これまでは体拡大 $L/K$ から自己同型群を作りました。Artin固定体定理は逆向きです。体 $L$ の有限自己同型群 $H$ だけを出発点にし、その固定体 $K=L^H$ を取ると、$L/K$ は自動的に有限Galois拡大となり、Galois群はちょうど $H$ になります。しかも
$$
[L:K]=|H|.
$$
$H=\{\sigma_1,\ldots,\sigma_n\}$ を体 $L$ の有限自己同型群とし、$K=L^H$ とする。このとき
$$
[L:K]\le n.
$$
もし $[L:K]>n$ なら、$K$ 上一次独立な $n+1$ 元
$$
u_1,\ldots,u_{n+1}\in L
$$
を取れます。未知数 $x_1,\ldots,x_{n+1}\in L$ に関する $n$ 本の斉次方程式
$$
\sum_{j=1}^{n+1}\sigma_i(u_j)x_j=0
\qquad(1\le i\le n)
$$
を考えます。未知数の方が方程式より多いので非零解があります。非零成分の個数が最小の解を一つ選び、添字を替えて $x_1\ne0$ とします。全成分を $x_1$ で割り、$x_1=1$ としてよいです。
$\tau\in H$ を取ります。方程式へ $\tau$ を施すと
$$
\sum_{j=1}^{n+1}(\tau\sigma_i)(u_j)\tau(x_j)=0.
$$
$\sigma_i$ が $H$ 全体を動くとき $\tau\sigma_i$ も $H$ 全体を動くので、$(\tau(x_1),\ldots,\tau(x_{n+1}))$ も同じ連立方程式の解です。$x_1=1$ なので $\tau(x_1)=1$。従って
$$
(\tau(x_1)-x_1,\ldots,\tau(x_{n+1})-x_{n+1})
$$
も解であり、その第一成分は0です。もし非零解なら元の解より非零成分が少なく、最小性に反します。よって
$$
\tau(x_j)=x_j
$$
が全 $j$ で成立します。$\tau$ は任意なので $x_j\in L^H=K$ です。
恒等写像も $H$ の元なので、対応する方程式は
$$
\sum_{j=1}^{n+1}u_jx_j=0.
$$
$x_j\in K$ で、少なくとも $x_1=1$ は非零です。これは $u_1,\ldots,u_{n+1}$ の $K$ 上一次独立性に反します。従って $[L:K]\le n$ です。□
一方、$H$ の $n$ 個の元は相異なる $K$ 上の自己同型なので、一般の埋め込み数の上界から
$$
n\le[L:K].
$$
二つを合わせると等号になります。
$H$ を体 $L$ の有限自己同型群とし、$K=L^H$ とする。このとき
$n=|H|$ とします。次元上界の補題から $[L:K]\le n$。一方 $H$ の各元は $K=L^H$ を固定する相異なる $K$ 埋め込みなので
$$
n\le[L:K].
$$
従って
$$
[L:K]=n.
$$
また
$$
H\subseteq\operatorname{Aut}_K(L)
$$
で、左辺の位数は $n=[L:K]$。自己同型数は拡大次数以下なので、包含は等号です。自己同型数が拡大次数に等しい有限拡大はGalois拡大であることを既に示したので、$L/K$ はGaloisです。□
上の状況で $a\in L$ とし、$H_a$ を安定化群とする。このとき $a$ の $K=L^H$ 上の最小多項式は
$$
m_{a,K}(x)=\prod_{b\in H\cdot a}(x-b)
$$
であり
$$
[K(a):K]=|H\cdot a|=[H:H_a].
$$
軌道多項式の係数は $K$ に属し $a$ を根にもつので、最小多項式 $m_{a,K}$ は軌道多項式を割ります。
逆に $L/K$ はGaloisで、$K$ 上の埋め込みは $H$ の元すべてです。$a$ の $K$ 共役は、これらの埋め込みによる像 $\sigma(a)$、すなわち軌道の元に尽きます。分離性により最小多項式はそれらを重複なく根にもつので、軌道多項式と一致します。次数公式と軌道・安定化群公式から後半を得ます。□
$L/K$ を有限Galois拡大、$G=\operatorname{Gal}(L/K)$ とし、$H\le G$ とする。このとき
$$
\operatorname{Gal}(L/L^H)=H.
