1-4 簡約階段形と一意性

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

消去の順番が違っても、最終的に読める情報は同じだと言えるだろうか。
このページでできるようになること
簡約階段形の一意性を使い、主成分位置と解構造を計算経路に依存せず決められるようになる。
Gauss消去法では、どの行から消去するかを選べます。途中の行列は変わりますが、最後まで簡約すると同じ行列に到達します。この一意性によって、主変数や階数が計算者の選択に依存しないことが保証されます。

階段形と簡約階段形

行階段形

行列が行階段形であるとは、次を満たすことをいう。

  1. 零行はすべて非零行より下にある。
  2. 各非零行の最初の非零成分は、直前の非零行の最初の非零成分より右にある。
  3. 各主成分より下の成分は零である。
簡約行階段形

行階段形がさらに次を満たすとき、簡約行階段形という。
4. 各主成分は1である。
5. 主成分を含む列では、その主成分以外がすべて零である。

たとえば
$$ R= \begin{pmatrix} 1&0&2&0&-1\\ 0&1&3&0&4\\ 0&0&0&1&2\\ 0&0&0&0&0 \end{pmatrix} $$
は簡約行階段形で、主成分列は第1、2、4列です。

どの行列も簡約できる

証明を読む前の見取り図

二つの簡約階段形が同じ行空間をもつと仮定し、左端の非零成分から行を順に一致させる。

簡約行階段形の存在

任意の行列は有限回の行基本変形によって簡約行階段形へ変形できる。

消去手順が有限回で止まること

零行列ならすでに簡約行階段形である。零行列でないとする。最も左に非零成分をもつ列を選び、その非零成分を含む行を最上段へ交換する。その行を主成分で割り、主成分を1にする。主成分列の他の行から、その行の適切な倍を引き、主成分以外を零にする。
最上行と主成分列を除いた右下の部分行列に同じ操作を行う。各段階で処理済みの行数と列数が少なくとも一つ増える。行数と列数は有限なので操作は有限回で停止する。得られた非零行を主成分位置の順に並べれば、五条件をすべて満たす。

行空間と主成分列

行列の行の線形結合全体を行空間と呼びます。行交換、非零倍、他行の倍の加算はいずれも新しい各行を旧行の線形結合にし、逆操作も存在します。したがって行基本変形の前後で行空間は一致します。

行空間

$A\in M_{m,n}(K)$ の行ベクトルを $\boldsymbol{r}_1,\ldots,\boldsymbol{r}_m\in K^n$ とする。これらの線形結合全体
$$ \operatorname{Row}(A) :=\left\{c_1\boldsymbol{r}_1+\cdots+c_m\boldsymbol{r}_m\mid c_1,\ldots,c_m\in K\right\} $$
を $A$ の行空間という。

ここではまだ次元を定義していないため、主成分列の一意性を次の初等的な補題で示します。

簡約行階段形の行空間で可能な先頭位置

$R$ を簡約行階段形とし、非零行を上から $\boldsymbol{r}_1,\ldots,\boldsymbol{r}_s$、それぞれの主成分列を
$$ p_1< p_2<\cdots< p_s $$
とする。$\operatorname{Row}(R)$ の任意の非零ベクトルで最初に現れる非零成分の位置は、$p_1,\ldots,p_s$ のいずれかである。逆に各 $p_i$ は実際にそのような先頭位置として現れる。

非零ベクトル $\boldsymbol{v}\in\operatorname{Row}(R)$ を
$$ \boldsymbol{v}=c_1\boldsymbol{r}_1+\cdots+c_s\boldsymbol{r}_s $$
と書く。係数はすべて零ではないので、$c_k\ne0$ となる最小の $k$ が存在する。
$j< p_k$ とする。$i\ge k$ なら $p_i\ge p_k>j$ であり、第 $i$ 行では主成分より左の成分は零である。また $i< k$ では $c_i=0$ である。したがって $\boldsymbol{v}$ の第 $j$ 成分は零である。
第 $p_k$ 成分を見る。簡約条件により $(\boldsymbol{r}_k)_{p_k}=1$ であり、$i\ne k$ では $(\boldsymbol{r}_i)_{p_k}=0$ である。よって
$$ v_{p_k}=c_k\ne0. $$
したがって $\boldsymbol{v}$ の最初の非零成分は第 $p_k$ 成分である。
逆に各行 $\boldsymbol{r}_i$ 自身が行空間に属し、その先頭位置は $p_i$ である。

