1-6 逆行列と基本行列

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

行基本変形を全部まとめて一つの操作にし、元へ戻すことはできるだろうか。
このページでできるようになること
基本行列と逆行列を使い、可逆性を消去可能性として判定できるようになる。
数 $a\ne0$ に逆数 $a^{-1}$ があるように、行列作用を元へ戻す行列を考えます。ただし行列積は可換でないため、左右の積を区別する必要があります。

逆行列

正方行列 $A$ に対し
$$ AB=BA=I $$
を満たす行列 $B$ が存在するとき、$A$ は可逆であるといい、$B$ を逆行列と呼び、$A^{-1}$ と書く。

証明を読む前の見取り図

各行操作を左からの行列積で表し、逆操作を逆順に掛けることで逆行列を構成する。

逆行列の一意性

逆行列は存在すれば一意である。

$B,C$ がともに $A$ の逆行列なら
$$ B=BI=B(AC)=(BA)C=IC=C. $$
結合法則と左右両方の逆の条件を用いた。

証明を読む前の見取り図

各行操作を左からの行列積で表し、逆操作を逆順に掛けることで逆行列を構成する。

積の逆行列

$A,B$ が可逆なら $AB$ も可逆で
$$ (AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}. $$

順序に注意して掛けると
$$ (AB)(B^{-1}A^{-1})=A(BB^{-1})A^{-1}=I, $$
$$ (B^{-1}A^{-1})(AB)=B^{-1}(A^{-1}A)B=I. $$
よって定義と一意性から主張が従う。

行基本変形を行列で表す

単位行列 $I_m$ に一回の行基本変形を施して得られる行列を基本行列と呼びます。$m\times n$ 行列 $A$ に同じ行基本変形を施した結果は $EA$ です。
たとえば二行を交換する操作は
$$ E=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} $$
を左から掛けることです。各行基本変形には逆操作があるので、基本行列は可逆で、その逆も基本行列です。

証明を読む前の見取り図

各行操作を左からの行列積で表し、逆操作を逆順に掛けることで逆行列を構成する。

可逆性の同値条件

$n\times n$ 行列 $A$ について、次は同値である。

  1. $A$ は可逆である。
  2. $A$ の簡約行階段形は $I_n$ である。
  3. $\operatorname{rank}A=n$ である。
  4. 任意の $b\in K^n$ に対して $Ax=b$ はただ一つの解をもつ。

2と3の同値は、正方行列で主成分が全列にある簡約形が $I_n$ だけであることから従う。3なら階数条件により任意の右辺で解が存在し、自由変数が $n-n=0$ なので一意である。よって3から4。
4を仮定し、標準基底 $e_j$ に対する唯一の解を $x_j$ とする。$B$ の第 $j$ 列を $x_j$ とすれば、$AB$ の第 $j$ 列は $Ax_j=e_j$ だから $AB=I$ である。$A$ の簡約形を $R$ とし、行基本変形の積を $E$ とすれば $R=EA$。$AB=I$ より $E=EAB=RB$ なので $R$ は零行をもてず、正方簡約形だから $R=I$。したがって2が成り立つ。
2なら、行基本変形に対応する基本行列 $E_s\cdots E_1$ が存在して
$$ E_s\cdots E_1A=I. $$
よって $B:=E_s\cdots E_1$ は左逆である。また等式から $A=B^{-1}$ だから $AB=I$ も成り立ち、$A$ は可逆である。これで循環が閉じた。

Gauss--Jordan法

$A^{-1}$ を求めるには拡大行列 $(A\mid I)$ を行基本変形します。左側が $I$ になったとき、同じ操作の積を $E$ とすれば
$$ EA=I, \qquad EI=E=A^{-1} $$
なので右側が逆行列です。
$$ \left(\begin{array}{cc|cc}1&2&1&0\\3&4&0&1\end{array}\right) \xrightarrow{R_2-3R_1} \left(\begin{array}{cc|cc}1&2&1&0\\0&-2&-3&1\end{array}\right) $$
$$ \xrightarrow{-\frac12R_2} \left(\begin{array}{cc|cc}1&2&1&0\\0&1&3/2&-1/2\end{array}\right) \xrightarrow{R_1-2R_2} \left(\begin{array}{cc|cc}1&0&-2&1\\0&1&3/2&-1/2\end{array}\right). $$
したがって
$$ A^{-1}=\begin{pmatrix}-2&1\\3/2&-1/2\end{pmatrix}. $$
実際に左右から掛けて単位行列になることを検算できます。

非正方行列

長方形行列には同じ大きさの両側逆行列は定義できない。後に単射だけを戻す左逆、全射だけを戻す右逆、最良近似を与える疑似逆を区別する。

逆行列による方程式

上の $A$ に対して $Ax=(5,11)^{\mathsf T}$ を逆行列で解け。

解答

$$ x=A^{-1}b =\begin{pmatrix}-2&1\\3/2&-1/2\end{pmatrix} \begin{pmatrix}5\\11\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}. $$
代入すると $A(1,2)^{\mathsf T}=(5,11)^{\mathsf T}$ である。

次は、消去法そのものを行列の積 $A=LU$ として保存し、右辺が変わる問題へ再利用します。

このページで回収したもの

「割り算」に相当する逆行列を、公式でなく可逆な操作の列として理解した。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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