体 $K$ に一つの元 $\alpha$ を加えて得られる体 $K(\alpha)$ を単純拡大といいます。$\alpha$ が代数的なら、最小多項式を0とする規則だけで、積・逆元・基底表示をすべて有限計算へ落とせます。本章では抽象的な商同型を、実際に手を動かせる算法へ変えます。
ここでの「原始元」は有限体の乗法群の生成元とは別の用法です。文脈により区別します。
$\mathbb Q(\sqrt2)/\mathbb Q$、$\mathbb Q(\sqrt[3]2)/\mathbb Q$、$K(t)/K$ は単純拡大です。最初の二つは代数的、最後は超越的です。
$\alpha$ を $K$ 上代数的、最小多項式を $m(x)$、$d=\deg m$ とする。このとき
$$
K(\alpha)=K[\alpha]\cong K[x]/(m),
$$
$$
K(\alpha)=K+K\alpha+\cdots+K\alpha^{d-1}.
$$
各元は次数 $d$ 未満の多項式 $r$ により $r(\alpha)$ と一意に表される。
評価写像 $K[x]\to K[\alpha]$ は全射で、核は $(m)$。第一同型定理から
$$
K[x]/(m)\cong K[\alpha].
$$
$m$ は既約なので左辺は体です。従って $K[\alpha]$ は $K$ と $\alpha$ を含む体であり、最小のそのような体 $K(\alpha)$ と一致します。
除法算法により各剰余類は次数 $d$ 未満の一意な代表元をもちます。一意性は、二つの代表元の差が $(m)$ に入り、次数が $d$ 未満なら0であることから従います。評価すれば $1,\alpha,\ldots,\alpha^{d-1}$ による一意表示を得ます。□
$\alpha=\sqrt[3]2$ とします。最小多項式は $x^3-2$ なので
$$
\alpha^3=2.
$$
従って積を展開した後、$\alpha^3$ 以上の冪をこの関係で下げます。
たとえば
$$
(1+\alpha+\alpha^2)(2-\alpha)
=2+\alpha+\alpha^2-\alpha^3
=\alpha+\alpha^2.
$$
最後に $\alpha^3=2$ を使いました。
一般に $K[x]/(m)$ での積は、二つの代表多項式を掛け、その積を $m$ で割った余りを取る操作です。
$0\ne r(\alpha)\in K(\alpha)$、$\deg r<\deg m$ とする。$m$ は既約なので $\gcd(r,m)=1$。従って
$$
u(x)r(x)+v(x)m(x)=1
$$
となる $u,v\in K[x]$ があり、
$$
r(\alpha)^{-1}=u(\alpha).
$$
$r\ne0$ かつ $\deg r<\deg m$ なので、既約多項式 $m$ は $r$ を割りません。$m$ の約数は単元と同伴元しかないため $\gcd(r,m)=1$。Bézout恒等式へ $\alpha$ を代入すると
$$
u(\alpha)r(\alpha)+v(\alpha)m(\alpha)=1.
$$
$m(\alpha)=0$ なので
$$
u(\alpha)r(\alpha)=1.
$$
従って $u(\alpha)$ が逆元です。□
$r(x)=3+x$、$m(x)=x^2-2$ とします。共役を使えば
$$
(3+x)(3-x)=9-x^2\equiv7\pmod{x^2-2}.
$$
従って
$$
(3+\sqrt2)^{-1}=\frac{3-\sqrt2}{7}.
$$
これはBézout恒等式
$$
\frac{3-x}{7}(3+x)+\frac17(x^2-2)=1
$$
を評価したものです。
$\alpha^3=2$ とし、$1+\alpha$ の逆元を求めます。
$$
(1+x)(x^2-x+1)=x^3+1.
$$
$x^3\equiv2$ なので右辺は3。従って
$$
(1+\alpha)^{-1}=\frac{\alpha^2-\alpha+1}{3}.
