$x^2-2$ の根として、ある世界では $a$、別の世界では $b$ を選んだとします。$a^2=b^2=2$ なら
$$
r+sa\longmapsto r+sb
$$
は二つの体を同一視します。元そのものが等しい必要はありません。満たす関係式が同じなら、根の名前を取り替える写像が体同型になります。分解体の一意性は、この考えを根が複数ある場合へ繰り返したものです。
$\sigma:K\to K'$ を体同型とします。多項式
$$
f=a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n\in K[x]
$$
に対し
$$
f^\sigma
=\sigma(a_0)+\sigma(a_1)x+\cdots+\sigma(a_n)x^n\in K'[x]
$$
と定めます。
$f,g,h\in K[x]$ に対し
$$
(f+g)^\sigma=f^\sigma+g^\sigma,
\qquad
(fg)^\sigma=f^\sigma g^\sigma.
$$
従って $f$ が既約であることと $f^\sigma$ が既約であることは同値である。
最初の二式は係数を比較すれば従います。$f=gh$ が正次数の因子分解なら
$$
f^\sigma=g^\sigma h^\sigma
$$
も正次数の因子分解です。逆に $f^\sigma$ の因数分解へ $\sigma^{-1}$ を係数ごとに施せば $f$ の因数分解を得ます。従って可約性、したがって既約性が両方向に保たれます。□
$\sigma:K\to K'$ を体同型とする。$\alpha$ を $K$ 上代数的とし、その最小多項式を $p\in K[x]$ とする。$\beta$ が $p^\sigma\in K'[x]$ の根なら、$\sigma$ を延長し $\alpha$ を $\beta$ へ送る一意な体同型
$$
\widetilde\sigma:K(\alpha)\longrightarrow K'(\beta)
$$
が存在する。
係数写像は環同型
$$
\sigma_*:K[x]\to K'[x],\qquad f\mapsto f^\sigma
$$
を与え、$(p)$ を $(p^\sigma)$ へ送ります。従って商に同型
$$
K[x]/(p)\longrightarrow K'[x]/(p^\sigma),
\qquad
f+(p)\longmapsto f^\sigma+(p^\sigma)
$$
を誘導します。
評価による同型
$$
K[x]/(p)\cong K(\alpha),\qquad x+(p)\mapsto\alpha,
$$
$$
K'[x]/(p^\sigma)\cong K'(\beta),\qquad x+(p^\sigma)\mapsto\beta
$$
と合成すれば、求める $\widetilde\sigma$ を得ます。具体的には
$$
\widetilde\sigma
\left(\sum_{i=0}^{d-1}a_i\alpha^i\right)
=\sum_{i=0}^{d-1}\sigma(a_i)\beta^i,
\qquad d=\deg p.
$$
この式から $K$ 上で $\sigma$ を延長し、$\alpha$ を $\beta$ へ送ることが分かります。
一意性について、$K(\alpha)$ の任意の元は $\alpha$ と $K$ の元の四則演算で書けます。従って $K$ 上の値と $\alpha$ の像を指定すれば、準同型の値はすべて強制されます。□
「どの根を選ぶか」が、延長された同型を選ぶ自由度です。例えば $\mathbb Q(\sqrt2)$ から自身への $\mathbb Q$ 上の埋め込みは、$\sqrt2$ を $x^2-2$ の根 $\sqrt2$ または $-\sqrt2$ へ送る二通りです。
$\sigma:K\to K'$ を体同型とし、$f\in K[x]$ とする。$L$ を $f$ の $K$ 上の分解体、$L'$ を $f^\sigma$ の $K'$ 上の分解体とする。このとき $\sigma$ を延長する体同型
$$
\widetilde\sigma:L\longrightarrow L'
$$
が存在する。
特に、一つの $f\in K[x]$ の二つの分解体は $K$ 上同型である。
$[L:K]$ について帰納します。$L=K$ なら $f$ は $K$ 上ですでに分解しています。従って $f^\sigma$ も $K'$ 上で分解し、最小性から $L'=K'$。このとき $\sigma$ 自身が求める同型です。
$L\ne K$ とします。$f$ の根 $\alpha\in L\setminus K$ を一つ取り、その $K$ 上の最小多項式を $p$ とします。$p$ は $f$ の既約因子ですから、$p^\sigma$ は $f^\sigma$ の既約因子です。$L'$ で $f^\sigma$ は分解するため、$p^\sigma$ の根 $\beta\in L'$ を選べます。単純代数拡大への延長定理により
$$
\sigma_1:K(\alpha)\longrightarrow K'(\beta)
$$
という同型が得られます。
$f=(x-\alpha)g$ と $K(\alpha)[x]$ で書きます。$L$ は $g$ の $K(\alpha)$ 上の分解体です。実際、$L$ では $g$ が分解し、$L$ は $f$ の全根で生成されますが、$\alpha$ はすでに基礎体に入っているので、残りの根が $K(\alpha)$ 上で $L$ を生成します。同様に、係数へ $\sigma_1$ を施した $g^{\sigma_1}$ に対し、$L'$ は $K'(\beta)$ 上の分解体です。
しかも
$$
[L:K(\alpha)]<[L:K]
$$
です。帰納法の仮定を $\sigma_1$ と $g$ に適用すると、$\sigma_1$ を延長する同型
$$
L\longrightarrow L'
$$
が得られます。これは元の $\sigma$ も延長しています。□
この定理の「存在」は、同型が一つに定まるという意味ではありません。最初の根 $\alpha$ の送り先 $\beta$ に複数の選択肢があれば、異なる同型が生じ得ます。
分解体の拡大次数、有限体としての元の個数、基礎体上のベクトル空間次元など、$K$ 上の同型で保たれる性質は、分解体の構成方法によらない。
