1-5 階数と可解性

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

未知数と方程式の本数だけで、解の有無や自由度を判定してよいだろうか。
このページでできるようになること
係数行列と拡大係数行列の階数から、解なし・一意・無数を分類できるようになる。
簡約行階段形が一意であるため、主成分の個数は消去順序に依存しません。この数は、行列が保持する独立な条件の個数と、写像が到達できる方向の個数を測ります。

階数

階数

行列 $A$ の簡約行階段形に現れる主成分の個数を $A$ の階数と呼び、$\operatorname{rank}A$ と書く。

行基本変形は簡約形を変えないので階数を変えません。階数は非零行の個数であり、主成分列の個数でもあります。

階数の基本的な上限

$A\in M_{m,n}(K)$ なら
$$ 0\le\operatorname{rank}A\le\min\{m,n\}. $$
また $\operatorname{rank}A=0$ であることと $A=O$ は同値である。

階数は主成分の個数なので非負整数である。一つの行に主成分は高々一つであり、異なる主成分は異なる列にある。したがって主成分は行数 $m$ 以下かつ列数 $n$ 以下であり、階数は $\min\{m,n\}$ 以下である。
$A=O$ なら簡約形も零行列で主成分がないため階数は0である。逆に階数が0なら簡約形は零行列である。行基本変形は可逆なので、零行列と行同値な行列は零行列だけであり、$A=O$ である。

解が存在しない印

拡大係数行列を簡約したとき
$$ \begin{pmatrix}0&\cdots&0&|&1\end{pmatrix} $$
という行が現れれば、対応する式は $0=1$ なので解はありません。逆にこの形がなければ、自由変数を任意に選び、最下行から主変数を決められます。

証明を読む前の見取り図

階段形で矛盾行の有無を調べ、主変数の数と自由変数の数を数える。

Rouché--Capelliの階数条件

$A\in M_{m,n}(K)$、$b\in K^m$ とする。$Ax=b$ が解をもつための必要十分条件は
$$ \operatorname{rank}A=\operatorname{rank}(A\mid b) $$
である。

拡大係数行列を簡約する。係数部分がすべて零で定数項だけが非零の行があれば解はなく、その行は拡大係数行列にだけ主成分を一つ加えるので二つの階数は異なる。
そのような行がなければ、自由変数へ任意の値を代入する。各非零行には一つの主変数があり、最下行から上へ進むと、右側にある変数はすでに決まっているので主変数を一意に解ける。したがって少なくとも一つ解がある。この場合、最後の列にだけ新しい主成分はないので階数は等しい。以上で両方向が示された。

自由変数の個数

$A$ が $n$ 列で階数 $r$ なら、主変数は $r$ 個、自由変数は $n-r$ 個です。斉次方程式では、各自由変数を一つずつ1、残りを0にして得られる $n-r$ 本の特殊解から、すべての解を線形結合で作れます。後にこれを
$$ \dim\ker A=n-\operatorname{rank}A $$
という次元定理として座標に依らず証明します。

三つの場合を一度に分類する

$$ A=\begin{pmatrix}1&2&-1\\2&4&-2\end{pmatrix} $$
は階数1です。

  • $b=(3,6)^{\mathsf T}$ なら拡大行列の階数も1で、自由変数が2個あるため無数の解。
  • $b=(3,7)^{\mathsf T}$ なら拡大行列の階数は2で、解なし。
    一方、正方行列で階数が列数に等しければ自由変数はなく、解が存在すれば一意です。

多項式補間への転用

$p(t)=a+bt+ct^2$ に $p(0),p(1),p(2)$ を指定する問題は
$$ \begin{pmatrix}1&0&0\\1&1&1\\1&2&4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}y_0\\y_1\\y_2\end{pmatrix} $$
です。係数行列を消去すると主成分が3個現れます。したがって任意の三つの値 $y_0,y_1,y_2$ に対して二次以下の補間多項式がただ一つ存在します。個々の $y_i$ ごとに解き直さず、階数だけで存在と一意性を同時に判定できました。

行数や列数だけでは階数は決まらない

同じ $2\times2$ 行列でも
$$ \begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix} $$
の階数は2、
$$ \begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix} $$
の階数は1、零行列の階数は0である。型は可能な最大階数を与えるだけである。

演習

パラメータと可解性

$$ \begin{cases}x+y=1,\\2x+2y=a\end{cases} $$
が解をもつ $a$ を求め、そのときの解全体を表せ。

解答

第二式から第一式の2倍を引くと $0=a-2$ である。したがって $a=2$ のときに限り解が存在する。そのとき $y=t$ と置けば $x=1-t$ なので
$$ \begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix} +t\begin{pmatrix}-1\\1\end{pmatrix}. $$

解の個数を階数で分類する

$A\in M_{m,n}(K)$ とし、$A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}$ が可解であるとする。$\operatorname{rank}A=n$ なら解が一意であり、$\operatorname{rank}A< n$ なら $K$ が無限体の場合に解が無限個あることを示せ。

解答

$\operatorname{rank}A=n$ なら全列が主成分列で、自由変数がない。階段形を下から解けば各主変数は一意に決まるため、解は一意である。
$\operatorname{rank}A=r< n$ なら自由変数が $n-r\ge1$ 個ある。可解性を仮定しているので、一つの特解がある。自由変数の一つを任意の $t\in K$ とし、残りを固定すれば、それぞれ異なる $t$ から異なる解が得られる。$K$ が無限体なら $t$ の選択肢が無限にあるため、解も無限個ある。
有限体では解は有限個である。たとえば $\mathbb{F}_2$ で自由変数が一個なら選択肢は2個である。

補間の一意性を検算する

二次以下の多項式 $p$ が $p(0)=0,p(1)=1,p(2)=4$ を満たすとき、係数行列を消去して $p(t)=t^2$ が唯一の解であることを示せ。

解答

$p(t)=a+bt+ct^2$ と置くと
$$ \left( \begin{array}{ccc|c} 1&0&0&0\\ 1&1&1&1\\ 1&2&4&4 \end{array} \right). $$
$R_2\leftarrow R_2-R_1$、$R_3\leftarrow R_3-R_1$ により
$$ \left( \begin{array}{ccc|c} 1&0&0&0\\ 0&1&1&1\\ 0&2&4&4 \end{array} \right), $$
さらに $R_3\leftarrow R_3-2R_2$ により
$$ \left( \begin{array}{ccc|c} 1&0&0&0\\ 0&1&1&1\\ 0&0&2&2 \end{array} \right). $$
三列すべてに主成分があるので解は一意で、$c=1,b=0,a=0$、すなわち $p(t)=t^2$ である。三点への代入で検算できる。

次は、階数が最大の正方行列について、作用を完全に元へ戻す逆行列を構成します。

このページで回収したもの

本数ではなく独立な条件の数が本質だと分かった。この考えは次元定理へつながる。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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