から
$$
(f^{m+1})'=(f^mf)'=(f^m)'f+f^mf'
=mf^{m-1}f'f+f^mf'=(m+1)f^mf'.
$$
従ってすべての $m$ で成立します。□
$f\in K[x]$、拡大体 $L/K$、$a\in L$ とする。ある $m\ge1$ に対して
$$
(x-a)^m\mid f,\qquad (x-a)^{m+1}\nmid f
$$
であるとき、$a$ を $f$ の根の重複度|重複度 !FORMULA[32][38011][0] の根という。$m=1$ の根を単根、$m\ge2$ の根を重根という。
因数定理により、$f(a)=0$ は重複度が少なくとも1であることと同値です。微分を使うと、少なくとも2であることを判定できます。
$a$ が $f\in K[x]$ のある拡大体内の根であるとする。このとき
$$
a\text{ が重根}
\quad\Longleftrightarrow\quad
f(a)=f'(a)=0.
$$
より一般に、$f=(x-a)^mg$、$g(a)\ne0$ なら、$a$ は $f'$ の重複度 $m-1$ の根である。ただし体の標数が $m$ を割るときは、重複度がさらに大きくなることがある。
$f=(x-a)^mg$、$g(a)\ne0$ と書きます。積の公式から
$$
f'=m(x-a)^{m-1}g+(x-a)^mg'
=(x-a)^{m-1}\bigl(mg+(x-a)g'\bigr).
$$
$m\ge2$ なら $x-a$ は $f'$ を割るので $f'(a)=0$ です。
逆に $m=1$ なら
$$
f'(a)=g(a)\ne0.
$$
従って $f(a)=f'(a)=0$ なら $m\ne1$、すなわち $m\ge2$ です。
表示式から $(x-a)^{m-1}\mid f'$ も分かります。括弧内へ $x=a$ を代入した値は $mg(a)$ です。これが零でなければ重複度はちょうど $m-1$。標数が $m$ を割ればこの値が零になり、もう一段以上割れる可能性があります。□
例えば標数0では
$$
f=(x-1)^3(x+2)
$$
なら $1$ は $f'$ の重複度2の根です。一方、標数 $p$ では
$$
f=x^p-a
$$
に対して $f'=0$ です。代数閉包で $a=b^p$ と書けば
$$
x^p-a=x^p-b^p=(x-b)^p
$$
となり、唯一の根が $p$ 重に現れます。
$K[x]$ は Euclid 整域なので、$f$ と $f'$ の最大公約数を取れます。最大公約数はモニックに選ぶことにします。
零でない $f\in K[x]$ について次は同値である。
$1\Rightarrow2$:$d=\gcd(f,f')$ が正次数なら、代数閉包で $d$ は根 $a$ をもちます。すると $f(a)=f'(a)=0$ となり、重根判定に反します。従って $d=1$ です。
$2\Rightarrow1$:もし $a$ が重根なら重根判定から $f(a)=f'(a)=0$ です。$a$ の $K$ 上の最小多項式 $p$ は、評価写像の核の性質により $f$ と $f'$ の両方を割ります。従って $\gcd(f,f')$ は正次数となり、仮定に反します。□
この証明は、よくある言い過ぎも明らかにします。「平方因子をもたない」と「重根をもたない」は、標数0や有限体では同値ですが、任意の非完全体では同値とは限りません。従って一般の体では $\gcd(f,f')=1$ を安全な判定として使います。
$f$ のすべての既約因子 $p$ が $p'\ne0$ を満たす場合、次は同値である。
最初の二条件は定理で同値です。$p^2\mid f$ なら $f=p^2h$ と書け、積の微分から $p\mid f'$。従って最大公約数は1ではありません。
逆に $p\mid f,f'$ となる既約多項式 $p$ を取り、$f=ph$ と書けば
$$
p\mid f'-p'h=ph'-p'h
$$
なので $p\mid p'h$。$p'\ne0$ かつ $\deg p'<\deg p$ より $p\nmid p'$。Euclid の補題から $p\mid h$、従って $p^2\mid f$ です。□
体 $K$ の標数が0なら、$f'=0$ となる $f\in K[x]$ は定数多項式だけである。
$K$ の標数が素数 $p$ なら
$$
f'=0
\quad\Longleftrightarrow\quad
f(x)=g(x^p)
$$
となる $g\in K[x]$ が存在する。
$f=\sum a_nx^n$ とします。$f'=0$ なら各 $n\ge1$ について $na_n=0$。標数0では $n\ne0$ なので $a_n=0$ です。
標数 $p$ では $n\cdot1_K=0$ であることと $p\mid n$ は同値です。従って $a_n\ne0$ となり得る正の次数は $n=pm$ だけで
$$
f(x)=\sum_m a_{pm}x^{pm}
=\sum_m a_{pm}(x^p)^m.