$$
既約多項式 $f\in K[x]$ に対し
$$
L=K[x]/(f)
$$
と置き、$x$ の剰余類を $\theta=x+(f)$ と書きます。すると
$$
f(\theta)=0
$$
です。もとの体に根がなくても、商を取ることで根をもつ新しい体を構成できます。
$f\in K[x]$ を既約、$L=K[x]/(f)$、$\theta=x+(f)$ とする。$E/K$ が体拡大で $\beta\in E$ が $f(\beta)=0$ を満たすなら、一意な $K$ 体準同型
$$
\varphi:L\to E
$$
で $\varphi(\theta)=\beta$ となるものが存在する。
評価写像
$$
\operatorname{ev}_\beta:K[x]\to E
$$
の核は $\beta$ の最小多項式で生成されます。$f$ は既約かつ $f(\beta)=0$ なので最小多項式は $f$。従って核は $(f)$ で、第一同型定理により単射
$$
K[x]/(f)\hookrightarrow E
$$
が誘導されます。$x+(f)$ の像は $\beta$ です。
一意性は、$L$ が $K$ と $\theta$ で生成され、$K$ 上恒等かつ $\theta$ の像が指定されれば、任意の $r(\theta)$ の像が $r(\beta)$ と強制されることから従います。□
この命題により、$f$ の異なる根を選ぶと異なる埋め込みが生まれることが分かります。
$\mathbb F_2$ 上
$$
f(x)=x^2+x+1
$$
は $0,1$ のどちらも根でないので既約です。
$$
\mathbb F_4=\mathbb F_2[x]/(x^2+x+1)
$$
とし、$\omega=x+(f)$ と置くと
$$
\omega^2+\omega+1=0,
\qquad
\omega^2=\omega+1
$$
です。標数2なので $-\omega-1=\omega+1$ となります。
元は
$$
0,1,\omega,1+\omega
$$
の四つです。非零元の積を計算すると
$$
\omega^2=1+\omega,
$$
$$
\omega(1+\omega)=\omega+\omega^2=1,
$$
$$
(1+\omega)^2=1+2\omega+\omega^2=1+\omega^2=\omega.
$$
従って
$$
\omega^{-1}=1+\omega,
\qquad
(1+\omega)^{-1}=\omega.
$$
$$
\begin{array}{c|c|c}
&\alpha\text{ が代数的}&\alpha\text{ が超越的}\\ \hline
\ker\operatorname{ev}_\alpha&(m_\alpha)&0\\
K[\alpha]&K[x]/(m_\alpha)&K[x]\\
K(\alpha)&K[\alpha]&K(x)\\
[K(\alpha):K]&\deg m_\alpha&\infty
\end{array}
$$
この表は、評価写像の核が0か非零かという一つの違いが、生成される環と体の形を大きく変えることを示します。
$\mathbb Q(\sqrt5)$ で $(2+\sqrt5)^{-1}$ を $a+b\sqrt5$ の形で求めよ。
共役を掛けて
$$
\frac1{2+\sqrt5}
=\frac{2-\sqrt5}{4-5}
=-2+\sqrt5.
$$
実際 $(2+\sqrt5)(-2+\sqrt5)=-4+5=1$。□
$\alpha^3=2$ とする。$\mathbb Q(\alpha)$ で
$$
(1+2\alpha-\alpha^2)(2-\alpha+3\alpha^2)
$$
を基底 $1,\alpha,\alpha^2$ で表示せよ。
展開すると
$$
2+3\alpha-\alpha^2+7\alpha^3-3\alpha^4.
$$
$\alpha^3=2,\alpha^4=2\alpha$ を代入して
$$
2+3\alpha-\alpha^2+14-6\alpha
=16-3\alpha-\alpha^2.
$$
□
$\mathbb F_4=\mathbb F_2(\omega)$、$\omega^2+\omega+1=0$ とする。次を計算せよ。
$$
(1+\omega)^3,
\qquad
\frac{\omega}{1+\omega}.
$$
非零元 $1+\omega$ は位数3なので
$$
(1+\omega)^3=1.
$$
直接にも $(1+\omega)^2=\omega$ なので、さらに掛けて $\omega(1+\omega)=1$ です。
$(1+\omega)^{-1}=\omega$ だから
$$
\frac{\omega}{1+\omega}=\omega^2=1+\omega.
$$
□
$L=\mathbb Q[x]/(x^2-2)$ とし、$\theta=x+(x^2-2)$ とする。$L$ から $\mathbb R$ への $\mathbb Q$ 体準同型をすべて求めよ。
$\theta$ の像は $x^2-2$ の実根でなければならないので
$$
\sqrt2\quad\text{または}\quad-\sqrt2
$$
です。根を添加した体の普遍的性質により、それぞれに対して一意な準同型
$$
a+b\theta\mapsto a+b\sqrt2,
$$
$$
a+b\theta\mapsto a-b\sqrt2
$$
が存在します。ほかの可能性はありません。□
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