0-6 同値関係と商集合

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

時計の1時と13時、整数の1と「5で割ると1余る整数全部」を、目的に応じて同じものとして扱うには何が必要だろうか。
このページでできるようになること
同値関係で「区別しない違い」を指定し、同値類と商集合を矛盾なく作れるようになる。
線形代数では、積分定数の違いや核に属するベクトルの違いを無視して商空間を作ります。その定義が正しく働くためには、代表元を取り替えても計算結果が変わらないことを確認しなければなりません。ここでは集合の段階で、その論理を準備します。

関係と同値関係

二項関係

集合 $A$ 上の二項関係とは、直積 $A\times A$ の部分集合 $R$ のことである。$(x,y)\in R$ のとき、通常 $x\mathrel{R}y$ と書く。

たとえば実数上の大小関係 $\le$、整数上の「差が5の倍数」、平面の直線上の「平行である」などが二項関係です。

同値関係

集合 $A$ 上の関係 $\sim$ が次の三条件を満たすとき、$\sim$ を同値関係という。

  1. 反射律:任意の $x\in A$ について $x\sim x$。
  2. 対称律:任意の $x,y\in A$ について、$x\sim y$ なら $y\sim x$。
  3. 推移律:任意の $x,y,z\in A$ について、$x\sim y$ かつ $y\sim z$ なら $x\sim z$。

三条件にはそれぞれ役割があります。反射律がなければ対象が自分自身と同じでなく、対称律がなければ「同じ」が一方向だけになり、推移律がなければ同じものをまとめた集団の境界が壊れます。

例:整数を余りで分類する

整数 $a,b$ に対し
$$ a\sim b \quad\Longleftrightarrow\quad 5\mid(a-b) $$
と定めます。これは「$a$ と $b$ を5で割った余りが同じ」という関係です。

合同関係は同値関係

正整数 $n$ を固定する。整数上の関係
$$ a\equiv b\pmod n \quad\Longleftrightarrow\quad n\mid(a-b) $$
は同値関係である。

反射律を示す。任意の整数 $a$ について $a-a=0=n\cdot0$ だから $n\mid(a-a)$、したがって $a\equiv a\pmod n$ である。
対称律を示す。$a\equiv b\pmod n$ なら、ある整数 $k$ により $a-b=nk$ と書ける。すると
$$ b-a=n(-k) $$
だから $b\equiv a\pmod n$ である。
推移律を示す。$a\equiv b\pmod n$ かつ $b\equiv c\pmod n$ なら、ある整数 $k,l$ により
$$ a-b=nk, \qquad b-c=nl $$
と書ける。両式を足すと
$$ a-c=n(k+l) $$
なので $a\equiv c\pmod n$ である。
三条件がすべて確認されたから、合同関係は同値関係である。

同値類と商集合

同値類と商集合

集合 $A$ 上の同値関係 $\sim$ と $x\in A$ に対して
$$ [x]:=\{y\in A\mid y\sim x\} $$
を $x$ の同値類という。同値類全体の集合
$$ A/{\sim}:=\{[x]\mid x\in A\} $$
を $A$ の $\sim$ による商集合という。

$x$ は同値類 $[x]$ を表す一つの代表元です。しかし代表元は一意ではありません。5を法とする合同関係では
$$ [1]=\{\ldots,-9,-4,1,6,11,\ldots\}=[6]=[-4] $$
です。

同値類は一致するか交わらない

同値関係 $\sim$ に関する二つの同値類 $[x],[y]$ は、等しいか、共通部分をもたないかのどちらかである。さらに各 $x\in A$ はちょうど一つの同値類に属する。

証明の見取り図

二つの同値類が一点 $z$ を共有すると仮定します。$x\sim z$ と $z\sim y$ をつないで $x\sim y$ を得れば、どちらの代表元から見ても同じ要素が集まることを示せます。

$[x]\cap[y]\ne\varnothing$ と仮定し、$z\in[x]\cap[y]$ を取る。$z\in[x]$ から $z\sim x$、$z\in[y]$ から $z\sim y$ である。対称律により $x\sim z$ であり、推移律から $x\sim y$ を得る。
任意の $u\in[x]$ を取る。$u\sim x$ かつ $x\sim y$ なので、推移律により $u\sim y$、したがって $u\in[y]$ である。よって $[x]\subset[y]$ である。同様に、$x\sim y$ の対称律と推移律を使って $[y]\subset[x]$ も得る。ゆえに $[x]=[y]$ である。
したがって二同値類が交わるなら一致する。対偶を取れば、異なる二同値類は交わらない。
最後に任意の $x\in A$ について、反射律から $x\sim x$ なので $x\in[x]$ である。もし $x\in[y]$ でもあれば $[x]$ と $[y]$ は交わるため一致する。よって $x$ はちょうど一つの同値類に属する。

