2-2 代数的元と超越元

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$\sqrt2$ は $x^2-2=0$ を満たしますが、不定元 $t$ はどんな非零多項式関係も満たしません。この違いを、単なる「方程式が見つかった/見つからない」ではなく、多項式環から体への評価写像の核として捉えます。すると、代数的元を加えた世界と超越元を加えた世界の形がはっきり分かれます。
以下、$L/K$ を体拡大、$\alpha\in L$ とします。

評価写像

評価写像

写像
$$ \operatorname{ev}_\alpha:K[x]\to L, \qquad f(x)\mapsto f(\alpha) $$
を $\alpha$ における評価写像という。

評価写像は代数準同型

$\operatorname{ev}_\alpha$ は単位元を保つ $K$ 代数準同型であり、その像は
$$ K[\alpha]=\{f(\alpha):f\in K[x]\} $$
である。

多項式の代入について
$$ (f+g)(\alpha)=f(\alpha)+g(\alpha), $$
$$ (fg)(\alpha)=f(\alpha)g(\alpha), \qquad1(\alpha)=1 $$
が成り立つため環準同型です。定数多項式 $a\in K$ は $a$ へ送られるので $K$ の作用も保ちます。像の記述は定義そのものです。□

代数的か超越的か

代数的元・超越元

$\ker\operatorname{ev}_\alpha\ne0$、すなわち、ある非零 $f\in K[x]$ が $f(\alpha)=0$ を満たすとき、$\alpha$ は $K$ 上代数的元|代数的であるという。
$\ker\operatorname{ev}_\alpha=0$ のとき、$\alpha$ は $K$ 上超越元|超越的であるという。

すべての元はちょうど一方に属します。「超越的」とは、まだ方程式を発見していないという知識の不足ではなく、非零多項式関係が存在しないという数学的性質です。

代数的元の例

  • $\sqrt2$ は $x^2-2$ を満たすので $\mathbb Q$ 上代数的です。
  • $i$ は $x^2+1$ を満たすので $\mathbb R$ 上代数的です。
  • $\sqrt[3]2+1$ は $(x-1)^3-2$ を満たすので $\mathbb Q$ 上代数的です。
  • $\alpha\in K$ は $x-\alpha$ を満たすので $K$ 上代数的です。

超越元の例

有理関数体 $K(t)$ の不定元 $t$ は $K$ 上超越的です。もし
$$ a_0+a_1t+\cdots+a_nt^n=0 $$
なら、形式的多項式の等号からすべての $a_i=0$ だからです。
$\pi$ と $e$ が $\mathbb Q$ 上超越的であることも知られていますが、その証明は本書の範囲を大きく超えます。ここでは未証明の例として論証に使いません。

超越元が作る多項式環

超越元の多項式環

$\alpha$ が $K$ 上超越的なら、評価写像は同型
$$ K[x]\xrightarrow{\sim}K[\alpha] $$
を与える。

評価写像の像は $K[\alpha]$ なので全射です。超越性は核が0であることなので単射でもあります。従って同型です。□

超越元が作る有理関数体

$\alpha$ が $K$ 上超越的なら
$$ K(\alpha)\cong K(x). $$

$K[\alpha]\cong K[x]$ の分数体を取ります。$K(\alpha)$ は $K[\alpha]$ を含む最小の体なのでその分数体であり、$K[x]$ の分数体は $K(x)$ です。具体的な同型は
$$ \frac{f(x)}{g(x)}\longmapsto \frac{f(\alpha)}{g(\alpha)}. $$
$g\ne0$ なら超越性により $g(\alpha)\ne0$ なので良定義です。□

超越的な場合、$K[\alpha]$ は通常は体ではありません。たとえば $x$ は $K[x]$ で単元でなく、$1/x$ は多項式ではありません。体を得るには分数を追加して $K(\alpha)$ に進む必要があります。代数的な場合には対照的に $K[\alpha]=K(\alpha)$ となります。これは最小多項式を導入した後に証明します。

基礎体により代数性は変わる

代数性は必ず「どの体上で」という相対的な概念です。$\pi$ は $\mathbb Q$ 上超越的ですが、$\mathbb R$ の元としては
$$ x-\pi\in\mathbb R[x] $$
を満たすため $\mathbb R$ 上代数的です。

基礎体を大きくしたときの代数性

$K\subseteq E\subseteq L$ とし、$\alpha\in L$ が $K$ 上代数的なら、$E$ 上も代数的である。

$\alpha$ を消す非零多項式 $f\in K[x]$ を取ります。係数包含 $K\subseteq E$ により $f$ は $E[x]$ の非零多項式でもあり、同じ等式 $f(\alpha)=0$ を満たします。□