証明を読む前の見取り図

行空間が同じなら、補題により非零ベクトルに可能な先頭位置も同じなので、主成分列が一致します。その後、対応する二行の差がすべての主成分列で零になることを使います。

簡約行階段形の一意性

二つの簡約行階段形行列が行同値なら、それらは等しい。

主成分列と各行を順に固定する

$R,S$ を行同値な簡約行階段形とする。行同値なので行空間は同じである。前の補題により、共通の行空間に属する非零ベクトルに可能な先頭位置の集合は、$R$ の主成分列の集合でもあり、$S$ の主成分列の集合でもある。したがって主成分列は一致する。その位置を
$$ p_1< p_2<\cdots< p_r $$
とする。
$R$ の第 $i$ 非零行を $\rho_i$、$S$ の第 $i$ 非零行を $\sigma_i$ とする。簡約条件から、主成分列だけを抜き出した成分はどちらも
$$ (\rho_i)_{p_j}=(\sigma_i)_{p_j}=\begin{cases}1&i=j,\\0&i\ne j.\end{cases} $$
である。
$R,S$ の行空間は同じなので、$\rho_i-\sigma_i$ もこの共通の行空間に属する。$R$ の非零行は行空間を生成するから
$$ \rho_i-\sigma_i=c_1\rho_1+\cdots+c_r\rho_r $$
と書ける。両辺の第 $p_j$ 成分を見る。左辺は、$\rho_i$ と $\sigma_i$ がともに主成分列上で同じ標準単位ベクトルの成分をもつため0である。右辺では $\rho_j$ だけが第 $p_j$ 成分1をもち、他は0なので、その成分は $c_j$ である。したがってすべての $c_j=0$ で、$\rho_i=\sigma_i$ である。すべての非零行が一致し、零行の個数も行列の行数から一致するので $R=S$ である。

二つの経路で確かめる

$$ A=\begin{pmatrix}1&2&1\\2&4&0\end{pmatrix} $$
に対し、$R_2\leftarrow R_2-2R_1$ とすると
$$ \begin{pmatrix}1&2&1\\0&0&-2\end{pmatrix} \longrightarrow \begin{pmatrix}1&2&0\\0&0&1\end{pmatrix}. $$
一方、最初に行を交換してから消去しても、最後は同じ行列になります。一意性定理によって、すべての経路を個別に比較する必要はありません。

階段形は一意ではない

$$ \begin{pmatrix}1&2\\0&1\end{pmatrix} \quad\text{と}\quad \begin{pmatrix}2&4\\0&3\end{pmatrix} $$
はともに階段形になり得るが一致しない。主成分を1にし、その上下を零にする簡約条件が一意性に必要である。

演習

簡約

$$ \begin{pmatrix}1&1&2\\2&3&5\\1&2&3\end{pmatrix} $$
を簡約行階段形にせよ。

解答

$R_2\leftarrow R_2-2R_1$、$R_3\leftarrow R_3-R_1$ により
$$ \begin{pmatrix}1&1&2\\0&1&1\\0&1&1\end{pmatrix}. $$
$R_3\leftarrow R_3-R_2$、$R_1\leftarrow R_1-R_2$ により
$$ \begin{pmatrix}1&0&1\\0&1&1\\0&0&0\end{pmatrix}. $$

行空間を保つこと

一つの行に別の行の $c$ 倍を加える行基本変形が、行空間を変えないことを、両方向の包含を示して証明せよ。

解答

変形前の行を $\boldsymbol{r}_1,\ldots,\boldsymbol{r}_m$ とし、第 $i$ 行を
$$ \boldsymbol{r}'_i=\boldsymbol{r}_i+c\boldsymbol{r}_j $$
で置き換えたとする。他の行は変わらない。新しい各行は旧行の線形結合なので、変形後の行空間は変形前の行空間に含まれる。
逆に
$$ \boldsymbol{r}_i=\boldsymbol{r}'_i-c\boldsymbol{r}_j $$
であり、旧第 $i$ 行も新しい行の線形結合で表せる。他の旧行はそのまま残るので、変形前の行空間は変形後の行空間に含まれる。よって両者は等しい。

主成分位置の判定

$$ R=\begin{pmatrix} 1&0&2&0\\ 0&1&-1&0\\ 0&0&0&1 \end{pmatrix} $$
の行空間に、先頭の非零成分が第3成分にあるベクトルが存在しないことを、係数を置いて直接示せ。

解答

行空間の任意のベクトルは
$$ a(1,0,2,0)+b(0,1,-1,0)+c(0,0,0,1) =(a,b,2a-b,c) $$
と書ける。先頭の非零成分が第3成分にあるためには第一・第二成分が零なので $a=b=0$ でなければならない。しかしそのとき第三成分 $2a-b$ も零になる。したがってそのような非零ベクトルは存在しない。

次は主成分の個数を階数と呼び、方程式の可解性と自由度を統一的に判定します。

このページで回収したもの

計算手順の偶然を除き、行列そのものに属する標準形を得た。階数の定義が安定する。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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