商集合上に演算を定める

整数を5で割った余りの類について
$$ [a]+[b]:=[a+b] $$
と定めたいとします。しかし $[a]$ には $a+5$ など別の代表元もあります。代表元を変えて答えが変わらないことを確認する必要があります。

well-defined

同値類の代表元を用いて定めた規則が、代表元の選び方に依存しないとき、その規則は**well-defined**、すなわち矛盾なく定義されているという。

剰余類の加法と乗法はwell-defined

$a\equiv a'\pmod n$、$b\equiv b'\pmod n$ なら
$$ a+b\equiv a'+b'\pmod n, \qquad ab\equiv a'b'\pmod n. $$
したがって
$$ [a]+[b]:=[a+b], \qquad [a][b]:=[ab] $$
は代表元の選び方によらない。

仮定から、ある整数 $k,l$ により
$$ a-a'=nk, \qquad b-b'=nl $$
と書ける。加法について
$$ (a+b)-(a'+b')=(a-a')+(b-b')=n(k+l) $$
なので $a+b\equiv a'+b'\pmod n$ である。
乗法について
$$ ab-a'b'=a(b-b')+b'(a-a')=a(nl)+b'(nk)=n(al+b'k) $$
なので $ab\equiv a'b'\pmod n$ である。よってどの代表元を使っても同じ同値類が得られる。

非例:推移律を外すと分類にならない

実数上で $x\sim y$ を $|x-y|<1$ と定めます。反射律と対称律は成り立ちます。しかし
$$ 0\sim0.75, \qquad 0.75\sim1.5 $$
である一方、$0\not\sim1.5$ です。推移律がないので同値関係ではなく、「互いに近い数を同じ箱へ入れる」一貫した分類にはなりません。

線形代数への予告

ベクトル空間 $V$ の部分空間 $W$ に対して
$$ v\sim v' \quad\Longleftrightarrow\quad v-v'\in W $$
と定めると同値関係になります。同値類
$$ v+W=\{v+w\mid w\in W\} $$
を剰余類といい、その全体が商空間 $V/W$ です。「$W$ 方向の違いを無視する」という操作が、積分定数や方程式の非一意性を整理します。

演習

確認

同値関係の判定

整数上で $a\sim b$ を「$a$ と $b$ の偶奇が同じ」と定める。これが同値関係であることを示し、商集合を記述せよ。

解答

任意の整数 $a$ は自分自身と同じ偶奇なので反射律が成り立つ。$a,b$ の偶奇が同じなら $b,a$ の偶奇も同じなので対称律が成り立つ。$a,b$ の偶奇が同じで、$b,c$ の偶奇も同じなら、$a,c$ の偶奇が同じなので推移律が成り立つ。
同値類は偶数全体 $[0]=2\mathbb{Z}$ と奇数全体 $[1]=2\mathbb{Z}+1$ の二つである。したがって商集合は $\{[0],[1]\}$ である。

理由

代表元の一致

同値関係について
$$ [x]=[y]\quad\Longleftrightarrow\quad x\sim y $$
を証明せよ。

解答

$[x]=[y]$ とする。反射律から $x\in[x]$ なので $x\in[y]$ でもあり、同値類の定義から $x\sim y$ である。
逆に $x\sim y$ とする。任意の $u\in[x]$ について $u\sim x$ であり、推移律から $u\sim y$、よって $u\in[y]$ である。したがって $[x]\subset[y]$。対称律から $y\sim x$ でもあるので、同じ議論で $[y]\subset[x]$。ゆえに $[x]=[y]$ である。

転用

時計の商集合

実数上で $x\sim y$ を $x-y\in12\mathbb{Z}$ と定める。この関係が同値関係であることを示し、$[1]=[13]=[-11]$ を確認せよ。また $[x]+[y]=[x+y]$ がwell-definedである理由を説明せよ。

解答

$x-x=0\in12\mathbb{Z}$ なので反射律が成り立つ。$x-y=12k$ なら $y-x=12(-k)$ なので対称律が成り立つ。$x-y=12k$、$y-z=12l$ なら $x-z=12(k+l)$ なので推移律が成り立つ。
$1-13=-12$、$1-(-11)=12$ はともに $12\mathbb{Z}$ に属するため $[1]=[13]=[-11]$ である。
$x\sim x'$、$y\sim y'$ なら $x-x',y-y'\in12\mathbb{Z}$ であり、
$$ (x+y)-(x'+y')=(x-x')+(y-y')\in12\mathbb{Z}. $$
したがって $[x+y]=[x'+y']$ で、加法は代表元の選び方によらない。

このページで回収したもの

「同じものとみなす」は曖昧な比喩ではなく、反射律・対称律・推移律を満たす関係と、その同値類によって厳密に実現できます。商空間では、この仕組みに線形演算を加えます。
次章から行列と連立一次方程式へ進みます。同値関係と多項式論は、必要になる章で再び呼び戻します。

参考文献

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線形代数学I ― 連立方程式からベクトル空間・線形写像までの表紙
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