行基本変形を全部まとめて一つの操作にし、元へ戻すことはできるだろうか。
このページでできるようになること
基本行列と逆行列を使い、可逆性を消去可能性として判定できるようになる。
数 $a\ne0$ に逆数 $a^{-1}$ があるように、行列作用を元へ戻す行列を考えます。ただし行列積は可換でないため、左右の積を区別する必要があります。
正方行列 $A$ に対し
$$
AB=BA=I
$$
を満たす行列 $B$ が存在するとき、$A$ は可逆であるといい、$B$ を逆行列と呼び、$A^{-1}$ と書く。
各行操作を左からの行列積で表し、逆操作を逆順に掛けることで逆行列を構成する。
逆行列は存在すれば一意である。
$B,C$ がともに $A$ の逆行列なら
$$
B=BI=B(AC)=(BA)C=IC=C.
$$
結合法則と左右両方の逆の条件を用いた。
各行操作を左からの行列積で表し、逆操作を逆順に掛けることで逆行列を構成する。
$A,B$ が可逆なら $AB$ も可逆で
$$
(AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}.
$$
順序に注意して掛けると
$$
(AB)(B^{-1}A^{-1})=A(BB^{-1})A^{-1}=I,
$$
$$
(B^{-1}A^{-1})(AB)=B^{-1}(A^{-1}A)B=I.
$$
よって定義と一意性から主張が従う。
単位行列 $I_m$ に一回の行基本変形を施して得られる行列を基本行列と呼びます。$m\times n$ 行列 $A$ に同じ行基本変形を施した結果は $EA$ です。
たとえば二行を交換する操作は
$$
E=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}
$$
を左から掛けることです。各行基本変形には逆操作があるので、基本行列は可逆で、その逆も基本行列です。
各行操作を左からの行列積で表し、逆操作を逆順に掛けることで逆行列を構成する。
$n\times n$ 行列 $A$ について、次は同値である。
2と3の同値は、正方行列で主成分が全列にある簡約形が $I_n$ だけであることから従う。3なら階数条件により任意の右辺で解が存在し、自由変数が $n-n=0$ なので一意である。よって3から4。
4を仮定し、標準基底 $e_j$ に対する唯一の解を $x_j$ とする。$B$ の第 $j$ 列を $x_j$ とすれば、$AB$ の第 $j$ 列は $Ax_j=e_j$ だから $AB=I$ である。$A$ の簡約形を $R$ とし、行基本変形の積を $E$ とすれば $R=EA$。$AB=I$ より $E=EAB=RB$ なので $R$ は零行をもてず、正方簡約形だから $R=I$。したがって2が成り立つ。
2なら、行基本変形に対応する基本行列 $E_s\cdots E_1$ が存在して
$$
E_s\cdots E_1A=I.
$$
よって $B:=E_s\cdots E_1$ は左逆である。また等式から $A=B^{-1}$ だから $AB=I$ も成り立ち、$A$ は可逆である。これで循環が閉じた。
$A^{-1}$ を求めるには拡大行列 $(A\mid I)$ を行基本変形します。左側が $I$ になったとき、同じ操作の積を $E$ とすれば
$$
EA=I,
\qquad EI=E=A^{-1}
$$
なので右側が逆行列です。
$$
\left(\begin{array}{cc|cc}1&2&1&0\\3&4&0&1\end{array}\right)
\xrightarrow{R_2-3R_1}
\left(\begin{array}{cc|cc}1&2&1&0\\0&-2&-3&1\end{array}\right)
$$
$$
\xrightarrow{-\frac12R_2}
\left(\begin{array}{cc|cc}1&2&1&0\\0&1&3/2&-1/2\end{array}\right)
\xrightarrow{R_1-2R_2}
\left(\begin{array}{cc|cc}1&0&-2&1\\0&1&3/2&-1/2\end{array}\right).
$$
したがって
$$
A^{-1}=\begin{pmatrix}-2&1\\3/2&-1/2\end{pmatrix}.
$$
実際に左右から掛けて単位行列になることを検算できます。
長方形行列には同じ大きさの両側逆行列は定義できない。後に単射だけを戻す左逆、全射だけを戻す右逆、最良近似を与える疑似逆を区別する。
上の $A$ に対して $Ax=(5,11)^{\mathsf T}$ を逆行列で解け。
$$
x=A^{-1}b
=\begin{pmatrix}-2&1\\3/2&-1/2\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}5\\11\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}.
$$
代入すると $A(1,2)^{\mathsf T}=(5,11)^{\mathsf T}$ である。
次は、消去法そのものを行列の積 $A=LU$ として保存し、右辺が変わる問題へ再利用します。
「割り算」に相当する逆行列を、公式でなく可逆な操作の列として理解した。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する