二つの分解体の間に $K$ 上の同型が存在します。体同型は四則演算を保ち、$K$ 上の線形同型でもあるので、列挙した量を保ちます。□
例えば $x^3-2$ の分解体を、実根 $\sqrt[3]2$ から作っても、非実根 $\omega\sqrt[3]2$ から作っても、得られる体は $\mathbb Q$ 上同型です。計算しやすい根から始めてよいのは、この定理のおかげです。
$L$ が $f\in K[x]$ の分解体で、$\tau:L\to L$ が $K$ 上の自己同型だとします。$\alpha$ が $f$ の根なら
$$
f(\tau(\alpha))
=\tau(f(\alpha))
=\tau(0)=0
$$
です。従って $\tau$ は $f$ の根を根へ移します。
$L$ を $f\in K[x]$ の分解体とする。$K$ 上の二つの自己同型が $f$ のすべての根で一致すれば、その二つは等しい。
$L$ は $K$ と $f$ の根全体で生成されます。二つの自己同型は $K$ 上では恒等写像であり、仮定により生成元である根すべてでも一致します。体の元は生成元の四則演算で表されるため、全元で一致します。□
根の個数が $n$ なら、自己同型は根の置換として見えます。しかし、すべての置換が必ず体自己同型になるわけではありません。根の間の加法・乗法の関係も保たなければならないからです。どの置換が許されるかを集めたものが、後に定義するGalois群です。
$L=\mathbb Q(\alpha,\omega)$、$\alpha^3=2$、$\omega^2+\omega+1=0$ とします。$\mathbb Q$ 上の自己同型は $\alpha$ を三根
$$
\alpha,\omega\alpha,\omega^2\alpha
$$
のいずれかへ送り、$\omega$ を $\omega$ または $\omega^2$ へ送る可能性があります。実際、これら6通りはすべて自己同型になります。例えば
$$
\sigma(\alpha)=\omega\alpha,\qquad \sigma(\omega)=\omega
$$
および
$$
\tau(\alpha)=\alpha,\qquad \tau(\omega)=\omega^2
$$
で定まる写像があります。
ここで
$$
\tau\sigma(\alpha)=\tau(\omega\alpha)=\omega^2\alpha,
$$
$$
\sigma\tau(\alpha)=\sigma(\alpha)=\omega\alpha
$$
なので $\tau\sigma\ne\sigma\tau$ です。方程式の根の対称性は、可換とは限らない群を自然に生みます。
$d\in\mathbb Q$ を平方でない数とする。$\mathbb Q(\sqrt d)$ から $\mathbb C$ への $\mathbb Q$ 上の埋め込みがちょうど二つであることを示し、明示せよ。
埋め込みは $\sqrt d$ をその最小多項式 $x^2-d$ の根へ送る必要があります。根は $\sqrt d$ と $-\sqrt d$ の二つです。各選択に対し単純代数拡大への延長定理から埋め込みが存在し、
$$
a+b\sqrt d\longmapsto a+b\sqrt d,
$$
$$
a+b\sqrt d\longmapsto a-b\sqrt d
$$
の二つです。像の選択で写像は一意なので、これ以外はありません。□
$f=x^3+px+q\in K[x]$ の分解体で根を $\alpha,\beta,\gamma$ とし、$q\ne0$ とする。$K$ 上の自己同型 $\sigma$ が $\alpha$ を $\beta$、$\beta$ を $\alpha$ へ送るなら、$\gamma$ を固定することを示せ。
Vieta の公式から
$$
\alpha\beta\gamma=-q.
$$
$q\ne0$ なので三根は非零で
$$
\gamma=\frac{-q}{\alpha\beta}.
$$
$\sigma$ は $q\in K$ を固定するため
$$
\sigma(\gamma)
=\frac{-q}{\sigma(\alpha)\sigma(\beta)}
=\frac{-q}{\beta\alpha}
=\gamma.
$$
□
$L,L'$ を $f\in K[x]$ の二つの分解体とし、$\varphi:L\to L'$ を $K$ 上の同型とする。$\varphi$ が $L$ 内の $f$ の根全体から $L'$ 内の根全体への全単射を与えることを示せ。
$f(\alpha)=0$ なら
$$
f(\varphi(\alpha))=\varphi(f(\alpha))=0
$$
なので、$\varphi$ は根を根へ送ります。$\varphi^{-1}$ も $K$ 上の同型であり、同じ議論で $L'$ の根を $L$ の根へ送ります。従って根集合上で互いに逆な写像を与え、全単射です。□
$L=\mathbb Q(\alpha,i)$、$\alpha^4=2$、$\alpha>0$ とする。
$$
\sigma(\alpha)=i\alpha,\quad\sigma(i)=i,
$$
$$
\tau(\alpha)=\alpha,\quad\tau(i)=-i
$$
で定まる $\mathbb Q$ 上の自己同型が存在することを、同型延長定理を用いて説明せよ。また $\tau\sigma\ne\sigma\tau$ を確かめよ。
$i\alpha$ は $x^4-2$ の根なので、恒等写像は $\mathbb Q(\alpha)$ の埋め込み $\alpha\mapsto i\alpha$ へ延長されます。その像と $i$ を含む分解体は再び $L$ なので、分解体の一意性による延長を取れば $\sigma$ を得ます。複素共役は $\alpha$ を固定し $i$ を $-i$ へ送るので $\tau$ を与えます。
$\alpha$ で比較すると
$$
\tau\sigma(\alpha)=\tau(i\alpha)=-i\alpha,
$$
$$
\sigma\tau(\alpha)=\sigma(\alpha)=i\alpha.
$$
標数0なので両者は異なり、$\tau\sigma\ne\sigma\tau$ です。□
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