$$
Artin固定体定理を $H$ の $L$ への作用に適用すれば、固定体は $L^H$ であり、$L/L^H$ のGalois群はちょうど $H$ です。□
中間体 $E$ に対する逆向きの等式
$$
L^{\operatorname{Gal}(L/E)}=E
$$
は、$L/E$ がGaloisとは限らないため、もう一段の議論が必要に見えます。しかし $L/K$ がGaloisなら $L/E$ は常にGaloisです。従ってGalois群全体の固定体の定理を $L/E$ に適用でき、等式が成立します。これで二つの操作が互いに逆になります。
$L=\mathbb C(t)$ とし、$\zeta$ を1の原始 $n$ 乗根とします。
$$
\sigma(t)=\zeta t,
\qquad \sigma(c)=c\quad(c\in\mathbb C)
$$
と定めると $\sigma^n=1$ で、$H=\langle\sigma\rangle$ は位数 $n$ の自己同型群です。$t^n$ は
$$
\sigma(t^n)=\zeta^nt^n=t^n
$$
なので $\mathbb C(t^n)\subseteq L^H$。
一方 $t$ は $\mathbb C(t^n)$ 上
$$
x^n-t^n
$$
を満たすので
$$
[\mathbb C(t):\mathbb C(t^n)]\le n.
$$
Artin固定体定理から $[L:L^H]=n$。包含と塔の次数を比較すると
$$
L^H=\mathbb C(t^n).
$$
対称性 $t\mapsto\zeta t$ の下で不変な有理関数が $t^n$ の有理式になることを、次数だけで証明できました。
$L=\mathbb C$、$H=\{1,\tau\}$、$\tau(z)=\overline z$ とする。$L^H=\mathbb R$ とArtin固定体定理から $[\mathbb C:\mathbb R]=2$ を確認せよ。
$z=a+bi$ が複素共役に固定されることは
$$
a+bi=a-bi
$$
と同値で、$b=0$、すなわち $z\in\mathbb R$ と同値です。従って $L^H=\mathbb R$。Artin固定体定理から
$$
[\mathbb C:\mathbb R]=|H|=2.
$$
□
$L=\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)$、$H=\operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)$、$a=\sqrt2$ とする。$H_a$、軌道、最小多項式を求め、次数公式を確かめよ。
$\sqrt2$ を固定するのは恒等写像と、$\sqrt3$ の符号だけを変える自己同型の2元です。従って $|H_a|=2$。軌道は
$$
\{\sqrt2,-\sqrt2\}
$$
で、最小多項式は
$$
(x-\sqrt2)(x+\sqrt2)=x^2-2.
$$
また
$$
[H:H_a]=4/2=2=[\mathbb Q(\sqrt2):\mathbb Q].
$$
□
体 $L$ に相異なる8個の自己同型からなる有限群 $H$ が作用するとする。$K=L^H$ に対して $[L:K]$ と $\operatorname{Gal}(L/K)$ を求めよ。
Artin固定体定理から
$$
[L:K]=|H|=8
$$
であり
$$
\operatorname{Gal}(L/K)=H.
$$
特に $L/K$ は有限Galois拡大です。□
$L=\mathbb C(t)$、$\sigma(t)=-t$ とし $H=\{1,\sigma\}$ とする。$L^H=\mathbb C(t^2)$ を示せ。
$t^2$ は $\sigma$ に固定されるので $\mathbb C(t^2)\subseteq L^H$。$t$ は $\mathbb C(t^2)$ 上 $x^2-t^2$ を満たすため
$$
[L:\mathbb C(t^2)]\le2.
$$
一方Artin固定体定理から $[L:L^H]=|H|=2$。包含に対して塔の法則を適用すると
$$
[L:\mathbb C(t^2)]
=[L:L^H][L^H:\mathbb C(t^2)].
$$
左辺は高々2、最初の因子は2なので第二因子は1。従って固定体は $\mathbb C(t^2)$ です。□
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