4-7 行列式の幾何と向き

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

鏡映と回転はどちらも面積を保つが、何が両者を区別するのだろうか。
このページでできるようになること
行列式の絶対値を体積倍率、符号を向きとして幾何的に読めるようになる。
行列式は可逆性を判定する数であると同時に、線形変換が体積と向きをどう変えるかを表します。

証明を読む前の見取り図

単位立方体を列ベクトルが張る平行多面体へ送り、積の公式で一般の領域へ意味を延ばす。

平行多面体の体積

$a_1,\ldots,a_n\in\mathbb{R}^n$ を列にもつ行列を $A$ とする。これらが張る平行多面体の体積は
$$ |\det A| $$
である。

まず直交する辺の場合、体積は辺長の積であり、直交基底を標準基底へ移す直交変換の行列式の絶対値は1なので式と一致する。一般の独立な辺へGram--Schmidt法を施すと、各段階で前の辺の線形結合を引くため行列式は変わらず、得られた直交辺の長さの積が高さ×底面積による平行多面体の体積になる。従属なら両辺とも0。

上の証明は後章のGram--Schmidt法を先取りしています。二次元では底辺×高さ、三次元では底面積×高さとして直接確認できます。

向き

順序付き基底 $B$ の行列式が正なら標準基底と同じ向き、負なら逆向きとします。基底変換行列の行列式の符号により、二つの基底の向きが一致するか判定できます。
$$ R=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix} $$
は $\det R=1$ で面積と向きを保ちます。鏡映
$$ S=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix} $$
は $\det S=-1$ で面積を保ちながら向きを反転します。

座標変換への接続

微積分で変数変換を行うと、微小な体積は微分行列の行列式の絶対値だけ伸縮します。線形の場合、その倍率は場所によらず $|\det A|$ です。

行列式だけでは形は分からない

同じ行列式をもつ変換でも、方向ごとの伸縮は異なり得る。$\operatorname{diag}(2,1/2)$ と回転行列はいずれも行列式1だが、前者は円を楕円へ変える。方向別の伸縮は特異値分解で調べる。

四面体の体積

原点と $a,b,c\in\mathbb{R}^3$ を頂点とする四面体の体積が $|\det(a\ b\ c)|/6$ である理由を説明せよ。

解答

$a,b$ が張る三角形を底面とみる。その面積は、$a,b$ が張る平行四辺形の面積の半分である。$c$ の底面に垂直な成分の長さを $h$ とすると、$a,b,c$ が張る平行六面体の体積は
$$ 2\,S h=|\det(a\ b\ c)|, $$
ここで $S$ は三角形の面積である。
底面から高さ $t$ の位置で四面体を底面と平行に切ると、断面は底面を比 $1-t/h$ で縮小した相似な三角形なので、その面積は $S(1-t/h)^2$ である。したがって四面体の体積は
$$ \int_0^h S\left(1-\frac{t}{h}\right)^2dt =\frac{Sh}{3} =\frac{|\det(a\ b\ c)|}{6}. $$

次章では $\det(A-\lambda I)$ を使い、変換の中で方向を保つ固有ベクトルを探します。

このページで回収したもの

一つの数で拡大率・退化・向きの反転を同時に検出でき、Jacobianへの入口ができた。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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線形代数学I ― 連立方程式からベクトル空間・線形写像までの表紙
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