逆は成り立ちません。上の $\pi$ が例です。

有限次拡大との関係

「塔の法則と次数計算」で、有限次拡大 $L/K$ のすべての元は $K$ 上代数的であることを証明しました。逆向きには、元一つについて次が成り立ちます。

代数的元が生成する環は有限次元

$\alpha$ が次数 $n$ の非零多項式
$$ a_nx^n+\cdots+a_0\in K[x] $$
を満たすなら、$K[\alpha]$ は
$$ 1,\alpha,\ldots,\alpha^{n-1} $$
で $K$ 上生成される。

$a_n\ne0$ で $K$ は体なので $a_n^{-1}$ を掛け、最高次係数を1にできます。従って
$$ \alpha^n=-a_n^{-1}(a_{n-1}\alpha^{n-1}+\cdots+a_0). $$
$\alpha^n$ は低い冪の線形結合です。この等式に $\alpha$ を順に掛ければ、すべての $\alpha^m$($m\ge n$)も $1,\ldots,\alpha^{n-1}$ の線形結合へ下げられます。$K[\alpha]$ の元は冪の有限線形結合なので結論を得ます。□

この生成系は必ずしも一次独立ではありません。最小次数のmonic関係を選ぶことで、正確な基底と次数が得られます。それが次の頁の最小多項式です。

代数的数は可算個しかない

代数的数の可算性

$\mathbb Q$ 上代数的な複素数全体は可算集合である。

$\mathbb Q[x]$ は可算集合です。実際、次数 $n$ 以下の多項式は有限個の有理数係数で決まり、$\mathbb Q^{n+1}$ は可算。$n$ について可算和を取っても可算です。
各非零多項式は複素数の根を次数以下の有限個しかもちません。従って全代数的数は、可算個の多項式それぞれの有限根集合の合併に含まれ、可算です。逆に代数的数は定義上いずれかの集合に入るため等号です。□

$\mathbb C$ は非可算なので、ほとんどすべての複素数は $\mathbb Q$ 上超越的です。ただし、この議論は特定の数が超越的かを教えません。

演習

代数的関係を作る

$\alpha=\sqrt2+1$、$\beta=\sqrt2+\sqrt3$ について、それぞれが満たす非零整数係数多項式を一つ求めよ。

解答

$\alpha-1=\sqrt2$ を二乗して
$$ (\alpha-1)^2=2, $$
従って
$$ \alpha^2-2\alpha-1=0. $$
$\beta^2=5+2\sqrt6$ なので
$$ (\beta^2-5)^2=24. $$
展開して
$$ \beta^4-10\beta^2+1=0. $$
□

超越元の置換

$t$ を $K$ 上超越的とする。$t^2$ も $K$ 上超越的であることを示せ。

解答

もし $t^2$ が代数的なら、非零多項式
$$ f(x)=a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n $$
が $f(t^2)=0$ を満たします。すると
$$ g(x)=f(x^2)=a_0+a_1x^2+\cdots+a_nx^{2n} $$
は非零多項式で $g(t)=0$。これは $t$ の超越性に反します。□

基礎体への相対性

$t$ を $K$ 上超越的とする。$t$ は $K(t^2)$ 上代数的だが $K$ 上超越的であることを説明せよ。

解答

$K$ 上超越的なのは仮定です。一方、係数 $t^2\in K(t^2)$ を使った多項式
$$ x^2-t^2\in K(t^2)[x] $$
は $t$ を根にもつ非零多項式です。従って $t$ は $K(t^2)$ 上代数的です。□

超越拡大の中間体

$t$ を $K$ 上超越的とし、$\operatorname{char}K\ne2$ とする。$[K(t):K(t^2)]=2$ を示せ。

解答

$t$ は $x^2-t^2\in K(t^2)[x]$ を満たすので次数は高々2です。もし次数1なら $t\in K(t^2)$。すると
$$ t=\frac{f(t^2)}{g(t^2)} $$
となる $f,g\in K[x]$、$g\ne0$ があり、
$$ tg(t^2)-f(t^2)=0. $$
左辺は $t$ の奇数次数項だけからなる部分と偶数次数項だけからなる部分の差で、非零形式多項式です。$t$ は超越的なので0にはなれず矛盾。従って次数は2です。
具体的には任意の有理関数を偶数冪部分と奇数冪部分へ整理することで、$1,t$ が $K(t^2)$ 基底になります。□

参考文献

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