3-5 線形写像の行列表示

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

線形写像を有限個の数だけで完全に記録するには、何を並べればよいだろうか。
このページでできるようになること
基底の像を列に並べて行列表示を作り、写像の合成を行列積へ翻訳できるようになる。
線形写像は基底を選ばなくても定義できますが、具体的に計算するには座標が必要です。このページでは、行列を線形写像そのものではなく、選んだ二つの基底の間の「翻訳表」として導入します。この見方によって、基底を変えると数値は変わっても、写像の本質は変わらないことが分かります。

写像を列で記録する

$V$ の基底 $B=(v_1,\dots,v_n)$ と $W$ の基底 $C=(w_1,\dots,w_m)$ を選びます。$T(v_j)$ の $C$ に関する座標を第 $j$ 列に並べた行列を $[T]_{C\leftarrow B}$ と書きます。すると
$$[T(x)]_C=[T]_{C\leftarrow B}[x]_B.$$
この等式は、行列の積が線形写像の合成に対応する理由でもあります。

証明を読む前の見取り図

入力の座標展開へ線形性を適用し、出力座標が列の線形結合になることを示す。

合成写像の行列

$T\colon V\to W$、$S\colon W\to X$ を線形写像とし、$V,W,X$ の基底をそれぞれ $B,C,D$ とする。このとき
$$ [S\circ T]_{D\leftarrow B} = [S]_{D\leftarrow C}[T]_{C\leftarrow B}. $$

任意の座標ベクトルへの作用を比較する

任意の $x\in V$ に対して
$$ \begin{aligned} [(S\circ T)(x)]_D &=[S(T(x))]_D\\ &=[S]_{D\leftarrow C}[T(x)]_C\\ &=[S]_{D\leftarrow C}[T]_{C\leftarrow B}[x]_B. \end{aligned} $$
一方、行列表示の定義から
$$ [(S\circ T)(x)]_D=[S\circ T]_{D\leftarrow B}[x]_B. $$
二つの行列はすべての座標ベクトル $[x]_B$ に同じ作用をする。特に標準基底ベクトルを順に代入すれば各列が一致するので、行列そのものが等しい。

証明を読む前の見取り図

入力の座標展開へ線形性を適用し、出力座標が列の線形結合になることを示す。

同じ空間 $V$ の二つの基底 $B,B'$ に対し、$P$ を $B'$ 座標から $B$ 座標への変換行列とする。線形変換 $T:V\to V$ の行列は
$$[T]_{B'}=P^{-1}[T]_BP$$
を満たす。

任意の $x$ について $[x]_B=P[x]_{B'}$ です。したがって
$$[T(x)]_{B'}=P^{-1}[T(x)]_B=P^{-1}[T]_B[x]_B=P^{-1}[T]_BP[x]_{B'}.$$
すべての座標ベクトルについて成り立つので行列が一致します。

この関係を相似と呼びます。階数、行列式、固有多項式は相似で変わらず、基底に依らない写像の性質を表します。

計算例

$T(x,y)=(x+y,y)$ を標準基底で表すと
$A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ です。新基底 $B'=((1,0),(1,1))$ では
$P=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ なので $[T]_{B'}=P^{-1}AP=A$ です。この例では写像自身が基底変換行列と同じ形をもちましたが、一般には行列の数値は変わります。

多項式の微分を二つの基底で表す

$D\colon\mathbb{R}[t]_{\le2}\to\mathbb{R}[t]_{\le2}$、$D(p)=p'$ とします。標準的な基底
$$ B=(1,t,t^2) $$
では
$$ D(1)=0, \qquad D(t)=1, \qquad D(t^2)=2t $$
なので
$$ [D]_B= \begin{pmatrix} 0&1&0\\ 0&0&2\\ 0&0&0 \end{pmatrix}. $$
別の基底
$$ C=(1,1+t,(1+t)^2) $$
を取ります。
$$ D(1)=0, $$
$$ D(1+t)=1, $$
$$ D((1+t)^2)=2(1+t). $$
したがって
$$ [D]_C= \begin{pmatrix} 0&1&0\\ 0&0&2\\ 0&0&0 \end{pmatrix}. $$
この例では、変数を $t$ から $1+t$ へ平行移動した形の基底を選んでも、微分の規則が同じ形で見えました。基底の選択は単なる記号変更ではなく、写像の規則が見やすい座標を探す操作です。

何が基底に依存しないか

証明を読む前の見取り図

入力の座標展開へ線形性を適用し、出力座標が列の線形結合になることを示す。

相似な行列の核と像

$A'=P^{-1}AP$ で $P$ が可逆なら
$$ \dim\ker A'=\dim\ker A, \qquad \dim\operatorname{im}A'=\dim\operatorname{im}A. $$

可逆な座標変換で対応させる

$A'x=0$ であることは
$$ P^{-1}APx=0 $$
と同値である。左から $P$ を掛けると
$$ APx=0. $$
したがって $x\mapsto Px$ は $\ker A'$ から $\ker A$ への線形写像である。$P$ は可逆なので逆写像は $y\mapsto P^{-1}y$ であり、核どうしは線形同型である。よって次元が等しい。
また
$$ \operatorname{im}A' =\{P^{-1}APx\mid x\} =P^{-1}(\operatorname{im}A) $$
である。$P^{-1}$ の制限は $\operatorname{im}A$ から $\operatorname{im}A'$ への線形同型なので、像の次元も等しい。

同じ写像の行列成分は基底によって変わりますが、核や像の次元は変わりません。後に行列式と固有多項式も相似で変わらないことを、それぞれの性質から証明します。

反例:異なる行列を無条件に比較できない

同じ数表でも、基底を指定しなければどの線形写像を表すかは決まらない。逆に、同じ線形写像でも基底が違えば異なる数表になる。「行列が等しい」と「線形写像が同じ」を混同せず、定義域と終域の基底を記録する必要がある。

演習と解答

微分の行列表示

$D\colon\mathbb{R}[t]_{\le2}\to\mathbb{R}[t]_{\le1}$ の行列を、定義域の基底 $(1,t,t^2)$ と終域の基底 $(1,t)$ に関して求めよ。

解答

$D(1)=0$、$D(t)=1$、$D(t^2)=2t$。それぞれの終域基底に関する座標を列に並べるので
$$ [D]=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&2\end{pmatrix}. $$

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同じ線形写像でも基底を替えると行列表示は変わります。次のページでは、旧座標と新座標の変換を追跡し、同じ自己準同型の行列が相似変換で結ばれることを証明します。

このページで回収したもの

抽象的な働きと具体的な行列を往復できる。微分も通常の行列計算で扱える。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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