$$
右辺の一変数多項式を $g(x^p)$ と書けます。逆に $(x^{pm})'=pmx^{pm-1}=0$ なので、この形の多項式の微分は零です。□
$f=g(x^p)$ であることと、$f$ が多項式の $p$ 乗であることは同じではありません。後者には各係数が $K$ 内で $p$ 乗根をもつことも必要です。有限体ではFrobenius写像が全射なので同じになりますが、$\mathbb F_p(t)$ の元 $t$ は $p$ 乗ではありません。この差が非分離拡大を生みます。
有理数体上で
$$
f=x^4-2x^2+1=(x^2-1)^2
$$
とします。
$$
f'=4x^3-4x=4x(x^2-1)
$$
なので
$$
\gcd(f,f')=x^2-1.
$$
従って $1,-1$ が重根です。
一方
$$
g=x^4+x+1
$$
では $g'=4x^3+1$。Euclid算法で最大公約数が1と分かれば、根を明示しなくても重根がないと判定できます。分解体を先に計算する必要がないことが、この方法の実用上の利点です。
標数0の体上で
$$
f=(x-a)^4(x-b)^2,\qquad a\ne b
$$
とする。$a,b$ の $f'$ における重複度を求めよ。
標数0なので、重複度 $m$ の根は微分後に重複度がちょうど $m-1$ になります。従って $a$ の重複度は3、$b$ の重複度は1です。直接には
$$
f'=(x-a)^3(x-b)\bigl(4(x-b)+2(x-a)\bigr)
$$
で、最後の因子は $x=a,b$ のいずれでも零になりません。□
$\mathbb F_3[x]$ で
$$
f=x^6+2x^3+1
$$
の形式微分を求め、$f$ を因数分解して根の重複を説明せよ。
標数3なので
$$
f'=6x^5+6x^2=0.
$$
また Frobenius により
$$
(x^2+2x+1)^3=x^6+2^3x^3+1
=x^6+2x^3+1.
$$
$x^2+2x+1=(x+1)^2$ なので
$$
f=(x+1)^6.
$$
従って根 $-1=2$ が重複度6で現れます。□
$f=x^3-3x+2\in\mathbb Q[x]$ について $\gcd(f,f')$ を求め、重根とその重複度を決定せよ。
$$
f'=3x^2-3=3(x-1)(x+1).
$$
$f(1)=0$ かつ $f'(1)=0$ なので $x-1$ は最大公約数を割ります。実際
$$
f=(x-1)^2(x+2)
$$
より
$$
\gcd(f,f')=x-1.
$$
従って $1$ が重複度2の根で、$-2$ は単根です。□
$K=\mathbb F_p(t)$ とし $f=x^p-t\in K[x]$ とする。$f'=0$ を示せ。また $t$ の $p$ 乗根 $u$ を添加した体では $f=(x-u)^p$ となることを示せ。
標数 $p$ なので
$$
f'=px^{p-1}=0.
$$
$u^p=t$ とすれば二項係数 $\binom pk$ は $0< k< p$ で $p$ の倍数なので、標数 $p$ では
$$
(x-u)^p=x^p-u^p=x^p-t=f.
$$
従って $u$ は唯一の根で、重複度 $p$ です。なお $f$ は $K[x]$ では既約になり得るため、「既約なら重根をもたない」は任意の体では正しくありません。□
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