6-7 直交変換――長さを保つ座標変更

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

座標を変えても長さと角度を完全に保つ変換は、どんな実行列で表されるだろうか。
このページでできるようになること
直交変換を判定し、幾何と行列式の関係を説明できるようになる。

座標を変えても長さを変えない

有限次元実内積空間上の線形写像 $Q:V\to V$ の行列が、ある正規直交基底について
$$Q^{\mathsf T}Q=I$$
を満たすとき直交変換という。有限次元では、この式から $Q$ は可逆で、$Q^{-1}=Q^{\mathsf T}$ および $QQ^{\mathsf T}=I$ も従う。複素内積空間での対応物はユニタリー変換であり、随伴作用素を定義した後に続編の「線形代数学II」で扱う。

証明を読む前の見取り図

全内積を保つ条件を正規直交基底上で調べ、$Q^{\mathsf T}Q=I$ と同値であることを示す。

有限次元実内積空間上の線形写像 $Q:V\to V$ について次は同値である。

  1. $Q$ は直交変換である。
  2. すべての $x,y$ に対し $\langle Qx,Qy\rangle=\langle x,y\rangle$。
  3. すべての $x$ に対し $\|Qx\|=\|x\|$。
  4. ある正規直交基底を正規直交基底へ移す。
  1. なら
    $$\langle Qx,Qy\rangle=x^{\mathsf T}Q^{\mathsf T}Qy=x^{\mathsf T}y=\langle x,y\rangle$$
    なので (2)、$y=x$ として (3) を得る。
  2. から (2) を示す。実内積の偏極恒等式
    $$\langle x,y\rangle=\frac14(\|x+y\|^2-\|x-y\|^2)$$
    は $\|x\pm y\|^2$ を展開すれば従う。$Q$ の線形性により $Q(x\pm y)=Qx\pm Qy$ であり、長さを保つことを右辺へ使えば内積も保つ。
  3. なら正規直交基底 $e_i$ に対し $\langle Qe_i,Qe_j\rangle=\delta_{ij}$ なので (4)。有限次元では $n$ 本の正規直交列は基底である。
  4. を仮定し、その基底で写像の行列を $M$ とする。列は正規直交だから $M^{\mathsf T}M=I$ であり、(1) を得る。

行列式と幾何

実直交行列 $Q$ では
$$1=\det(Q^\mathsf TQ)=(\det Q)^2$$
だから $\det Q=1$ または $-1$。平面で $\det Q=1$ のものは回転、$\det Q=-1$ のものは鏡映を含む変換である。
$$R_\theta=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix},\qquad S=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$$
はいずれも直交行列だが、行列式はそれぞれ $1,-1$ である。

正規直交基底間の変換

二つの実正規直交基底間の基底変換行列は直交行列である。したがって通常の相似変換 $P^{-1}AP$ は
$$Q^{\mathsf T}AQ$$
となる。直交相似は内積構造まで保つので、長さ・角度・直交性を壊さずに行列を簡単にする。次章で扱う実対称行列の対角化はこの強い形で行う。

反例:可逆性だけでは長さを保たない

$$A=\begin{pmatrix}2&0\\0&1\end{pmatrix}$$
は可逆だが、$\|Ae_1\|=2\ne1$ なので直交変換でない。可逆変換は線形構造を保つが、計量構造までは保たない。

演習

直交行列 $Q$ とベクトル $x$ に対し、$\|Qx\|=\|x\|$ を行列の式から直接示せ。また、$Q^{\mathsf T}$ も直交行列であることを示せ。

$\|Qx\|^2=(Qx)^{\mathsf T}(Qx)=x^{\mathsf T}Q^{\mathsf T}Qx=x^{\mathsf T}x=\|x\|^2$。非負な平方根を取れば長さが等しい。また、$Q^{\mathsf T}Q=I$ から $QQ^{\mathsf T}=I$ なので、$(Q^{\mathsf T})^{\mathsf T}Q^{\mathsf T}=I$。よって $Q^{\mathsf T}$ も直交行列である。

第6章では、内積から直交射影と最小二乗法を導き、長さを保つ座標変更を定式化した。次章では実対称行列を正規直交基底で完全に分解する。

このページで回収したもの

回転・鏡映・正規直交基底変換を同じクラスとして扱え、数値誤差にも強い座標変換が得られた。
次へ持ち越す問い
対称行列の固有方向を長さを保つ座標変換だけで取り出せるだろうか。次の終章で証明する。

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する

Mathpediaを支援する
前のページへ
56 / 57
次のページへ
前ページへ
線形代数学I ― 連立方程式からベクトル空間・線形写像までの表紙
次ページへ