内積 $\langle x,y\rangle$ は、二つの長さに比べてどこまで大きくなれるだろうか。
このページでできるようになること
Cauchy–Schwarzと三角不等式を証明し、角度と距離の定義を保証できるようになる。
標準内積では、二つのベクトルが同じ向きを向くほど内積が大きい。これを長さだけで正確に評価するのが Cauchy–Schwarz の不等式である。
$\|x-ty\|^2\ge0$ を $t$ の二次式として最小化し、内積の上限を得る。
任意の内積空間の $x,y$ に対し
$$|\langle x,y\rangle|\le\|x\|\|y\|$$
が成り立つ。等号成立は $x,y$ が一次従属であることと同値である。
$y=0$ なら両辺は $0$ である。$y\ne0$ とし
$$z=x-\frac{\langle x,y\rangle}{\langle y,y\rangle}y$$
と置く。本書の内積は第1変数で線形なので
$$\langle z,y\rangle=\langle x,y\rangle-\frac{\langle x,y\rangle}{\langle y,y\rangle}\langle y,y\rangle=0.$$
Pythagoras の等式を $x=z+\frac{\langle x,y\rangle}{\|y\|^2}y$ に用いると
$$\|x\|^2=\|z\|^2+\frac{|\langle x,y\rangle|^2}{\|y\|^2}\ge
\frac{|\langle x,y\rangle|^2}{\|y\|^2}.$$
$\|y\|^2$ を掛けて平方根を取れば結論を得る。等号は $\|z\|=0$、すなわち $x$ が $y$ のスカラー倍のときに限る。$y=0$ の場合も一次従属である。
実内積空間で $x,y\ne0$ なら
$$\cos\theta=\frac{\langle x,y\rangle}{\|x\|\|y\|}$$
と置ける。不等式により右辺は $[-1,1]$ に入るので、角度 $0\le\theta\le\pi$ が定義できる。
$\|x-ty\|^2\ge0$ を $t$ の二次式として最小化し、内積の上限を得る。
任意の $x,y$ に対し
$$\|x+y\|\le\|x\|+\|y\|$$
である。
$$
\begin{aligned}
\|x+y\|^2
&=\|x\|^2+2\operatorname{Re}\langle x,y\rangle+\|y\|^2\\
&\le\|x\|^2+2|\langle x,y\rangle|+\|y\|^2\\
&\le\|x\|^2+2\|x\|\|y\|+\|y\|^2\\
&=(\|x\|+\|y\|)^2.
\end{aligned}
$$
両辺は非負なので平方根を取れる。
これにより $d(x,y)=\|x-y\|$ は距離になる。特に
$$|\|x\|-\|y\||\le\|x-y\|$$
も、$x=(x-y)+y$ と三角不等式から従う。
$x=(1,2)$、$y=(3,-1)$ では $\langle x,y\rangle=1$、$\|x\|=\sqrt5$、$\|y\|=\sqrt{10}$ だから
$$1\le\sqrt{50}$$
である。$y=2x$ とすれば $|\langle x,2x\rangle|=2\|x\|^2=\|x\|\|2x\|$ となり等号が成立する。
実数 $a_1,\dots,a_n$ に対し
$$\left(\sum_{i=1}^n a_i\right)^2\le n\sum_{i=1}^n a_i^2$$
を示し、等号条件を求めよ。
$a=(a_1,\dots,a_n)$、$u=(1,\dots,1)$ に Cauchy–Schwarz を使うと
$$|\langle a,u\rangle|^2\le\|a\|^2\|u\|^2
=n\sum_i a_i^2.$$
等号は $a$ と $u$ が一次従属、すなわち $a_1=\cdots=a_n$ のとき、かつそのときに限る。
次ページでは、一つの部分空間に直交するすべての方向をまとめ、空間を二つの成分へ分解する。
幾何の直感が任意の内積空間で正当化され、誤差評価の基本不等式が得られた。
次へ持ち越す問い
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