1-8 斉次系と非斉次系の解構造

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

非斉次方程式の解が二つ見つかったとき、その差にはどんな規則があるだろうか。
このページでできるようになること
非斉次系の全解を、特解と核の和として記述できるようになる。
第1章では連立方程式を計算してきました。ここでは、得られた結果を一つの構造定理へまとめます。非斉次方程式の解集合は、存在するなら斉次解空間の平行移動です。

斉次解は加法と数倍で閉じる

$$ N(A):=\{x\in K^n\mid Ax=0\} $$
と置きます。$x,y\in N(A)$、$a,b\in K$ なら
$$ A(ax+by)=aAx+bAy=0. $$
したがって斉次解を足したり数倍したりしても斉次解です。次章では、この性質を部分空間と呼びます。

証明を読む前の見取り図

二解の差が斉次解になることと、特解へ斉次解を足せば再び解になることを両方向から示す。

非斉次解集合の構造

$Ax=b$ が一つの解 $x_0$ をもつなら、解全体は
$$ x_0+N(A)=\{x_0+v\mid v\in N(A)\} $$
である。

$x$ が任意の解なら
$$ A(x-x_0)=Ax-Ax_0=b-b=0 $$
なので $x-x_0\in N(A)$。したがって $x=x_0+v$ と書ける。
逆に $v\in N(A)$ なら
$$ A(x_0+v)=Ax_0+Av=b+0=b $$
なので $x_0+v$ は解である。両方の包含が示された。

位置と形を分離する

$$ \begin{cases} x+y+z=2,\\ 2x+2y+2z=4 \end{cases} $$
の一つの解は $x_0=(2,0,0)^{\mathsf T}$ です。斉次系で $y=s,z=t$ とすると $x=-s-t$ なので
$$ N(A)=\left\{ s\begin{pmatrix}-1\\1\\0\end{pmatrix} +t\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix} \mathrel{\Big|}s,t\in K \right\}. $$
したがって解全体は
$$ \begin{pmatrix}2\\0\\0\end{pmatrix} +s\begin{pmatrix}-1\\1\\0\end{pmatrix} +t\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix}. $$
$x_0$ は位置を決め、$N(A)$ は解集合の方向と自由度を決めます。別の一つの解を基準に選んでも、同じ集合になります。

証明を読む前の見取り図

二解の差が斉次解になることと、特解へ斉次解を足せば再び解になることを両方向から示す。

基準解によらないこと

$x_0,x_1$ がともに $Ax=b$ の解なら
$$ x_0+N(A)=x_1+N(A). $$

$A(x_1-x_0)=b-b=0$ だから $x_1-x_0\in N(A)$。任意の $v\in N(A)$ に対し
$$ x_0+v=x_1+(x_0-x_1+v), $$
括弧内は $N(A)$ に属する。よって左辺の集合は右辺に含まれる。$x_0,x_1$ を交換して逆の包含も得る。

多項式条件への転用

二次以下の多項式で $p(0)=1,p(1)=2$ を満たすものは
$$ p(t)=1+t+c(t^2-t) $$
でした。一つの解 $1+t$ と、二点で零になる多項式全体 $c(t^2-t)$ の和です。数ベクトルでなくても、条件が加法と数倍に両立すれば同じ構造が現れます。

解がない場合

$Ax=b$ に解がなければ、基準解 $x_0$ を選べないため上の表示は作れない。空集合を斉次解空間の平行移動と呼ばない。最初に階数条件で存在を判定する必要がある。

第1章で得たもの

  • 行列は連立方程式と線形な作用を記録する。
  • 行列積は作用の合成を表す。
  • 行基本変形は解集合を保つ。
  • 簡約行階段形は一意である。
  • 階数は可解性と自由変数の個数を支配する。
  • 可逆行列はすべての右辺に一意な解を与える。
  • LU分解は消去を再利用可能にする。
    次章では、斉次解、多項式、関数に共通する「足せる・数倍できる」という性質だけを抽出し、ベクトル空間を導入します。
解集合の差

$x_1,x_2$ が $Ax=b$ の解なら $x_1-x_2$ が斉次解であることを示せ。また、斉次解 $v$ に対して $x_1+v$ が非斉次系の解であることを示せ。

解答

線形性から
$$ A(x_1-x_2)=Ax_1-Ax_2=b-b=0, $$
$$ A(x_1+v)=Ax_1+Av=b+0=b. $$

このページで回収したもの

答えの位置と形を分離できた。この構造は後の核・商空間・最小二乗で繰り返し現れる。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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